第6話 初めての戦闘です! これが実質チュートリアルってことですね!
門を超えて数十メートル先に全身を漆黒の鱗で覆った大蛇の魔物、
えぐれにえぐれた地面が戦闘の激しさを物語っていました。
「どうしたらいいですかフーリエちゃん」
「まずは観察する。命が惜しければ、動きを良く見て最低限の防御と回避で済むように対策すべき。そうすれば自ずと弱点も見つかる」
「先生! 初手で動きを封じる魔法を使うのはダメですか?」
「今のような加勢する場合は邪魔になるだけだからナシ。突然襲われた場合なら有効だね。封じている間に間に体制を整えられる」
「ううっ、早く魔法を撃ちたい…………っ!」
はやる気持ちを抑え、フーリエちゃんの言う通り離れた場所から相手を観察します。
どうやらメインウェポンは口から吐き出される火球のようです。それも追従式の厄介なやつ。
尻尾は激しくうごめいては地面に叩きつけるので、迂闊に近付けません。体の鱗も相当に硬く、どんな攻撃も弾き返されてしまいます。
一方で冒険者の動きを見ると、腹と眉間を狙って攻撃を仕掛けています。つまり、そこが黒鱗蛇の弱点になるわけですね。
体全体を使った激しい動きに追従式の火球、そもそものデカさで、外側からの攻撃は現実的ではなさそうです。
一方で冒険者グループに魔法使いはいないようで、外側からの攻撃を強いられていますが…………?
「あれ? カリーナは冒険者が集まる町ですよね? なのにどうして5、6人しか戦う人がいないんですか?」
「昨夜の地震で筍狩りに出ていったんだろうね。“地面の揺れで筍が頭を出す”って言い伝えがあって、冒険者曰く本当に採れるらしい」
「えー何ですかそれ…………」
「あとは他の依頼を請け負ってるとかあるんでしょ」
何はともあれ、私も参加した以上は戦わないといけません。外側がダメなら内側。内側にダメージを与えるには……
「閃いた!
そう宣言し杖を振るうと、杖の先から強烈な氷の粒と寒風が吹き荒れました。魔法は黒鱗蛇の顔に直撃。既に試していましたが、勝手に脳と体が処理して発現させられる魔法に改めて驚きです。
相手は口と鼻も凍らされたことによる窒息状態で苦しみもがいています。狙い通り!
「実戦でも使えるようになってるね、よしよし」
「これがフーリエちゃんの魔力の影響なんですね」
「言い方に含みがあって嫌だけど、その通りだから言い返せないや。それじゃあ次は、蛇の下っ腹を地面でガッと突き刺そうか。多分コイツは地面に接する場所が柔らかいと思うんだ」
「面倒とか言いながら、アドバイスくれるんじゃないですか〜」
「そりゃ死なれたら困るし。脛をかじる人間がいなくなっちゃう」
うーんこれはもしかして遠回しなツンデレでしょうか。とても良い。
下ではチャンスとばかりに冒険者達が剣を突き刺し、矢を放ち、大剣を振り回し、黒鱗蛇は徐々に弱っていきます。
……と最初は思っていました。なんと黒鱗蛇はみるみる回復していたのです。傷口が癒え、凍った顔面も溶けていきます。 冒険者達は突然の回復に慌てふためきます。私も慌てました。
「ど、どうしたらいいですかフーリエちゃん!?」
「一発で仕留めないと永遠に回復する系統か。これは面倒だね。ま、さっき言ったように地面を隆起させて突き刺そうか。そうすれば動きも止められる」
「りょ、了解です」
しかし相手は顔面を凍らされた恨みからか私を完全にロックオン。無数の火球を放ってきました。
追従機能により、私の動きを読み切って撃ってきます。障害物の無い上空では、まるで某シューティングゲームにおける巫女の攻撃のように、逃げても逃げても追いかけられます。
それどころか、後ろから追いかけるのではなく、進行方向の先を狙って撃ち込んでくるものですから、厄介のレベルを超えています。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」
頭が真っ白になりかけながら、夢我夢中で避け続けました。幸いにも車酔いならぬ箒酔いはしませんが、次第に左右も天地も判別がつかなくなってきました。
もう避けるので精一杯で魔法も撃ち返せません。感情も恐怖に支配され、度が過ぎる恐怖で声も出ません。嫌だまだ転生したばかりなのに死にたくないよ!!!
