第12話 深夜の訪問客

 残業を終えた深夜にアパートに帰る。

 夜中に窓の外でこそこそと音がする。窓を少し開けて見ると、痩せた子猫が三匹。

 何かやりたくてもそもそも自炊はしない。台所には何もない。

 酒のつまみの煮干しを少し分けてやる。

 腹の足しにもならないだろうに、うれしそうに食べると、部屋の中でドタバタ遊び回っている。

 うれしい。可愛い。至福の一時。


 次の日も深夜を楽しみに帰宅すると、たちまち隣からクレームがかかった。

「迷惑しているのよね」

 昨日の今日で迷惑も何もないだろうに。おそらく昼間に子猫たちが餌欲しさに来ていたのだろう。

 猫嫌いは恐ろしく猫の気配に敏感だ。

 夜中に子猫たちの気配が窓の外でしている。

 暗い窓の外を見つめながら、涙を飲んで寝たふりをする。助けるものたちを見捨てざるを得ないこの心の痛み。


 三日ほどで猫たちは来なくなった。

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