第7章 避暑地でバカンスです!
夏! 海! 推しの水着!
突然ですが皆さん、夏と言えば水着イベントですよね?
特にソシャゲでは水着の推しが実装されて感情を乱されガチャにお金を突っ込む羽目になります。どんなに重い世界観でも、夏だけは理由を付けて海へ出掛け、複数の意味でキラキラした眩しい光景を見せてくる、そんな季節。
さて、私のいる異世界でも夏が到来。日本とは違う乾いた暑さが肌を焼いて焦がします。自分がステーキ肉になった気分です。あるいはファラリスの雄牛。
そんな訳で私達は避暑地を目指していたのですが……
「カプリス!」
「アルカナ」
「カプリス一択です! 絶対カプリス」
「太陽さんさん疲労パンパンになる未来しか見えない。アルカナにすべき」
「リラさんはどっちに行きたいですか!?」
「えぇ……」
フーリエちゃんとエリシアさんが候補となる2つの地を巡って意見が対立。 互いに一歩も譲らず、最後は私が決めることになったのです。
エリシアさんの提案するカプリスは沖縄とかグアムのような典型的なリゾート地。一方で山脈を挟んだ先という立地であるためバカンス客は比較的少ない穴場スポットです。
フーリエちゃんの提案するアルカナは、例えるなら軽井沢のような高原にある避暑地。 〇見沢じゃないですよ。
魔法、特に占術に縁深い地でもあり、毎年この時期になると異世界版コミケとでも言うべき魔導書販売会が開催されるとか。
どちらも魅力的で、同時に避けたい要因もあります。
カプリスは人が少なくゆっくりできそうです。しかしインドアを極めた体に海は過酷。
アルカナは異世界版コミケが気になりますし、海より負担は少なそう。しかし人が多いので宿の問題がまた出てきそうです。
一長一短の選択ほど悩ましいものはありません。逆に言えば「どっちでもいい」てことになりますが、多数決でそれは通じません。
頭を絞りに絞って悩んでいると、ふとあの文言がうかびあがりました。
〝夏イベ〟
夏イベと言えば推しの水着衣装、即ちフーリエちゃんの水着…………???
「カプリスで」
「眼鏡を反射させてまでシリアスな雰囲気で選ぶことじゃないでしょ」
「そうと決まれば早く行きましょう! うっかりしているとイベント期間はすぐ終わってしまいますからねぇ!」
「いつも以上にハイテンションですねリラさん。良いですねぇ雪国生まれの身として、その気持ち分かりますよ!」
「うへぇ……海かぁ……」
溶けそうなフーリエちゃんを引きずるようにして峠道を越え、徒歩で1日掛かって美しい海に面する穴場リゾート地カプリスへ到着。太陽さんさん、けれど風が心地よく涼しいので最高の環境。
建物は石膏でコーティングされた滑らかな外壁で高級感があり、道に沿って植えられたヤシの木が潮風に当てられてさざ波のように葉を揺らします。
「それにしても穴場と聞いていましたが、人が見当たらない程なんですか? 夏なのに?」
「まだ初夏だから本格的なシーズンはこれからでしょ」
「今で十分に夏してると思いますけど、じゃあこの先はどんな暑さになるんですか……」
きっと年末には「もう1年が過ぎるなんて早いなぁ、と毎年言ってる」とセリフを吐露するのでしょうね。
「ところで水着はお持ちで?」
「ないよ」
「私もです」
「わたしも同じく」
ならどうして海にしたんだ、とフーリエちゃんが目で激しく訴えてきます。そんなの現地調達に決まってません?
私はエリシアさんに耳打ちします。
「とっとと連行してフーリエちゃんに水着を着せましょう」
エリシアさんは太陽に負けず劣らずの笑顔でサムズアップ。そしてフーリエちゃんを後ろから抱き抱えて軽々と持ち上げました。
「うわぁ何をする!?」
「どうせフーリエさんは水着を嫌がるでしょう? なら力づくです!」
「別に、嫌というか、興味そのものはあるけど……」
おっと意外な言葉です。こういうのは大抵、嫌がるのを無理やり着せて羞恥心に溢れた姿に愉悦するのが定番なのですが。
背が小さいのを気にしてるし、「そんな服着れるか……っ!」みたいな反応を期待していたのですが。
「フーリエさんなら『私の体を好き勝手にまさぐるつもりでしょ!?』 とか言うと思ったのですが」
「あ、一緒のこと考えてた」
「あのさぁ……私は俗世に対する知識はあって経験や見聞は少ないんだよ。父が軍部の人間だから家を留守にする暇がなかったし、内陸国だから海も無いし。だから体験したくないと言えば嘘になる」
まさか「口では嫌と言っても体は正直」の逆パターンがあったとは。
近くにあった服屋に滑り込み、気が変わらないうちにフーリエちゃんの水着を選びます。小さいからスク水の候補もでしたがありませんでした。仮にあったとしても似合わない気がしますが。
「やっぱりフーリエちゃんのような体型にはフリフリの水着が最も似合うんですよねぇ」
「夏のバカンスのイメージにピッタリですしね。ささ試着どうぞ」
珍しく促されるままにされるフーリエちゃん。「いいよ」という天使の声を合図に試着室のカーテンを開くと――
「グハァッ!!」
「あ、リラさんが気絶しました」
「頭のネジ何本か飛んでるんじゃないの」
「むしろ飛んだほうのネジではないかと」
あぁ我が至福の妖精、永遠に――
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