第9話 労働組合

「今日は定時退社日です。全員定時で退社してください。残業は認めません」

 組合員が各フロアを叫びながら回る。

「退社したら組合の集会があります。新棟の前で待っていてください。帰ってはいけません」

 強制労働組合集会である。

 子会社の連中は組合員ではないのでそのまま帰ることができる。羨ましかった。会社敷地の門では身分を確認して組合員が帰れないように検問を張っている。

 もちろん誰もこんなくだらない集会には出たくないのだ。


 電気労連は御用組合である。つまり本物の労働組合ができないように会社が主導で作らせた労働組合である。スト対策資金は徴収するがここ数十年ストなどやったことはない。

 ここはユニオンショップ制なので会社員は自動で労働組合員となるので成果を出す必要は欠片もない。

 当時は毎年のベースアップは当たり前で、一年ごとに月2000円のベースアップを労使が話し合って決める。そしてその代わりに月に3200円の組合費を徴収していく。まさに悪魔の取引である。

 ある年、業績絶好調のS社が4000円のベースアップを組合に提示した。それに対して組合は全体の足並みをそろえるためにベースアップを2000円に抑え、差額の2000円を特別給付とすることにしてもらった。

 完全に本末転倒である。これこそが御用組合の証明である。


 どうしてこういうことになるのか。それは労働組合の幹部がいずれも課長になる直前の社員で構成されているからである。会社の味方をしないと出世に響くのだ。


 さて、報告によるとこの月3200円もの組合費の80%は会議費である。ところが組合の会議は会社の会議室を借りて行うので基本的に場所代は0円である。

 ではこの莫大な金額はどこに消えるのか?

 それは謎であった。だが組合幹部の多くが酒の飲みすぎで肝臓を壊すことや、組合委員長がなぜか大豪邸に住んでいることなどにその秘密の鍵があるのだと、皆は噂していた。


 真の敵は背後にもいる。

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