「あのさリラ、魔法を舐めてない? 魔法ならこんな魔物、温かいバターを切るように簡単に倒せるよ?」
「そ、そんなこと言われてもおぉぉぉぉ!!!!」
「あぁ焦れったいな! ほら!」
火球の回避に手を焼いていると、フーリエちゃんが魔法を発動させました。
地面が棘の形に隆起し、蛇の腹に突き刺さって動きが封じられました。魔法のスケールが大きい……これが天才の力?
「た、助けてくれたのですか……?」
「リラが縦横無尽に逃げ回るせいで、こっちの目が回るんだよ! それにこのままじゃ
突然に箒の先が上空を向きました。下を見ると誰かが放った魔弾の流れ弾が脇をかすめていきました。
フーリエちゃんが流れ弾を回避してくれたようです。
「やっぱり一緒に戦場に行くべきじゃなかった!」
口ではそう言ってますが照れ隠しに聞こえるのは勘違いでしょうか。そうでなくてもフーリエちゃんはかわいいし、私が幸せなのでOKです!
「あぶなっ!!」
興奮してたら流れ弾を喰らいかけました。冷静になりましょう。さすがに命は落としたくないです。
動きを止めた黒鱗蛇に、これ幸いと冒険者達が回復の機会を与えぬよう傷口に攻撃を浴びせていきます。回復するなら、回復する隙を与えなければいい。実にシンプルで、パワーで戦う冒険者らしい戦法です。
さあ、動きさえ止まれば後は楽です。上空からという地理的有利を使って、思いつく限りの魔法を喰らわせます。
そしてついに黒鱗蛇は瀕死状態になりました。これでいける! と、トドメの魔法を放ちます。
「カッコイイところ見せちゃいましょう!
魔法により周囲一帯が大爆発。衝撃波と爆風が吹き荒れます。
「やったか!?」
誰かがフラグを立ててしまいましたが、土煙の中からは、絶命して倒れた黒鱗蛇の姿がありました。
安堵と共に達成感と高揚感が一気に湧き上がってきます。
「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!! 私倒しちゃいました! はぁぁぁぁぁぁっ! これが魔法の力なんですね! やっぱり凄いです魔法は! 見ててくれましたかフーリエちゃん!」
「くかー…………」
「寝てる!」
私の戦いをガン無視して、フーリエちゃんは器用に箒に横乗りになりながら、私の背中に寄りかかって睡眠。
ん? あれ?これってキテるのでは? 背中を預けられるほどに信頼されてるってコト!?
ああぁぁってかフーリエちゃんの寝顔かわいすぎるっ! こんな子が私の後ろで、しかも寄りかかられている、最上級の幸せすぎます!!
「おーい! そこの魔法使いさーん!」
私のお花畑な脳内は、下から呼ぶ声により現実に戻されました。見下ろせば女性の冒険者がこちらを見上げ手を振っています。
「あなたの腕前なかなか良かったわ。よければ私達のパーティーに入らない?」
突拍子もない誘いに頭が混乱します。コミュ障も発動し、あわあわと焦って何も返答できず。この時どうすればいいのか。
▶逃げる
逃げる
逃げる
私は一目散に宿へ箒を走らせました。そしてギルドに着くなり、フーリエちゃんを引っ張り一目散に宿の階へ逃げ込んだのでした。
頼みます! どうか冒険者が私を特定しませんように! 宿凸とか勘弁ですからね!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます