第15話 俺は彼女らの新しい一面を見た
「こんな感じでいいの?」
その日の学校帰りの放課後だった。
「いいと思うぞ。それくらいが丁度いいと思うし。今日は、会社の社長が大勢集まるパーティーだからな。それくらいの服装じゃないと恰好が付かないだろ」
目の前にいるのは、普段からスーツを着こなして仕事をしている父親の姿がある。
「どうした?」
「いや、俺さ。普段、学生服しか着ていないから、こういうスーツとか着にくいんだよね」
「そうか。でもな、社会人になったら、それくらい当たり前になるからな。今からでも慣れておきなさい」
「う、うん……」
あまり気分が上がらない。
しょうがないといった顔つきで、将人は頷いた。
「準備出来たら早く一階に来なよ」
「わかった」
父親はそう言って、将人の部屋から出て行った。
将人は自室の鏡の前で自分の姿を見る。
「……何か、ネクタイをつけていると首のところに違和感があるんだよな」
場によって服装を変えることも、今後、社会人になる者として重要なことなのだろう。
毎日、こんな服装に身を包んで仕事しているサラリーマンは凄いと思った。
「まあ、しょうがないか。私服で行ったとしても、親の面子もあるし、それも無理か」
諦めがちに、鏡を見ながらネクタイを直す。
「今から、あの副生徒会長がいる会場に行くとか、本当に怠いな……」
今日の朝の出来事も相まって、乗り気じゃないのだ。
家族四人で、自宅を後に乗用車で二〇分くらいのところへ向かう。
行き先は、東雲家が貸し切っている会場。
今回は人数の都合上、東雲家の敷地内では行われないらしい。
到着し、乗用車から降り、将人はセーラー服姿の妹と先に会場へと向かうことになった。
「結構、広いな……」
貸し切りと言っても、会場の敷地面積が広かった。
会場である建物まで、現在地から距離を感じる。
「迷子にならないようにね。私らは、乗用車を止めてきたら行くから」
「わかった」
「架凛もね」
「うん」
二人はその場所から一分ほどかけて、会場の入り口らしき場所へと歩いた。
すると、会場の入り口のところに設置された簡易的な長机に洒落たテーブルクロスをかけ、その受付担当である男性と女性が計三人ほど佇んでいたのだ。
「お待ちしておりました。お名前をどうぞ」
「佐藤です」
「……佐藤様ですね」
その受付の男性の顔つきが変わった。
目の色を変え、将人の方を見やって来たのだ。
「ですと、隣におられるのは、あなた様の妹様ですね」
「はい。そ、そうです」
階級の高い人らと面と向き合って会話するのは緊張する。
普通に話せばいいだけなのに、慣れていないせいか、手元が軽く震え、冷や汗をかいていた。
「でしたら、お入りください。今から私がご案内致します」
「よ、よろしくお願いします」
将人の返事に続くように、妹も承諾するように頷いていた。
二人はそのまま、その受付の男性に導かれるように会場の中へと移動することになったのだ。
その会場は広い。
会場の外見からして大きそうに見えたが、内装は想像していたよりもはるかに広かったのだ。
上を見上げれば、その天井は手を伸ばしても届かないほど高い。
シャンデリアとかもあり、壁には海外から取り寄せたであろう絵画も飾ってあったのだ。
一般人が思うような建物を貸し切るという行為と比べ、次元が違う。
お金持ちになれば、こんなにも購入な場所も貸し切れるのかと思った。
佐藤家もお金持ちだが、あからさまにお金の使い方は荒くはない。
とある漫画のように、異世界に迷い込んでしまったかのような空間が、そこには広がっていたのである。
「佐藤様、こちらが会場になります。パーティーの開始時刻はまだ先ですが、よければ、あちらの方にお菓子や果物がありますので、ご自由にどうぞ」
その受付の男性が指さした場所には、果物がのった皿をテーブルに置いている使用人の方が佇んでいた。
その受付の男性は、案内が終わったためか、元の定位置に戻っていく。
「お兄ちゃん、何か食べる?」
「まあ、少しだけならな」
「アレ? 将人?」
聞き馴染みのある声。
駆け足の音が聞こえ、パッと視線を変えると、ドレス姿の
白色のドレス衣装であり、綺麗さが普段よりも加速している。
それに加え、金髪のハーフアップを崩し、ロングヘアにしていた。
制服姿ではないためか、露出度が高く、目の足り場に困ってしまうのだ。
妹の架凛から、睨まれているような視線を肌で感じていた。
「将人も招待されていたんだね」
「そうだけど」
「だったら、教室にいる時に言ってくれればよかったのに」
「俺は親から高嶺さんがくるってこと聞いていなかったから」
「でもさ、私、お金持ちなんだから普通は参加するよ」
「確かにそうかもな」
「ねえ、果物でも食べる?」
「え?」
六花は、手にしている八等分されたであろうリンゴを渡してきた。
「お腹減ってるでしょ?」
「一応、これから食べようと思ってからな」
将人はリンゴを受け取った。
「えっと、そちらの子は?」
「架凛って言って、俺の妹なんだ。まだ、中学生で、同じ高校にはいないから知らなかっただろうけど」
「へえ、そうなんだ」
六花は笑みを見せていた。
「私は六花。よろしくね」
「はい……」
妹は頷くだけだった。
「という事は、将人と結婚すれば、この子も同時に入るってことね。そうよね」
「え?」
「いや、ただの独り言。気にしないで。それにしても、架凛ちゃんって、大人しそうで可愛らしいよね」
「そうかもな。でも、言う時はちゃんという子だから」
「そうなの? それでも私はいいけどね」
――と、六花は、妹である架凛の頭を軽く撫でていた。
「そうだ、架凛ちゃんも、食べる?」
「はい……」
架凛はそこまで表情を変えることなく、リンゴを受け取っていた。
「美味しい?」
「はい」
架凛は口数が少なくなっていた。
「あっちに行けば、もっとあるから」
六花はリンゴを食べ途中の将人の左腕を掴んで先へと進み始めた。
急すぎて、喉に詰まりそうになっていた。
行きついた先のテーブルには、綺麗に切られたリンゴや、ミカン、梨、パイナップルなど、多岐にわたり、色々と皿の上に乗せられてあったのだ。
「何にする? とってあげるけど」
「いや、俺一人でもとるくらいの事はできるから」
「そう。これは?」
六花は切れた一口サイズのパイナップルを手にして、将人の口元へ運んできた。
「あ~んして」
他の人もいるだろうに。
これだと、周りの目も気になるんだが……。
緊張し、胸の鼓動が高まっていると歩み寄ってくる影があった。
「あなた達、人前、そのような行動は慎んだら?」
覇気のある声。
間違いなく、彼女しかいない。
三人で集まっている場所に、副生徒会長である、ドレス姿の
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