第15話 背後の敵

 ようやくマイクロプログラムの初稿が書き上がった。

 コンバータ担当だった人間が、目ざとく見つけた。

「お、持っていくよ」

 待たんかい。慌てて止めた。これはプログラムの初稿だ。言わば物語の荒筋。細かい辻褄は合っていないし、構造には大きな亀裂が入っている可能性が高い。これに机上作業で二回ほどチェックを入れて問題点を洗い出して直す。

 建物に例えるならば、柱が建って、屋根の大枠が組み上がっただけ。その状態の建物に住む馬鹿はいない。


「でも、みんな待っているんだよ」

 みんなって誰だ。暇をこいているお前だけだろ。

 止めるのを聞かずに持って行った。

 自分が暇を持て余すのは構わないが、こちらを巻き込むのは止めて欲しいと心の底から思った。

 やがて一日経ち結果が出る。予想通り結果はズタボロ。

 事情を知らない周囲の人々から山ほど苦情が来る。


 俺が悪いんかい。胸の中で毒づく。雨が漏ると文句を言われても困る。そもそも、屋根なんかまだつけていないのだから。


 だが、一度リリースという形にされてしまうと、苦情は正式なものとなる。

 当の現況の担当者は知らぬ顔である。

 これから先何度も同じ目に合わされるとは、予想だにしていなかった。


 いつでも背中から刺すのは味方のフリをした敵である。

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