第16話 マグロ

 後輩たちが寿司を食べに行った。

 まだ回転寿司の無い時代である。当時の寿司屋はお金に余裕のある大人が行くものであり、新人の会社員が行くものではない。


 ランチサービス800円の文句に釣られたのである。

 (当時の物価を現在に換算するとだいたい二倍。500円ワンコインで普通の定食を食べることができた)

 彼らは何人かで連れだって寿司屋に突撃した。

 滅多に食えない寿司を堪能した後に、お店のお上さんが他に何か食べたいものはと聞いてきた。

 悪魔の誘いである。

 一人がトロと叫ぶと他も追随した。

 ノリで動いたので、誰もトロの値段を確かめなかった。確かめていたらそれが『時価』になっていることが分かっただろう。

 お会計を見て全員が目を剥いた。

 一人頭2800円。トロ一つが2000円である。


 今風に言えば、1600円の高級ランチを食べに行って、一つ4000円のトロを食べたことになる。


 貧乏新人に取ってこれがどれほど惨いことか想像に難くない。



 同じ頃、会社新棟から見える駅に深夜酔っ払った大学生がトラックを盗んで踏切の上に放置して逃げた。そこに列車が突っ込み、トラックを満杯の駐車場へと弾き飛ばした。その被害額なんと2億円である。

 大学生はすぐに捕まり留置場に入れられたが、次の日その大学生の親が来て、全額をポンと払って息子を引き取って行った。



 資本主義を非難するつもりはないが、ここまで貧富の差が見えると泣けてくる。

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