オタクの海流れ
太陽の光をてらてらと反射させるスカイブルーの海。砂浜は最も海に合う白を200色から選んだかのようで、互いが互いを引き立て合う美しいコントラストを演出しています。
色だけではありません。さざ波や満ち干き、ヤシの葉が揺れる音に空気感など全てが特別感に溢れています。
「これぞ夏。これぞ海って感じですね。わたしの提案は間違いじゃなかったでしょう?」
「人も少なくて私的に助かります。三方が山に囲まれた海って大きな秘密基地みたいです。遠くのは島ですかね? ちっちゃいですけど」
「私は泳げないから陰で寝てる」
「奇遇ですね。わたしも今日まで海に来たことがなかったので泳げません」
「私も無理です」
「「「…………………………………………」」」
カナヅチ3人が海でバカンス。なんと滑稽な状況でしょう。
気絶するほど可愛いフーリエちゃんのふりふり水着も、豊満さを強調するビキニスタイルのエリシアさんの水着も、陰キャには丁度いい私のラッシュガードも無駄になってしまいます。
遠くでキャッキャと海を楽しむ観光客の声が虚しく鼓膜に届きます。
「まずエリシアはどうして泳げないのに海に行こうだなんて言ったの」
「まるで恋愛関係になったら必ず結婚するみたいな言い草ですね」
「え、違うの?」
「あぁ、貴族は恋愛関係と結婚は同義でしたね……一般庶民は恋愛関係のまま終わることもあるんですよ。貴族のように親族の意思ではなく本人達の意思が尊重されますから」
「好きなら結婚しちゃえばいいのに」
腑に落ちない様子のフーリエちゃん。庶民感覚からすれば身も蓋もない言葉ですが、幸せいっぱいなイチャイチャカップリングを見ると「お前ら結婚しろ」と叫びたくなるし、気持ちは分かります。
「んで、リラも泳げないのに海を選んだの。まさか私に水着を着せる為だけ?」
「それも半分、人が少ないのが半分です」
「あぁ…………」
哀れみにも似た目を向けて納得される私。悲しいけどこれ現実なのよね…………
「フーリエさんだってせっかくの水着を海水で濡らさなくてどうするんですか! 一度も水に浸からずに生涯を終える水着の気持ちを考えてみてください!」
「エリシアも水着で銃を背負ってトンチキだよ」
「これ銃じゃなくてパラソルが入ったケースです。まぁ銃も入ってますが」
「私の言語理解能力の方がトンチキになりそう。とにかくパラソル立てようよ。暑い……暑くて干からびる……動いてないのに……」
パラソルを立て、フーリエちゃんが休みやすいように砂と水を混ぜて枕を作ったら、私とエリシアさんでいざカプリスの海へ。
今は見えない月の力が発生させる潮の満ち干きは、白い砂浜を固め、私達の足を引っ張ります。
くるぶしまでしか浸かってないのに引きの強さを感じるのですから、いかに海が広大であり、多力であるかを身をもって知らされます。沖合いに流されたらひとたまりもない……なんて不穏なことを考えるのはやめましょう。フラグになっちゃう。
「リラさん、それ!」
「ちべたっ! やりましたね! 倍返しです!」
海に来たらやること(だと勝手に思っている)水の掛け合い。対象がカップルならもはや通過儀礼でもあるでしょう。恋愛モノでやってない作品を見たことがありません。
ふと視線を感じ、そちらの方向を見てみると若い2、3メートル先で男性2人がこそこそと会話していました。
「
気になったので拝聴させて頂きましょう。もしかしたら私にナンパを仕掛けようとしてたり、なんて。
「おおホントにデケェな! おぉホントにデケェな!」
「二度も言うなバレるだろ」
「違ぇよ。ほら、二度目は木霊だ」
「あれ本物に見えるか?」
「間違いない。あれは天然物だ」
…………どの世界でも見るところ考えることは一緒なんですね。
「どうしましたリラさん。目が半目になって、おまけに瞳に光が無いですよ」
「貧乳はステータス…………」
「フーリエさーん! リラさんが、フーリエちゃんは小さくあるべきと言ってまーす!!」
無言で首を縦に振りました。
「リラみたいに平均的に育った人間には低身長の苦労が分からないだろうねぇ!?」
「こっち来た」
「あのフーリエちゃんが自ら日陰から出るとは」
バシャバシャと海へ入っていくフーリエちゃん。柔らかい砂と波に足を取られてるのが可愛い。愛らしい。
「意外とフーリエさんって煽られたら乗っかるタイプ?」
「当然でしょ。相応の反撃をしなきゃプライドの無い人間だと思われる」
そう言ってフーリエちゃんは、私の頭を超える高さの波を立てて私に被せてきました。これが相応の反撃らしいです。可愛い。
そのままフーリエちゃんも輪に入って海を満喫しました。泳げないので足が届く程度の浅瀬ですが。
全員が初めての海。だからこそなのでしょう。私達は水面ばかりに視線を向けていて、真っ黒に染まりつつある空に気が付きませんでした。
異変に気付いた時には既に波は高くなっていました。
「うわもうこんなに荒れるなんて。急いで上がりましょう。雲も迫ってますし」
「雨が降る前に離れないと」
しかし私達は遅すぎました。足を動かした瞬間に雨が空から落ち、風が吹き、波は更に高さを増したのです。一瞬にして台風並みの強さで。
「局地的超々短時間暴風雨だ!! 急いで!」
フーリエちゃんの叫び虚しく、魔法を使う間も無く、私達は高波から逃れることはできませんでした。気付けば意識を失っていました。
海への知識が浅かったゆえの、必然的な事故だったのです。
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