第7話 技術新棟
人員増加に伴い、古いビルから本社内に建てられた新しい二十階建てのビルに移ることになった。遠くからでも良く見えるこのビルの名称は技術新棟である。
ワンフロアに六十人程度が入るビルだ。最上階は社長とその秘書の部屋になっている。十九階は重要な会議のための会食室だ。
朝はエレベータ付近が地獄になる。大きなエレベータが何台かあり、それにびっしりと人間が詰まって使うのだが、それでも最低でも十分は待たないとエレベータには乗ることができない。明らかな計算ミスである。
遅刻寸前の連中は殺気を全身から漏らしながらエレベータの前で待っている。殺し合いにならないのが不思議だ。
十二階には食堂がある。
ここの社食は子会社がやっていて独立採算制を取っている。そのため食堂の値段は外で食うのよりも逆に高い。社員を儲けを出すためのエサとみているのだ。これでは何のための社食か本末転倒である。
昼食は早いグループと遅いグループに分けられているが、この子会社は赤字を恐れるあまりに仕入れを極端に抑えている。人数分の食事を用意しないのだ。そのため遅いグループは早いグループの残り物を漁る羽目になる。これは最後まで改善されなかった。
このビルは深夜になっても常に煌々と明かりが灯っていた。もちろんみな残業しているのである。
夜にも光で輝く素敵なビルは、印象とは逆にブラックの印である。
ある日、このビルの周辺に大勢の人間たちが集まった。群衆びっしりである。
それを七階から不思議そうに見る私たち。
なんだ、なんだ? 急遽始まった労働争議か?
その内に理由が分かった。
技術新棟を爆破するとの電話が入ったのだ。結局これはイタズラだったが、問題は七階だけには避難命令が出なかったこと。
つまり士農工商半導体である。お荷物の半導体事業部など爆弾で吹き飛んでしまえということだろう。
ところで彼らの行動には一つ大きな問題がある。ビル爆破によりできるだけ大勢の人間を殺すには爆破によるガラスの破片の散布でビル下にいる人間を殺すのが最も効率が良いというのがテロリストの教本に載っている。
つまりもし爆破予告が本物であった場合、ビルの下に集まって口をポカンと開けて楽しそうに見ている人間はすべて死ぬということだ。むしろビルの中にいた方が安全という予想まである。
この会社の警備員は警察とのコネ作りの目的で警察OBの再雇用という形を取っているのだが、どうやら彼らにもこの程度の知識は皆無であったらしい。
人々は誰も知識に敬意を払うことはないのだなと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます