なぜか恋愛指数の見える俺が、学園の美少女らから婚約届を突きつけられた話

譲羽唯月

第1話 俺は、嫌いな婚約者との婚約を破棄したい

「少しな。早いとは思うが、お前には言っておかないといけないことがある」


 夕暮れ時。

 平日。

 自宅に帰るなり、佐藤将人さとう/まさとはリビングに呼び出され、両親と向き合うように正座をし、真剣な話を始めていた。


 両親から、そういった話を持ち出されるのは、高校二年生になるまで殆どなかった。


 何を言われるのか、緊張な面持ちで両親の様子を伺っていると――


「父さんたちは、二〇年も前から会社を経営していることは知っているよな」

「うん」


 相槌を打つように頷いた。


「だからな。父さんの会社を継いでほしいと思っている」

「え? 今から?」

「いや、今すぐじゃない」

「いつ頃から?」

「お前が高校を卒業してからだ」

「でも、早い気が……大学は?」

「行きたいのか?」

「そうではないけど。俺が中学生の頃は大学に行った方がいいって、いつも言っていたし」

「それは昔の話だ。今は少し状況が変わってな。できれば、早くと思ってな」

「そ、そうなんだ……でも、なんで急に」


 将人は恐る恐る聞き返す。


「なんというか。そろそろ、後継者を育成しようと思ってな」

「後継者って、他の従業員からでも」

「それも考えた。けどな、やはり、家族のお前にどうしてもやってほしくてな」

「けど、そんなに急に言われても……」


 将人は言葉を詰まらせてしまう。


「まあ、無理はないですよ」


 先ほどまで無言だった母親が話に混ざって来た。


「すぐに言われてもわからないわよね。でもね、少しでもいいから考えてほしいの」

「うん……」


 将人はしょうがなくも頷いた。


「……本当に、他の人はダメなの?」


 将人は両親の顔を交互に見やる。


「まあ、そうだな。なぜかというと、今取引しようと思っている会社がな、お前じゃないと取引を交渉しないと言ってきてるんだ」

「え? どうして?」

「取引する条件として、お前と婚約してほしいという話を持ち出されていてな」

「なぜ? そもそも、どういう人との婚約……?」

「お前と同世代の子とだ」


 どんな人と婚約させられるかと困惑していたが、同世代だと知ると、フワッと心が楽になった。


「同世代と言ってもどんな子?」

「それが取引先の娘らしくて、この子らしいんだ」


 父親の合図に合わせるようにして、母親がアルバムのようなモノを見せてきた。


 そのアルバムには、普段から通っている学園の副生徒会長の写真があった。

 その写真は宣材写真なのか、黒髪のロングヘアが良く目立ち、物凄く綺麗に写っていた。


「まあ、判断は任せるけど、お願いしたいの。考えておいてくれる?」

「え、え……え、う、う、うん……」


 婚約相手の存在に目を丸くし、どんな反応を返せばいいのかわからず、混乱しつつも、“うん”とだけしか返答できなかったのだ。






「昨日の夜さ、こういうことがあって」

「そうなんだ」

「ああ。それで色々と考えているわけで。どうしたらいいかなって」


 将人はため息交じりに話す。


 朝の通学路。今隣を歩いているのは、近所に住んでいる幼馴染の羽生沙織はにゅう/さおり

 ショートヘアで親しみやすい口調が特徴的。

 小学生からの付き合いであり、友達のように気軽に会話ができる子である。


「それで、いつまでに決めないといけないの?」

「それが、今月中って感じ。まあ、四週間くらいはあるわけなんだけど」

「そっか。その子と付き合う予定なの?」

「いや、さすがに……それは無理かな」


 学校に在籍している副生徒会長は、かなり美少女の部類である。

 だが、話し方がキツく、あまり関わりたくないタイプだった。


 普段から生徒会の指導と言い厳しい発言をする彼女と婚約なんて絶対にありえない。

 彼女の方も絶対に嫌に決まっている。

 そう思い込みたかった。


 確実に、彼女の方も親の意向で婚約させられようとしているのだろう。


 どうにかして、婚約を破棄させたい。


「確認だけど、婚約は破棄できるの?」

「できるらしいけどな」

「へえ、そうなんだ」

「けど、そうなると、両親に迷惑をかけてしまうことになるから」

「そっか、それも大変だね」


 沙織は親身になって話を聞いてくれる。

 やはり、幼馴染と一緒に会話している時が、一番楽しいと思えた。




「もし断るなら、契約をなかったことにして別の取引先を見つけるらしいんだけど」

「将人はどうしたいのかな?」

「俺は断りたいと思ってるけど……その場合は、自分の力で婚約者を見つけることになってて。取引の件に関してはどっちでもいいらしいけど。婚約者の方に関しては、両親の要望で結婚くらいはしてほしいってさ」


 将人は自分から初見の女の子に対して告白する勇気を出せず、婚約者を見つけるというのもハードルが高かった。


 どの道、父親の会社を継ぐ運命になるならば、好きな人と付き合いたいと思っている。




 自分から告白できないのは――


 中学時代、告白してフラれた事がある。

 それがきっかけで自分から積極的に話しかけられなくなっていた。


 奥手になってしまい、それからというもの、なぜか俺には恋愛指数が見える。

 恋愛指数というのは、女の子の頭上にある可視化された数字の事だ。


 今、幼馴染の頭上には、0と表示されていた。

 という事は恋愛対象外という事。


 幼馴染とは友達みたいなもので、恋愛関係になったこともなく、彼女の方も、そういう感情で俺の事を見てはいないのだろう。


 気持ちがこちらに向いていないのに告白し、今までの関係性を崩せないのだ。


 将人はこのままの関係を維持したかった。


「あ、そうだ。私ね、少しやることがあって。私、先に行くね」


 沙織は何かを思い出したように、その場所から軽く手を振って走り出して行った。






「では、今から転校生を紹介する」


 朝のHR。

 教室の壇上に立つ担任教師が、辺りを見渡しながら言う。


 すると、教室内の扉が開き、とある美少女が入ってくる。


 その子は金髪系の女の子。

 お嬢様を連想させる編み込みハーフアップのヘアスタイル。容姿もよく、顔立ちも整っていて、少々大人びた印象を感じられる子だった。

 綺麗さの中に可愛らしさも入り混じっている。


 どこかの令嬢かと思われるほどの美少女。

 凄いという声が、教室中から湧き上がってくるほどだ。


高嶺六花たかね/りっかです。これからよろしくお願いします!」


 転校生の美少女は、おどおどした態度を見せることなく、明るい笑みを浮かべ、ハキハキと自己紹介を進めている。

 お嬢様風なのに、テンションが高めだった。




「そう言う事だ。これから、高嶺さんとはよろしくな」


 担任教師は再び教室を見渡す。

 どこの席がいいかと悩んでいる最中、席に座っている将人は教室前にいる金髪の美少女と丁度目が合った。


「あなたは、あの時の人ですよね!」

「え?」


 刹那、将人の方に男子生徒らの視線が思いっきり向けられる。

 嫉妬交じりの視線に、嫌な予感しかしなかった。

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