第8話 縮めたい

 子供達の夏休みは残すところあと1日になった。

 家の中で絶妙に距離感を測りながらみんなと仲良くなれるようにしてきたが、そう簡単にはいかない。

 出会ってもうすぐ1ヶ月となるがまともに会話ができるのは橙愛だけだ。

 そこで俺は名案を思いついてしまった。それは"野菜を収穫して仲良くなろう作戦"通称ysnだ。

 両親から受け継いだこの家には親の趣味でやっていたまあまあ広い畑用の土地がある。昔は両親が季節の野菜を育てていてそれが食卓に並んでいだことを思い出す。凝り性の父はトラクターなどを買ってもはや趣味とは呼べないレベルにまでなっていた。道の駅などにも卸していたし、早期リタイアして将来はもっと野菜を育てるなんて言っていたな。

 今は手入れが行き届かず、その一部を俺が使って野菜を育てているのだ。その野菜を今日は収穫する、そこでみんなとの距離を縮めるぞ!


「みんな〜、今日外の畑でトマトの収穫しようと思っているんだけど一緒にどうかな?」


「橙愛はやるぞ!」

「ボクもやっていたいなの」

「「「「…」」」」


 橙愛と愛黄はやってくれるみたいだ。他のみんなは少し迷っているのか顔を見合わせる。


「美味しそーな紫蘇とかあるぞ?」

「「「「「「…」」」」」」


 渾身のダジャレは子供達には効かないようだ。


「こほん…まぁたまにはみんなでどうかなって思うんだけど4人もやらない?」

「それじゃあ私もやります」

「アタシも」

「それじゃーやろっかなー」

「我も、やる」


 よしよし、みんなやる気になってくれたysn作戦第一弾完了だ。

 このあいだ買っておいた6色ジャージを子供達に渡して畑へ移動する。


「今日はトマトを採ろうか。俺が育てたから美味しいよ」

「トマトだぞ!!」

「トマト、美味しそうなの」


 うんうん、橙愛と愛黄は喜んでる。他の子達はそこまでだな…。でも、どうしたらいいのか。


「トマト食べたいぞ!」


 それだ!トマトを食べたらみんな笑顔になるはず!自分でも何を考えているかわからないがとにかくやってみるしかない。


「よし!みんなとりあえず1つとって食べよう」


 みんな赤く熟したトマトを採り一口食べる。


「美味しいぞ!」

「甘いなの〜」

「美味しい」

「あら、美味しいわね」

「トマト、美味し、い」

「ん〜美味し〜」


 トマトを食べたらみんな笑顔になってくれた。さすがトマト、ありがとまと。みんなトマトをすぐに食べ終えてくれた。


「よしみんなここにあるトマト赤くなってるのだけ採るから、よろしくね」

「採るぞ!」

「採るなの!」


 みんな初めはなかなか苦戦していたが、慣れてくると採るスピードがどんどん上がっていく。結構広いトマト畑だったが思ったより時間はかからなかった。



「終わったわね。疲れたわ。まぁ意外と楽しかったけど」

「結構楽しかったよねー」

「トマト、いっぱい、疲れた」

「みんなありがとう。疲れただろうしお風呂入ってきても良いよ」

「ありがとうございます、お兄さん」

「「お風呂だぞ(なの)!」」


 なんとなくみんなと近づけた気がする。そんな1日だった。





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