第8話 新居

 夏のボーナスを契機に安い貸家を探して、寮暮らしから脱出する。豪の者の中には寮に期限一杯の8年も住みつくものもいるらしいが、とてもじゃないが無理だ。

 まあ寮によって差があり、この寮はその中でも最低のレベルだったのだと思う。もしこれ以下となると川辺に並ぶブルーテントと同じになってしまう。

 真冬に水を被る生活を続けているうちにめっきり体力が衰えたのを実感したのも要因の一つである。

 次の冬は死ぬ。そう全身で判ったのだ。

 大会社の人ですから、大会社の人ですから、そう繰り返す不動産屋の仲介で、2DKで5万円の安アパートに入った。三か月に一回のドブ掃除当番付きである。

 月80残業をやって貰う手取りの三分の一が飛ぶ計算だから平均的とも言える。

 一年間に14匹のゴキブリを潰すという戦果が挙がる場所だった。ヒルも出るしネズミも出る。だがお金が無いのだから仕方がない。


 さっそく窓設置型のエアコンを買って配備する。

 これでやっと汗まみれの夜にさようなら、である。

 会社に勤めて一年半。ようやく、文明人に戻ることができた。

 よくよく考えてみれば、こんな会社に入るのが間違っているのだが、そこには気付かないお人好しぶりだ。


 ここに移って初めての冬。コタツに足を突っ込んでその暖かさに涙が出た。コタツはまさに人類最大の発明である。


 故郷遠く離れて自分はいったい何をやっているのだろう。

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