第22話 無駄な試み


 暇を持て余したヘラヘラ君がダボハゼたちを集め、教育を試みる。

 そのついでに勝手に私を講師に引きずり込む。このヘラヘラ君は平気で他人に仕事を持って来て自分は良い顔をしようとする困った男である。

 それでも手を貸す私は無類のお人好しである。

 つまらなそうな顔で会議室に並ぶダボハゼたちが、さらにつまらなそうな顔で講義を聞いている。何で俺たちがこんなことをという気持ちがひしひしと伝わって来る。

 それはこっちのセリフだ。間抜けども。一生大企業の中で寄生虫生活を送るつもりなのか。そう怒鳴りたいけど言わない。

 その通り。彼らはそういうつもりなのだ。プライドという重い物は最初から持たない人たち。

 後にこの講義は無駄な試みであると知った。彼らは何も学習しない。



 今度はヘラヘラ君がダボハゼたちを集め、試験プロジェクトに引きずりこもうと試みる。

 ヘラヘラ君もう止めようよ。君が暇なのは分かるけどどうしていつも私を引っ張り出すの?

 毎回それに応じる私は無類のお人好しである。


 試験プロジェクトは本来の作業としても存在しているが、それでも抜けていると思われる部分は多々ある。堤防は蟻の穴の一つからでも崩壊するのだ。何の役にも立たない彼らをそれでも少しでも役立たせようと考えた。

 本来、試験というものは、内容が退屈で、しかも分量が大きい、まさに拷問のような作業である。

 それを仕事が大嫌いで集中力が無いダボハゼたちにやらせようというのだから、工夫が必要だ。

 全体を幾つかに区切り分担を持たせる。試験という作業がいかに重要かを何度も強調して、少しでもモチベーションを上げようとする。

 計画を進め、説明を書き上げ、ある日会議の席上でK課長に提出する。

 K課長は資料をちらりと見て一言、いつもの口癖を言った。

「こんなの全然駄目じゃん」

 ちらりと文書を見て内容を一目で把握できるほど、K課長は賢くない。ただ、反対するがために反対しているのは明らかだ。

 それよりも何よりもまずいのは、ダボハゼたちが今のセリフを聞いてしまったことだ。折角頑張って盛り上げて来たのに、今の一言で何もかもパー。

 このバカ課長。この二週間の努力を一瞬で無にしやがった。おまけに私のモチベーションも一瞬で飛んでしまった。

 もう、いいや、と思った。こんな人物のためにこれ以上は何もしまい。

 どんなに下が頑張った結果でも、このプロジェクトの手柄はこの人のものになるのだ。

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