第2話 隣席の彼女の恋愛指数は…⁉

 朝のHR。

 佐藤将人さとう/まさとは、その転校生と視線が合った。

 教室の壇上前に立つ彼女は、将人の事を知っているらしい。


 だ、誰だっけ……。


 まったく思い出せず、席に座ったまま一人で困惑してしまう。


「え? あいつの知り合い?」

「マジかよ」

「というか、なんで、よりによって佐藤なんだよ」


 クラスメイトの不満がチラホラと聞こえる。


 転校生――高嶺六花たかね/りっかの発言により、クラスメイトらの注目の的になり始めていたのだ。


 変に目立ちたくないんだけどな……。


 陰キャな将人にとって厳しい環境だった。




「高嶺さんは、佐藤の知り合いだったのか?」

「知り合いと言いますか、まあ、簡単に言うと、そうかもですね」

「そっか。じゃあ、佐藤の隣にでもしておくか」


 担任教師は勝手に話を進めていた。


 本当に知らない子なんだけど……。




「すいません、先生! でも、佐藤君の隣は私がいるんですけど」


 将人の右隣の席の女子生徒。

 その彼女は席から立ち上がり、主張する。


「そうか、じゃあ、別の席を探さないといけないか」


 担任教師は迷った表情を浮かべ、腕組をして考え込む。その間に壇上前にいた六花が、その女子生徒の近くまでやってきていた。


「そこの席を譲ってくれませんか?」

「でも……」

「でしたら、こちらのチケットを差し上げますので」

「……え?」


 その女子生徒は驚き、目を丸くしている。


 六花が手にしているそれは、限られた人しか入手できない特別な遊園地のチケットだったからだ。


「え……な、なんでそれを? で、でも、私、そういう高いモノは受け取れないので」


 その女子生徒は遠慮がちなリアクションを起こす。


「別のいいよ。気にしないで。私からしたら簡単に手に入りますし、どうぞ、受け取って」

「……い、いいの?」


 その彼女は恐る恐る伺うように、六花の顔を見ていた。


「それって、抽選でしか入手困難な上、一枚数万円するチケットじゃんか」

「本当だ」

「この際だしさ。貰っておきなよ。席を譲るだけで貰えるんだしさ」


 教室内がさらに騒がしくなってくる。


 クラスメイトらは席から立ち上がったりして、六花が持っているチケットを物珍しそうに見ているのだ。


 動物のぬいぐるみを身に着けたマスコットが描かれた、そのチケットは、庶民からしたら高級品。

 人生で一回は行ってみたいと思っている人が多いと思う。


「えっと、だったら、ありがたく貰っておこうかな」

「はい、これで等価交換ね。今から、この席は私のだから。移動お願いね」

「はい。承知しました!」


 その女子生徒は、チケットを両手で掴み受け取ると、深々と頭を下げ、目を輝かせながら、机周辺を先早に片付けた後、別の席へと向かって行く。


「おい、お前マジかよ。凄いな」

「私もその遊園地に行きたい」

「いいなあ、それ」


 その彼女は、別の席に座るなり、周りにいる人らから羨ましがられていた。


「一応、言っておくと、そのチケット一枚で最大五人までは入場できるから」


 六花の説明に、チケットを目にしている人らはテンションを高ぶらせていた。




 もしかして、この子は、お金持ちなのか?


 容姿からしても綺麗だし、一般人が手に入れる事の出来ないチケットも気軽に上げられるということは、やはり、どこかの令嬢とか?


 親が会社を経営してる?


 将人は憶測で考え込む。




「えっと、佐藤君だよね。これからよろしくね」

「……へ、あ、はい……よろしくお願いします」


 隣から突然話しかけられ、ドキッとした心境で、慌てて真面目な反応を見せてしまう。


 六花は席に座る。

 そして、机の端に高そうなバッグを下げていた。




「おい、まだHRは終わっていないからな。後、少しは静かにしろ」


 騒がしくていたクラスメイトは、担任教師の忠告にしぶしぶと従い、席に座り直していた。


「あとは、今日の連絡事項だな……」


 それから五分ほどだけ、朝のHRが続いたのだった。






 将人には恋愛指数が可視化されて見える。


 現在、将人は高校に通っているのだが、入学してからの一年と少しで、指数が30以上だった子は手で数えるほどしかいなかった。


 今までの人生において、目にした最大指数は頑張って40ほどだ。


 だから、憶測になるのだが、カンストは100だと思う。


 恋愛指数のことについて詳しく知らない。


 そもそも、ニュースでも、そういった報道はされていないからだ。

 噂でも今のところ聞いたこともなかった。


 ということは、自分しか見えていないことになる。


 なぜ、恋愛指数が見えるようになったのかというハッキリとした理由はわからない。


 中学生の頃。その当時好きだった子にフラれてから、少しずつ人の頭に数字のようなものが見えるようになった。


 最初は、男性の頭にも表れ、見えていたのだ。

 しかし、高校生になってからは、同世代の女の子の頭にしか、その数字が表れなくなった。


 高校生になってから、その数字に疑問を覚えながらも過ごす日々を送っていたが、学園の行事において、女子生徒と関わることが少しだけあった。


 自分に対して、親切にしてくれた人や、積極的に話しかけてくれた女の子とかの指数は比較的高かったのだ。


 ゆえに、これは恋愛指数である可能性が高いという結論に至った。


 だが、気がかりなのは、なぜ、昔からの付き合いのある幼馴染――羽生沙織はにゅう/さおりの指数が0なのかはわからない。


 本当は、俺のことが嫌いだとか?

 ま、まさかな……。


 仮にそうだとしたら、何のために昔から付き合いを続けているのか、首を傾げてしまうレベルだ。






 一時限目の授業中。

 将人は右隣の六花の方を恐る恐る見ることにした。


 恋愛指数的に、結婚できる可能性があるとすれば、今までの経験上、80以上は必要だろう。


 朝のHRから積極的に隣の席に座ろうと行動していた六花。

 将人からしたら、彼女とはほぼ初対面である。


 さすがに、こんな美少女が恋愛意識を持って話しかけてくるなどありえない。

 自身に対する指数は少ないと高を括っていた。


 朝のHRの後は、六花の周りに人が集まり、クラスメイトらとの会話に華を咲かせていたのだ。

 だから、六花の頭上を確認するタイミングに恵まれなかった。


 えっと……ん⁉


 将人は瞼を擦り、再び見やる。


 見間違ったのかと思っていたのだが、それは現実だったらしい。


 六花の頭上には、91と表示されていたからだ。

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