第11話 これはある意味、城壁かもしれない
「今から来てほしいところがあるんだけど」
学校の校門付近に近づいた頃。
可愛らしさの中に堂々とした態度を見せる
ただ佇むというよりも、黒服姿の男性らと共に、将人と
六花の頭上にある恋愛指数は95。
彼女の存在は今後、脅威になりそうな気がする。
「お嬢様が、招待しているのですから。来てもらおうか」
え……お、俺に拒否権はないのか?
将人は黒服からサングラス越しに睨まれているような気がして、少々後ずさってしまう。
そして今、将人は、その場所で、本当に六花は社長令嬢なのだと改めて理解したのだ。
将人も一応、富裕層ではあるが、一般的な家に、一般的な食事。それから、ごく一般的な生活をしている。
お金があるからと言っても、佐藤家は庶民に近い水準なのだ。
本格的なお嬢様や、その付き添いの方々を直接お目にかかるのは初めてだ。
この流れで行くと、屋敷にはメイドも在籍していそうである。
「どうしたのかしら。ボーッとして。もしかして、私がただのお金持ち程度だと思ってのかな?」
「まあ、そうだな……俺、使用人みたいな人を見るのは初めてで。正直驚いてるよ」
「普通の家庭なら、誰かを使用人として雇う事はないかもね。日本だと、特に」
六花の母親は海外出身の方であり、そういう環境で生きてきたからこそ、日本住みでも雇うことにしたのかもしれない。
環境が違いすぎる。
将人からしたら馴染みのない感覚。そんな六花と付き合うと仮定して、なおさら上手くやっていけるかどうか悩ましいと思う。
「で、でも、俺は行かないよ」
「え? どうして? 私の家に来てくれたら、なんでもあるし。ご馳走だって」
将人の言葉に、彼女は瞳孔を見開いていた。
「それでも、今日はちょっと無理なんだ」
「今日は? じゃあ、別の日ならいい?」
「別の日か……」
将人は複雑な顔つきで悩み込んだまま、隣にいる幼馴染の沙織を見やった。
彼女は不安そうな顔を見せ、将人と六花を交互に見つめているのだ。
「別の日もな……」
将人は言葉を濁した。
「お嬢様の誘いを断ろうとするのか、お前は」
「え? い、いいえ……そうではないですけど」
自分よりも一回りほど年齢のある黒服の男性からサングラス越しに睨みつけられると、心を貫かれたかのようにドキッとする。
何も悪いこともしてないが、目線を外したくなるのだ。
「そういう言い方はよしなさい」
「はッ、すいません。ですが、旦那様も、連れてきてほしいとおっしゃられていたので」
黒服は六花に頭を下げていた。
「そうね。確かに、この頃、私の父も食事中に何度も言っていたわね」
令嬢である六花は腕組をし、先ほどの将人同様に険しい表情になっていたのだ。
難しい顔をしていても、彼女は美人だった。
「まあ、しょうがないか。急に言われも、そう簡単には来れないものね。あなたにも予定があるわけですからね」
六花は、パッと目を見開き、表情に明るさを灯すと諦めがちにため息をはいていた。
「え? よ、よろしいのですか? お嬢様」
「別にいいわ。皆、時間があるわけじゃないわ。お金を持っている人こそ、冷静に判断できなきゃ。後々損するかもでしょ」
「そうですかね……」
「そうよ。あなたも今日は諦めて。それと、父や母にも、この話は後になるかもって伝えておいて」
「それでいいのですね」
「ええ。でも、今日は無理でも、別の日に日程を合わせるって事で」
「は、はい。わかりました」
六花は軽く後ろを向いて、黒服の方々とやり取りをしていた。
「後、紙と封筒。それからボールペンを持ってきて」
「はい。少々お待ちください」
そう言って、黒服はベンツへ行き、その中から指示されたモノを三点、取り出してきたのだ。
「父の次の休みは?」
「休みですか?」
「ええ」
「確かですね……」
黒服が長考していると。
「来週の土曜日か、日曜日なら問題ないかと」
もう一人の黒服がメモ帳を片手に教えてくれていた。
「そう。わかった。来週の土曜日か、日曜ね」
六花は手にしているA4サイズの紙にボールペンを走らせる。
「ねえ、あなたは土曜日と日曜。どっちが空いてる?」
六花は将人の顔を正面から見つめてきた。
「えっと、先の事だし、すぐには決められないんだけど」
「わかったわ。じゃあ、これに後で書いておいて」
六花は先ほどのA4サイズの紙を綺麗に折りたたみ、茶封筒に入れた。
「はい。これ、簡単な招待状だけど受け取って。その紙に箇条書きで書いてあるから、ちゃんと目を通しておいて」
「う、うん」
将人は流されるがままに、その封筒を受け取る。
「将人、また明日ね。明日までには返答が欲しいから」
六花は満面の笑みを見せると、金髪のハーフアップの髪を靡かせるようにクルッと背を向ける。黒服の二人と共に黒塗りのベンツへ向かい、乗車する。
黒服の人から扉を締めてもらい。それから、彼女はベンツの窓から簡単に手を振っていた。
ぽかんとしていると、目の前に停車していたベンツは、いなくなっていたのだ。
「それにしても凄かったね」
「た、確かにな」
「お嬢様って凄いな」
「こんな学校にも通ってるんて」
「というか、どこのクラスの子だっけ」
校門前にいた、他の生徒らも凄いとしか言えていなかった。
語彙力が皆無な状況になっていて。将人自身も、さっき何があったのか頭の処理が追い付かないほどだった。
将人は現実へと意識を戻すと、手元には茶封筒がある。
将人は封筒の中を覗いてみる。
六花がボールペンで記入したであろう一枚の紙があった。
これは後で見ようと思う。
さすがに、幼馴染が近くにいる状況で、中身を本格的に確認するのはよくないと感じたからだ。
将人は先早に通学用のリュックに、それをしまう。
「……行こうか。色々あったけどさ」
「う、うん……そうだね」
沙織はゆっくりとだが、将人の問いかけに頷いてくれた。
二人は、皆が六花のことについて話題にしている間に、こっそりと学校の敷地内から立ち去る事にしたのだ。
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