第25話 殺意
プロジェクトも終わりに近づき、他社から応援に来ていた人たちもそれぞれ元の部署に帰っていった。
それに合わせて、課長の嫌味が私に集中するようになった。
とにかくなんやかやと理屈をつけて駄目だしをしてくる。一言一言がよくぞここまで厭らしく言葉を作れるなとの嫌味に満ちている。
耳の穴から間抜け汁が滴るような人間が権力の座を利用して嗜虐趣味を爆発させているのだ。
嫌悪感はやがて殺意に成長した。
毎日毎日課長を殺すことだけを夢想するようになった。あの頭を窓ガラスに叩きつけて叩きつけて叩きつける。ガラスが割れたらこの7階から投げ落とす。そんなことばかりを考える。
奇妙な話だが、この頃、額に角が生え始めた。
誇張でも嘘でも冗談でもなく、実物の角だ。七三分けの髪に隠れて傍からは見えないが、指で触るとはっきりわかる。私の周りでは怪奇現象がさも当然のように起きる。
(拙著身の回りの実話怪談第20話「角来たり」参照)
鬼に変ずるならそれでも良いと思っていた。そこまで壊れていた。
「犯罪者の顔をしている」
その日も恒例のK課長の嫌味が炸裂し、憤懣やるかたない顔で一階下のかってのパソコン部隊の連中のところに逃げていたときに言われた言葉だ。
はっとした。
確かにここのところ毎日、K課長を殺すことを考えている。どこかで噴火点に達したら、窓ガラスを割ってビルの外にK課長を落とそうと本気で考えている。
今日やろう。
明日やろう。
今、やろう。
すうっとするだろうな。
さぞや気分がいいだろうな。
・・駄目だ!
自分はこんなところで殺人者になることが目的だったのか?
そもそもこの会社に来たのはニートの兄から母を解放するため。それは上京する二日前に兄の方が家を出て解消した。
パソコンも作りたかった。それはもはや遠い夢になってしまった。
ではどうして安月給で死ぬほどこき使われているのだろう。どうしてここで赤の他人を殺して終わらねばならないのか。
筋が通らない。
幼稚なK課長が嗜虐変態性向を止められないからと言って、こちらが殺人者になる謂れは無いのだ。
そのとき、会社を辞める決意ができた。
話を聞いたN課長がウチに来ないかと言ってくれだが、断った。
この会社の中であればどこに行っても同じなのだと考えたからだ。
今までに辞めていったN君やS君たち、その総てがK課長に問題ありとI部長や人事に直訴しているのに、状況は何も変わらない。いや、何も変える気はないのだ、と理解した。
所詮、人閥以外のメンバーはすべて使い捨てと最初から見なされている。それがこの大会社だ。
おそらく課長と衝突している私の人事の評価もあのダボハゼたちよりもしたなのは間違いない。
これ以上、この会社にいても仕方が無い。
覚悟がついた。この会社にいるのも今年限りとしよう。
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