第17話 進捗報告

 K課長の延々と続ける会議のお陰で工程はどんどん遅れ始めた。

 当たり前だ。一日の大部分が会議で終わるのだ。


 そこでK課長は奥の手を繰り出すことにした。

「明日からは進捗報告を週に一回ではなく毎日にします。仕事にかかった時間は一時間単位で記載してください」

 一時間ごとの仕事管理。ちゃっちゃパラパラと唱えれば仕事が片付くと思っている間抜けが考えそうなことである。

 当然ながらこの無駄な管理コストも加わり仕事はさらに遅れ始めた。


「こんなん全然駄目じゃない」

 進捗報告の席上で、K課長が皆の報告書を(文字通りに)机の上に放り投げた。

 M氏が出した報告書だけを手元におく。

「皆も彼を見習ってもう一度提出しなさい」

 何を言ってんだこいつと思いながらM氏の進捗報告書を見る。

 内容に関しては皆のものと変わらない。ただワープロで書いてある。

 手書きで書けば15秒で終わるものが何分もかけてワープロ書きかい。そんな無駄なことをしていられるか。どうせ課長を満足させるだけの意味の無い行為だ。

 M氏の報告書には提出者の名前の下に下線が入っているので同じように下線を咥えてまた提出した。馬鹿の命令には馬鹿なリアクションがよい。

「僕の言うことが分かっていない!」

 またもや課長が騒ぎ出した。

「どこが悪いか明確に指摘してください」

「そんなの自分で考えろ」

 へっ。鼻で笑う。これはこういう連中の常套句だ。自分でも何が悪いのか明確に理解できないのでこういう言葉になる。あるいは相手が真剣に悩むのを見て楽しみたいだけなのである。

 みなで報告書はそれっきり無視した。


 ぐんぐん遅れる進捗についにK課長は最大の秘技を繰り出すことにした。

「明日からは進捗報告を十五分単位で記載してください」

 これにはさすがに現場監督のK主任が怒った。半日に及ぶ怒鳴りあいの末に、ついに進捗はK主任がまとめて一喝で提出することになった。延々と続く会議地獄にも他のメンバーは出席しないで良いことになった。


 ようやく仕事が進み始めた。

 だがこれを機に会議で威張り散らすことができなくなったK課長の歪んだ性癖は別の方向に向かうことになる。

 つまり徹底した部下への個人攻撃である。

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