第14話 俺の天敵である副生徒会長の恋愛指数は――

 昨日。父親とは約束を交わした。

 今日の夜、富裕層のパーティーに参加すると――




「もう朝か……」


 あれから数時間ほど時間が経過し、佐藤将人さとう/まさとが目を覚ました頃には、カーテンから明かりが室内に入り込んでいたのだ。


 一旦就寝し、起きたが、昨日からの考えは変わっていなかった。


「そろそろ、準備でもするか」


 むしろ、これはチャンスだと捕らえた方がいい。


 東雲葵しののめ/あおいとの婚約を破棄するのには打ってつけの状況。

 その場所には、葵の両親などもいる。


 皆が見てる前であれば、将人が正式に断りのセリフを伝えれば。その意思を理解してくれる人は必ずいるはずだ。






「おはよう、お兄ちゃん」

「おはよう……」


 階段を下り、リビングに行くと、ソファに座っていた妹が将人の方を振り向いた。


「ちゃんと寝られた?」

「まあ、それなりには」


 将人は軽くあくびをした。


「でも、ちょっと眠そうじゃない?」

「大丈夫さ。何とかなる」

「まあ、お兄ちゃんも色々と大変だろうけど。あ、そうだ、今日のパーティーはどんな感じになるんだろうね」

「さあ、分からないさ。俺も、そういう場所に参加するのは初めてだからな」


 会場には多くのお金持ちがいるという事。


 佐藤家は、普段から平凡な暮らしをしていることも相まって、将人は想像しづらかった。


 ドラマや漫画とかでは、正装した多くの人が、広い部屋に集まって会話したり、演奏を聴いたりして、豪勢な食事をするというイメージしかない。




「ねえ、東雲家っていったら、かなり有名な企業を経営してるでしょ。どんな料理が出るんだろうね」

「もう食事の話か。気が早いな」


 まだ朝なのに、妹の架凛かりんはすでに夜の事を話しているのだ。


「俺は学校に行ってくる。架凛はいいのか? 準備とかしなくても」


 ソファにいる架凛は、まだパジャマのままだった。

 余裕があるように見える。


「今日は休み」

「え、なんで?」

「さっき、お母さんが中学校に休むって言っていたから」

「それで休みなのか? でも、どうして?」

「さあ、分からないけど」

「そ、そうか」


 将人は首を傾げた。


「まあ、いいや。俺は食事をして、もう行くから」


 将人は、それから四十五分かけ、学校に行くための準備を整え、自宅を後にするのだった。






「ちょっと待て」


 刹那、将人は面倒事に巻き込まれていた。


 校舎の敷地内に足を踏み込んだ直後、校門付近で呼び止められ、自身の制服を見る。


 どこもおかしいところはないと思った。


「髪。制服は、まあ、問題はないか……」


 副生徒会長である東雲葵は、真剣な目つきで正面にいる将人の顔をまじまじと見ているのだ。


 忘れていたが、今日は生徒会役員による指導の日だった。


 ジーッと彼女から見つめられていると変な気分だ。


 悪い事をしてしまったのかと逆に自身を疑ってしまいそうになる。


「手帳は」

「手帳ですか」

「ああ、早く見せろ」


 葵から急かされながらも、将人は背負っていた通学用のリュックを手に持ち、確認するように漁る。




「これですよね」


 将人は学校指定のマークがついた手帳を見せた。

 それには校則や、一年間の行事一覧が記載されているのだ。


「……まあ、あるならいい。それと、手帳は制服の内側ポケットにでも入れておけ。わかったか」


 葵はムスッたした顔を見せ、手にしているチェックシートに、ボールペンを使って書き込んでいた。


「でも、無くさないように、リュックの方が」

「言い訳はいらないから。そんな態度を見せるなら、生活態度の点数を下げるけど?」

「え、それはちょっと……」

「嫌なら、手帳は制服の方にな。いざという時に確認できないだろ」

「そ、そうですね……はい」


 将人は自ら折れるように、しょうがなく首を縦に動かした。


 葵は生徒会役員の中でも真面目過ぎる方だ。


 他の役員は、多少目を瞑ってくれることもあるのだが、葵は例外中の例外なのだ。




「他にはもうないですよね?」

「……まあ、そうだな」


 数秒の沈黙があった後。


「それで、今日の件はわかっているよな」


 ――と、葵の方から距離を詰められ、小声で話しかけられる。


「パーティーの件ですか?」

「ああ、そうだ。絶対に参加するんだよな」


 キリッとした視線で見られる。


「そ、そのつもりだけど」

「なら、いい。もう終わりだから」

「え?」

「聞こえなかったのか? もう終わりって言ったんだ」


 葵から睨まれた。


 こ、怖いんだが……。


 葵は真面目でかつ、クールな話し方をするため、怖く感じる。


 だがしかし、そういう話し方をされることが好きな、Mな類の人らからは評価を得ている。


 容姿も相まって、生徒会役員による朝の生徒指導で、罵倒されることに期待している人もいるくらいだ。


 将人はそういう類の人種じゃないから、よくわからない概念であった。




 葵は美人なのに、あまりにも真面目過ぎるところが仇になっていると思う。


 将人は立ち去る際、チラッと葵の方を見やった。


 葵の恋愛指数は――






 好きな気持ちがあるなら想いを伝えた方がいい。


 けれど、そう簡単にはいかないのである。


 幼馴染の沙織さおりの他に、二人の社長令嬢から婚約を迫られているからだ。


 今日こそが大事な日であり、その二人からの婚約を破棄できるように立ち回らないといけない。


 大丈夫だと、自信を持たせるように心に言い聞かせ、どうすればいいのかと思考していた。


 今のところ、良い解決策はない。


 最低でも、今日の夜までには何かしらの対策を見つけるしかないのだ。


 仮に対策が思いつかずとも、将人には恋愛指数が見える。

 その指数が低下するような立ち回りをすればいい。


 六花りっかの方は何とか把握できているからいいとして、葵の方はわからなかった。


 わからないというのは、恋愛指数どころか、数字すら葵の頭上に表示されていなかったからだ。


 今日、校門のところで立ち去る際、葵の姿を見、その時、その真実に気づいたのである。


 葵は一体、どういう事なんだ?

 例外?


 沙織と同じなのだろうか。


 だが、沙織の方は数字が少なかったとしても表示されているのだ。


 まったく表示されないのは、今までの経験上なかった。

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