第29話 俺は、どんな判断を下せばいいのだろうか

 学校終わりの放課後。


 佐藤将人さとう/まさとは学校を後に、彼女と共に通学路を歩き、帰路についていた。


 これから向かうのは街中のパフェ専門店。


 元から沙織が行きたがっていたところなのだ。


 学校の昇降口を出た際、沙織から一緒に行こうと誘われたのである。


 今は、出来る最大限の事をしてあげたい。


 将人の中で、そんな感情が渦巻いていた。


 将人は、女の子の頭上に浮かび上がる数字が見える。


 やはり、バグなのか、その頭上の数字が大きくなったり、小さくなったりと数時間おきに繰り返していた。


 沙織は指数の不具合により、これからの人生を歩めないかもしれない。


 でも、最後の最後まで、彼女の思い出に残ることをしてあげたいと思った。




「楽しみだね」

「そうだね。それで、そのパフェ専門店って、街中のどこにあるの?」

「アーケード街近くのところ。少し前に、オープンしたばかりだから目立つと思うよ」


 右隣を歩く羽生沙織はにゅう/さおりは笑みを浮かべているが、まだ真実を知らない。


 本当の事を直接言えるわけでもなく、将人は口ごもってしまうのだった。


 この事って、ハッキリと伝えた方がいいのだろうか。


「今日の朝から、ちょっと表情が暗い気がするけど? 具合でも悪いのかな?」

「いや、なんでもないよ。けど、この頃、疲れているかもな」


 将人は笑って、その場を乗り越えようとする。


 本当の事と言い、彼女を傷つけたくなかった。

 指数の事に関しては何も言わないことにしたのだ。


「でも、無理はしないでね」

「わかってるよ。でも、沙織も何か悩みがあったら相談してもいいから」

「うん……」


 沙織は考え、無言になる。


「今は、将人と一緒に入れるだけで幸せだから。将人、手を繋がない?」

「……わかった」


 将人は深く追求する事はせず、ストレートに彼女の想いを受け入れてあげた。




 二人が通学路を歩いて街中に向かうと、パフェ専門店には平日なのに関わらず、結構な人だかりが出来ていた。


 店屋自体は数か月前にオープンしたばかりで、扉の外に列ができるほどだ。


 三〇種類以上のメニューがあり、このお店を訪れた人らは注文する際に迷ってしまうらしい。


「これ、かなり待つことになるんじゃない? どうする?」


 沙織から問われる。


「でも、せっかく来たから。私、待つけど。将人は?」

「じゃあ、沙織がそういうなら」


 二人は列の最後尾に移動した。


 現在、五組ほどの列になっている。

 待ち時間的には、十五分というところ。






「何にしよっか」


 同じテーブルに向き合うように座っている沙織は、将人の顔を見、聞いてくる。


 二人はパフェ専門店に入店できたものの、さらなる難関があった。


 それは三〇種類以上あるメニューの中から選ばないといけない事。


「えっと……やっぱり、噂通りに沢山の種類があるね。俺は全然決められる感じはしないけど、沙織は決まったの?」

「まだだよ。でも一応目星はあって、このイチゴ系とか。他には、この桃味もあるみたいだし。どれも美味しそうに見えて、選べないのよね」


 メニュー表に映っているパフェは全て魅力的だ。

 それに関しては、将人も感じていた。


 抹茶味にイチゴ味、チョコ味やバナナ味など。専門店だけに幅広く、パフェを扱っている。


 色どり溢れる数々のパフェに、目を奪われながらも沙織と決めることになった。


 この専門店では、果物系が多い印象だ。


 メロン、キウイ、リンゴなど、色々と揃っており、一番人気なのがイチゴ味らしい。チョコレートに関しては、意外と三位のようで、若干想定していた順位よりも低かったのだ。


 この店屋では、席に座った状態で注文する形式で、キッチンカーのように、すぐに店員に伝えるタイプではない。


 長く考えられる分、気が楽なのだが、それが原因で店内が混んでいるのだろう。


 周りを見渡すと、カップル系や主婦の人らに加え、それから将人と同年代くらいの人などが利用しているようだった。


 基本、パフェはどんな年齢層からも指示を受けやすいらしい。


「将人って、見た目的に何が美味しそうに見える?」

「それは、このチョコ味かな? あまりにも普通か」

「そういうのもいいと思うよ。好きなモノを選んだ方がいいと思うし」

「そうだよな。じゃあ、これで。沙織は、イチゴ味でいいの? それとも桃味?」

「んー、どうしようかな。でも、また食べたくなったら、もう一度注文し直せばいいよ。じゃあ、一先ずが、このイチゴ味で」


 五分ほどのやり取りがあったのち、注文の品が定まった。


 席に座っている二人は、店員を呼び出す。


 女性店員に告げると、少々お待ちくださいと言われ、その店員は、店の奥の方へ早歩きで向かって行ったのだ。


 店内が混んでいるからこそ、店員もゆっくりとしている暇なんてないのだろう。




「ね、将人って、将来の事って、考えているの?」

「それは、まあ、一応は考えているけど」

「そうなんだ。やっぱり、私も考えないといけないよね。私のクラスでも、進路指導室に行っている人もいるし」


 沙織は悩んでいるのだが、将人は彼女の結末が分かる。

 だからこそ、その質問が将人にとっては苦しく感じていた。


「私も来週から、進路指導室に通おうかな。急に決めてもすぐに行動できないし。あらかじめ、少しくらい決めた方がいいよね」

「そうかもしれないな。俺も一応、考え中だからさ」

「将人は具体的に、何をする予定なの?」

「それは、まあ、親の仕事を継ぐとか。そうなるかも」

「だよね。将人の家って、両親が経営者だもんね」


 表面上は良い会社だと思う。

 けれど、中身はそうじゃない。


 将人自体を、実験の素材に使っていたのだ。


 両親は国のために仕事をしているなどと言っているが、将人からしたら誇れる内容ではなかった。


 けれど、もし、両親の会社に就職した場合、目の前にいる沙織を救えるかもしれない。


「難しい顔をしているけど? 継ぎたくないの?」

「いや、ただ考え中なだけ」


 嫌な事をして権力を手に入れても、自分の存在を救う事は出来ないかもしれない。けれど、他人からは評価されるかもしれない。


 もし、両親の会社を継いで、沙織を救える手段を手に入れられるのなら、入社するのも悪くはないだろう。


 将人は自身の中で、そういった決意を固め始めていたのだ。

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なぜか恋愛指数の見える俺が、学園の美少女らから婚約届を突きつけられた話 譲羽唯月 @UitukiSiranui

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