第13話 論理の海

 仕事の上での私の担当はマイクロプログラムというものだ。これはCPUの中で動くソフトウェアで、電子回路を実行のキーワードとする特殊の極みに達したプログラムである。

 当然ながら、そのようなものを記述する言語はどこにも存在しない。言語自体から作り上げる必要がある。

 回路図を基にして、図形言語を作り上げる。

 メンバーは三人。一人は私のマイクロプログラミングの手伝いで、一人は図形言語を回路上のビットパターンに展開するコンバータと呼ばれるものを作りあげる。

 何もかもが初めてで、混乱している。


 まずは画像用のビットマップ処理のコーディングを行う。要求された機能を個々の要素に分解し、初期操作と繰り返し操作、そして終端操作に分類する。各動作は部分部分がタイムラグを持った動作をするので大変だ。

 他にも無数にある処理を一つずつ丁寧に記述し、眺め、最適化し、頭の中で検証する。

 命令コードを一通り作るのに二カ月の期間が過ぎた。それが済むとまた最初から検証を繰り返す。これが二週間。それが済むとまた最初から検証を繰り返す。これまた二週間。それが済むと・・・。


 半分気が狂った。


 会社帰りのコンビニで夕食を買う。千円札を出しながら、お釣りを頭の中で計算する。ええと、まず十進数の引き算のために千円の補数を作り出す。この場合は999円か。それからそこに1を足し・・・

 お釣りを貰いながら、はっと気づいた。

 自分は何を考えている。これはもう数字による洗脳だ。自分は発狂しかけている。


 どこまで自分が自分でいられるのか、すでに自信が無くなっていた。

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