活動を再開したPKクラン
「まず新勢力のクランというのは、照会したところ服装に似たような既存のPKクランは確認できなかったからです」
「ネットでも噂になっていたが、そうだったか」
「あ、俺が捕まえた奴は何か話しましたか?」
俺が思い出してそう聞くと、小泉さんは渋い顔をして答えた。
「いや、情報漏洩対策の魔法がかかっていました。対象の魔力を消費し続けて持続するようで、彼の魔力が尽きないと情報を吐かせられません。無理に聞き出そうとすると脳が焼ききれてしまうので」
しかも魔力が尽きるということは死を意味する。無理に吐かせようとすると死に、魔法が解ける時も死ぬ。対策は完璧のようだ。
「通常の魔法なら我々も解析し解除することができるのですが、全く見たことない構築で作られているみたいでして、相当解除に時間がかかると思われます」
「なるほど、それで?」
「『プロステリータス』の位置情報を使わせていただきたいのです」
プロステリータスに所属する探索者は、探索者が身分の証明などに使うアプリのGPS機能により、位置情報を常に本部のサーバーに共有されている。
本来、位置情報がわかるのは探索者協会のみだが、交渉によりクランメンバーの位置情報のみ共有されるようになった。
「確かに相手の出没傾向はわかるかも知れないが……なぜウチなんだ?探索者協会に掛け合えばウチの数倍のビッグデータが手に入るだろう」
「それがですね……こう言ってしまうと失礼かもしれませんが……今回の件はPKパーティーがただ探索者を襲った。所謂『ありふれた普通のPK』なんです。複数のPKパーティーが協力したり、数十人がたった一人に殺されたりといった凶悪犯罪には程遠い。だから探索者協会も出し渋ってるんですね」
「だから位置情報が唯一わかるウチに協力を求めたと」
「そういうことです」
腕を組んで社長が考え込む。
「協力してもいいが…この話は世間様には公表しないんだな?」
「ええ、表には出さず、我々だけで内密に動くつもりです」
「そうか、じゃあ質問だが、なぜ警視庁が『ありふれた普通のPK』を起こした規模も不明のPKパーティーをここまでして警戒するんだ?ああ、もちろん彼らを捕まえてほしくないわけじゃない」
無表情で社長がそう問う。
「我々だけ、という言い回しも気になる。それはダンジョン犯罪対策課という意味の我々か、それとも、ここにいる11人でという意味の我々か?」
「……後者です」
「なら、それは上層部に伝えず独断で動くということだな?この捜査がバレた時、私達の立場はどうなる?」
「……ご自分の立場を気にしておいでなのですか?」
「私の立場一つでPKパーティーを捕まえられるなら喜んでこの席を降りよう。ただ、プロステリータスには数百人の探索者と数百人の事務職員がいる。彼らを巻き込む訳にはいかない」
紫の瞳が決然とした意思を宿す。
「この件に対して、何か隠していることがあるなら正直に話してほしい。でなければ協力はしない。私達も私達で好きにやらせてもらう」
それを聞いた小泉さんは観念したように息を吐いた。
「……分かりました。話しましょう」
腕の端末からプロジェクターを起動し、一人の男の画像が映し出される。
「この人物をご存知ですか?」
「いや、知らないな。来栖君は?」
「俺も知らないです」
「この男の氏名は
「聞いたことがないな。すぐに潰れたのか?」
「いえ、潰れたというより、ある日突然姿を消しました」
画面がスライドし、ある事件の操作記録が映された。
「私がまだ課長になる前の、一ダンジョン犯罪捜査官として働いていた頃に起きた事件です。事件の特徴は小規模アマチュアクランを標的とし、遺体全員の顔に黒い布を被せていました」
「聞いたことないですね」
俺が口を挟むと小泉さんは苦い表情をした。
「この頃はまだPKがそれほど知られてはいませんでしたから。ダンジョン内で探索者が亡くなっていても魔物にやられたものとして処理されていましたし」
しかし実際は違うのだそうだ。明らかに事件性のある遺体は裏で解剖され捜査が行われていたらしい。
それが公表されなかったのは、当時殆どのダンジョンが国営であり、世間がダンジョンに対してマイナスなイメージを持つことでダンジョン探索によって発生する国の利益が減ることを恐れたからだった。
「この事件も、傷口などは魔物に襲われたことによってできたものだとして、最初は事件性のないものとして処理されていたのですが、似たような遺体が短期間に何度も複数のダンジョンから見つかりました。それを受けて私は捜査を開始し、浮かんできたのが彼が代表を務めるプロクランです」
小泉さんが続ける。
「彼は自身のスキルを使い、探索者の位置を誤認させてMPK《モンスタープレイヤーキル》を行っていたようで」
「逮捕できたんですか?」
「いえ、逮捕状を取ろうとしたところで逃げられたんです。クランごと」
「夜逃げですか」
「あれから十数年立ってますが、未だに動向はつかめていません。――昨日までは」
「つまり」
「そう、来栖君が捕まえた子が『ミラージュ』と呼んでいた男。声と背格好が火煙遊糸と一致しました」
部屋に沈黙が降りる。
「つまり、十数年前に失踪したPK犯罪の容疑者が新たなPKクランを立ち上げ復活したと。あなたは以前のリベンジをしたいわけだ」
「ええ、役職柄もう前線には立てませんから。彼に手錠を掛けることは私の悲願なんです」
社長が両肘を着いて小泉さんの意見を吟味する。
「まず、プロステリータスが協力をするのはPKの被害に遭った際のクランメンバーの位置情報の共有でいいんだな?」
「はい。対処は制圧部隊と私の直属の部下が行います」
「そうか、なら一つ条件を付けてくれ。『私個人を捜査に協力させること』だ」
「社長?」
「もちろん私が制圧部隊に入ったりなんかはしないさ。スキルも持っていないし、足手まといになるだけだ。ただ、情報捜査に関しては相当な実力を持っていると自負している」
いや確かにダンジョン周辺の半径1キロの監視カメラを全部ハッキングしきって証拠も残さないくらいは実力あるんだろうけど。
この人、結構大事なこと忘れてない?
「それで情報が得られるのなら寧ろ協力してほしいくらいです」
「じゃあそれでいこう」
「社長、俺がとやかく言う権利はないですけど…クランの運営と朝霞さんへの説明はどうするんですか?」
「……」
ピシッ、と社長の表情が固まる。
「……来栖くん、なんとかして悠音を説得してくれないカナ…?」
「…ご自分で、頑張ってください…」
初めて会った時のあの社長の怯え様からして、怒った朝霞さんは相当おっかないのだろう。
触らぬ神に祟りなしだ。俺は知らぬふりをさせてもらおう。
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