第30話 原点へ
ポケットの中を探ると、最初に広島を出るときに持って出た50万円の命金の他に、最後のボーナスと給料と退職金の合計が50万円。これが7年間の苦労の集大成である。
退職金の合計はたった14万円。一年間につき二万円の計算だ。
ひどい話だ。そんなに贅沢をした覚えなどないのに。あれだけの苦労の対価がこれだけなのだ。
そして手にいれたのはインテルかモトローラでしか使いようがないマイクロプログラムの経験。
人生の無駄遣いとはこういうのを言う。
退職金は最初から最後まで同じ会社に勤めた時はかなり太くなる計算だが、途中で辞めた場合はスズメの涙となる。つまり中途退職は恐ろしくペナルティが大きい。途中で会社を辞めていった人々はそれだけで生涯賃金は2000万円は減ると考えるのが正しい。
K課長の影響はそれほど大きかった。上に立つ者が馬鹿だと、下にいる者たちは理不尽な被害にあう。いつでもどこでもこういった一人のモンスターが大量の退職者を作りだす。
よくサラリーマンとヤクザは上司を選べない、と言う。その筋に詳しい知りあいは、そんなことはないと言う。どのヤクザも親分に惚れて杯をもらうものだと。とすれば、サラリーマンの方が圧倒的に悲惨だ。
それを身を持って体験した。
故郷の広島に帰ってしばらくして、K課長が心を病んで入院したと聞いた。
同情する気は無い。大勢の人々の運命を歪める前に退場してくれれば良かったのに、と今更ながら残念に思った。
続いてI部長が心臓の疾患で突然死した。この人については、格別の思いは無い。いつもニコニコしていたのは善人の行いか。しかしその立場にある者がただ話を聞くだけで何の手も打って来なかったのは悪人の行いだ。
いろいろと考えさせられることばかり。
やがて風の噂に、K課長が退院して現場復帰し、謎の大抜擢で部長に昇進し、周囲がみな首をかしげたのだと聞いた。
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