今日から六つ子姉妹を育てることになりました。休載中
雨ノ千晴
第1話 姉の命令は突然に
穿つような暑さのなか、強い日差しとサウナともいえるような湿気がまた中を包んでいる。
1人で住むには使いきれなほど大きな一軒家では、扇風機の音だけが響いていた。
8月某日、俺はもうすぐお盆だし、そろそろ姉も帰ってくるかななんて考え線香やお供物についてぼんやりと考えていた。
俺には唯一の肉親であり、幼い頃に事故で亡くなった両親の代わりに育ててくれた姉の
その姉には、大親友であり、姉と共に俺の世話を良くしてくれた霞宮子ねえさんがおり、その宮子ねえさんから久しぶりに電話がかかってきた。
「今すぐ東京来て!詳しいことは後から話すからとりあえずよろしく〜」
俺はその有無も言わず要件を伝えてくる様に面食らいつつも、東京へ行く準備をして駅へ向かう。
はぁぁぁぁ〜
新幹線の窓から外を眺めて大きなため息をつく。
昔から透子姉さんと宮子姉さんは昔から2人で思いついた面倒ごとを人に押し付けてくるのだ。
もちろん、2人といるのは楽しいしかなり世話になっているが、これから話されることを考えると不安で仕方がない。
それに今は、初めての大学の夏休みだ。
予定はアルバイトと数回友達と出かける事しか決まっていないが、場合によってはキャンセルしなきゃいけない。あの2人からのお願いは絶対なのだ。
家族と呼べるのはあの2人しかいない、大切な人を失ってしまう前に何かしてあげたいのは、俺のモットーである。
東京へ着くと、透子姉さんと宮子姉さんが一緒に住んでいるマンションへと向かう。
引っ越したとは聞いていたが、50階建てのタワーマンションにすんでるとは思ってもみなかった。
マンションはと入ると満面の笑みで笑う宮子姉さんがエントランスで待ち受けていた。
「白ちゃん、久しぶり〜!よく来たね〜!!」
「宮子姉さん久しぶり。透子姉さんは??」
「透子は部屋で待ってるよ〜。話す事たくさんあるし、早速、部屋まで行こっか〜」
いつもと変わらない透子姉さんにどこか安心感を感じながら、後に着いてエレベーターに乗り部屋へと向かう。
すると、いつまでも止まらないエレベーターに驚き思わず声が出る。
「え?最上階!?」
「驚いた?」
したり顔で笑う宮子姉さんに呆れていると最上階まで辿り着く。
「部屋に入ってから驚かないでよ?」
「約束できるわけないよ」
訳の分からないことを言いながら目だけは本気の様子で、これから起こることに恐怖感じてしまう。
今すぐ帰りたいと思っていいながら、家へと入ると、透子姉さんだけではなくまだ小学生くらいの女の子が6人座っていて、不安そうな目でこっちを見ている。
「真白、久しぶり。元気にしてた?突然ごめんね」
「姉さん久しぶり、突然なのはいつものことだからいいとして。全然状況が飲み込めないのだが?」
「透子、早く説明してあげな〜」
「そうね。真白驚くだろうけど…」
透子姉さんは、宮子姉さんとアイコンタクトを取ると、気合の入った表情をする。
「この子たちは、働いてたところの社長さんの子達なんだけど、親戚の人たちが引き取った後、ひどい目に遭わされてたらしくてしかる措置をされたみたいで、その後どこも引き取ろうとしなかったから、勢いで私と宮子で引き取っちゃった〜。テヘペロ⭐︎」
「初めに引き取ろうとした時は、あいつら私たちが育てるとか言ってたけどやっぱり金目当てだったね〜。ムカついたし今度こそと思って引き取っちゃった〜」
俺が驚いてなにも言えないでいると、2人は何事もなかったかの様に話を進める。
「それで正式に引き取ったのが昨日なんだけど、私たち来週からアメリカ行かなきゃいけなくてさ〜、真白にこの子達の面倒見てほしいのよ」
「なにも考えずに勢いでやっちゃったから、よろしくね」
「いやいや、全く意味がわからないんだけど。そんな猫拾ってきたみたいなテンションで話されても理解できないし。引きとったのに自分で面倒見ないのも意味わからないから、てか、そもそもアメリカ行くってなんで??」
「ほら、私女優やってて、宮子はマネージャーじゃん?ハリウードデビューすることになったから、アメリカ行くって前々から決まってたんだよね〜」
「いやいや、今初めて知ったんだけど。え?てか、いつから?なんでなにも知らされてないの?ひどくない?いや、ひどいよね?」
「あー、真白全然テレビ見ないもんね。さすが現代っ子。笑笑
大学の時、宮子と2人でドラマ撮ったら賞取っちゃってさ。そこで社長に誘われて女優始めたんだよね」
「私は、それならマネージャーやろうと思ったんだよね。まぁ社長さんが亡くなったから前の事務所はやめて今は2人だけの事務所やってるのよ。」
「それで、今度、撮影やら何やらで2年くらいあっちに行くからさ。真白に任せるしかないって訳よ」
確かにテレビはスポーツとアニメしか見ないが、教えてくれないのはひどいと思う。
それに大学の時からってもう何年も経ってるのに知らなかったとか泣いちゃうぞ?てか、半分くらい泣きそうではある。
完全には理解できないものの、とりあえず話の流れは掴めてきた。
だが、まだまだわからないことがある。
「それで、この子達置いていくって大丈夫なの?」
「アメリカに連れて行くわけにはいかないし、まぁ、真白には無理言ってるとは思うよ。でも、真白にしか頼めないとも思う。でも今回は無理にとは言わない。無理なら施設に行くことになるからさ…真白はどう思う?」
そうだ、女優云々の話に驚き過ぎて子供達について考えがいかなかった。
普通に考えれば、子育てなんてしてことがないし、育てる義務もない、断るべきだ。
だが、そんな簡単に断るべきだろうかと考えていると、ふと少女たちに目にはいる。
悲しい様な、どこか諦めた様な目をしている。
それに歳の割には痩せている、どんな辛い生活をしてきたのだろうか。
「この子達、引き取られた先で、ひどい生活させられてたみたい。暴力は当たり前で碌にご飯も食べれなかったんだって。」
子供達について考えている俺に、宮子さんが他には聞こえないようそっと子供達のことを話す。
ああそうか、俺もあの時そうだったよな。両親が事故で死んだ日、病院でその姿を見てとにかく悲しくて、生きて行く自信が無くなってもう全てがどうでも良いと思った。でもそんな俺を、透子姉さんが優しく抱きしめてくれて辛い気持ちを我慢することができた。
自分も辛いのに俺のために動いてくれた透子姉さん、今ならわかるあの時の姉さんもこんな気持ちだったのだろう。
この子達に俺が何かするべきなんじゃないだろうか、完全にはわからないが、少しならこの子達の気持ちだってわかる。
そうだ、何かできるのに何もしないわけにはいかない、そもそも姉さんたちに頼まれて断るわけにはいかないし、俺だって姉さん譲りの勢いだけはある。
「俺、引き取るよ。なんとかやってみる」
俺が2人にそう言うと、透子姉さんは、あの時の様に優しく微笑み、ありがとうと俺を抱きしめた。
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