第16話 嫌いな奴が、俺を誘惑してくるんだが
副生徒会長のドレス姿には目を見張るものがあった。
普段は学校指定の学生服を身に纏っている。そんな彼女が今、濃い青色のドレスに身を包み込んでいるのだ。嫌な相手なのに、不思議と見入ってしまう。
そんな魅力を彼女から感じられたのだ。
ただ、身だしなみが整っており、髪もしっかりと手入れされ、使用人にでもセットしてもらったのだろう。普段のロングなヘアスタイルは、ポニーテイルになっていた。
その上、青色のドレスには、キラキラとした石装飾が施され、宇宙を表現しているかのような衣装に見える。
特注品なのか、店屋では見かけないタイプだ。
「……こんなにも綺麗になれるのか……」
「え? なに?」
葵は体を震わせ、将人の一言に対し、瞬間的に反応を示していた。
「え、い、いや、なんでも……というか、俺、何か……へ、変なこと口にしましたかね?」
「綺麗とか、そんなこと言ってたじゃん」
将人は
「え、そ、そうだったのか」
「お兄ちゃん、自分で言ってて気づかなかったの?」
「それは……」
まったく実感がなかった。
意識が一瞬抜け、別の空間に飛ばされていたような感覚だ。
「もう、お兄ちゃん。変なことを言わないでよ。あの人から浮気だと思われますから」
「ごめん、今後は発言に気を付けるよ」
妹は心配そうに。そして、不満そうな顔つきになっていた。
「なに、そこ二人でコソコソ会話して」
「いいえ、なんでもないです」
葵から詰め寄られてしまう。
が、何とか切り抜けようとする。
「それで、あなたの妹って中学生くらいの子なのね」
「ま、まあ、そうですね」
「私。以前から、あなたに妹がいるっていうのは親から聞いていたわ」
葵は、架凛の顔をまじまじと見ていた。
「あなたよりも優秀そうね」
「……それは、まあ、当たってますね」
「やっぱりね。あなたも見習った方がいいわ。今後、一緒に生活する者として」
葵から高飛車な発言をされる。
見た目は綺麗になったとしても、将人に対する当たりは変わっていなかった。
本当に嫌な奴だなと将人は思った。が、それを極力、表情や口には出さなかった。
ここは上流階級が集まっている場所。
余計な発言はしない方がいいと、自分の中で結論付けていたのだ。
「というか……え? 一緒に生活するってどういうこと? ねえ!」
そのやり取りを聞いていた
「あなた、知らないの?」
「し、知らないわ。どういう事なの?」
六花は動揺し、混乱したかのような話し方をしていた。
「そう。でも、もう決まっている事なの。そもそも、このパーティー自体が、私と将人の婚約式みたいなところがあるからね」
そう言って、葵は将人の隣にやってくる。
「……え……は⁉ どういう事?」
将人は左隣の彼女を見、目を丸くしたまま開いた口を閉じれなくなっていた。
「お、俺も聞いてないんだけど。俺はただ父親の方からは、葵と一緒に会話して、それから考えればいいって事で」
将人も焦り、事の経緯を説明するのだが、次第に活舌が悪くなっていく。
「私の両親は、婚約前提なの。だから、こんなに大きな会場を貸し切っているのよ。それにほら」
葵は会場を見渡すようにし、辺りを指さしていた。
その指さされた場所には、有名企業の社長の面々があったのだ。
ネットのHPでしか見た事のない人物が、そこには出揃い、今、談笑している最中だった。
「だからか。だから、人が多く集まっていたのか」
なぜかという自分の中に生じていた疑問が解消された瞬間だった。
「あなたも、私も婚約する予定だったでしょ? だから、こうして、この場所に来たと。それに、あなたの服、似合っていると思うわ」
「え?」
褒められている?
急に?
葵は、どういう心境なんだ?
「私の事を思って、ちゃんと正装をしてきたのでしょ」
「別に、俺はそんな事、思ってないし……」
「そうかしら?」
なんなんだ、さっきよりも口調が変わっているような……。
「そんなに照れなくてもいいと思うし。あなたが、今後のためにちゃんとしてくれるなら、私からは何も言わないわ」
「いつもは、厳しい口調で」
「そんなの、あんなにも有名な人らが集まってきているのに、そんな態度は見せないわ」
本当の自分を隠してるのか。
ズルいというか、状況判断能力が高いというべきか。
そこは言葉選びに迷うところだ。
葵は、富裕層として数多くの場数を踏んできたのだろう。
立ち回り方には、気品を感じてしまうのだ。
『では、今から、パーティーを開始しようと思いますので、一度ステージの方をご覧ください』
会場の壁に設置されたスピーカーからは、司会進行役と思われる男性の声が、その場一体に響いていた。
訳が分からないまま、パーティーが幕を開けたのである。
架凛はさっきよりも大人しくなり。六花に関しては、納得いかないといった感じに、葵を睨んでいた。
「ねえ、これから、少し時間ある?」
さらに葵から距離を詰められる。
「な、なんで」
「少し話したいことがあるから、二人っきりで」
葵は愛想よくなり、上品な目つきで、将人を見つめてくるのだ。
「お、俺は遠慮しておく」
嫌な予感しかしない。
「そんなこと言わないで」
そう言って、葵はドレス姿のまま胸を押し当ててきた。
彼女の豊満な胸が、将人の左腕を支配する。
葵は女の子最強の武器を、分かって使ってきていると思う。
確実に言えることは、今の葵は、学校で厳しい態度を見せる副生徒会長とは明らかに態度が違うという事。
将人自身も対抗したいのだが、葵の恋愛指数だけは見ることができないのだ。
故に、彼女が好意を抱いているのか、本気で将人の事を嫌っているのか、その判断ができないのである。
これ、どうやって、葵と向き合って行けばいいんだよ……。
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