行く末は如何に……?
「やれやれ。厄介なことになったね」
脱力して猫背になりながらフーリエちゃんは呟きました。
先程まで押し寄せていた集団は、上層や来た方角へ帰ったり、逆方向へ向かったりと各々の脚が向く方向へ散り散りになっていきました。
「バラしちゃっていいんですか」
「想定される中で一番厄介なパターンを引いてしまったからね。嘘はつきたくないし、そうなると全てを明かした上で矛先を支配貴族に向けるように上手くやるしかない。荒波は大しけに変わりそうだよ」
「もう特攻しちゃった方が早いんじゃないですか? こういうのは、やり遂げれば罪に問われないんです」
「エリシアにとってその手段は大したリスクじゃないだろさ。エリシアにとってはね」
フーリエちゃんはどっかりとソファに横になって寝る体勢になりしたが、事態は休息を許しません。店のドアが破壊されかねない勢いで開け放たれ、来客を告げる鈴が余韻を残さず絶命しました。
「どうすんだべどうすんだべ!? ただ事ではなくなっちまったよ!?」
「んぁ〜分かってるから休ませてよ……今ひと山越えたところだからさ……」
「
「とりあえず市民の矛先を支配貴族へ向けるよう誘導はした。ルーテシアと店主姉妹の行為が善か悪かが本質ではないって」
「
思案顔で拳を顎に当てる情報屋と寝返りするフーリエちゃん。対象的な2人の間には、何とも奇妙な空気感が漂っています。奇妙すぎて私もエリシアさんも間に入る隙がありません。
「センチュリー家とクラウンロイツ家の統合についての情報を頂戴」
「……そだない。まず統合の話はほどんと進んでねえんだと。条件が合わねらしけども、その条件までは分かんね。拮抗状態だ。姉さまらの方は主権を取ってやんべと必死なのは間違いねし、死神のお陰でセンチュリーに楯突く口実ができたって話だ」
「上手く使えばクラウンロイツ家も味方にできるな…………」
「一方で記事がクラウンロイツ家っ
2人の話にエリシアさんは頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべていました。時より「脅したほうがいいのでは?」などと脳筋な言葉を呟きます。明晰なのは錬金術のことだけのようです。
かく言う私も完全には理解できませんが、まだ挽回できるチャンスはあり、運が良ければクラウンロイツ家を味方にはできなくても、敵に回さなくて済むことは分かりました。
「つまり当初の読み通り行く末は世論に掛かってる。クラウンロイツ家に傾けば店主姉妹は解放されるだろうし、ルーテシアも極刑は免れるはず。ねぇ情報屋、ルーテシアが次に狙うヒュースベルってどんな人物?」
「獣人だない。元々はセンチュリーの屋敷で働いてたらしけども、半年前に無一文で追い払わっち、そっから音沙汰無しだったない。半年前ちゃ獣人への制限が始まった頃だばい。それだ」
「なるほどね。死神にとってはこの上なく都合が良いね」
ヒュースベルという人物のプロフィールは新聞にも書かれています。
圧政の被害者ともいえる彼のバックグラウンド、そして死神の目的を考慮すると批判の的はセンチュリー家に向くことが予測されます。
圧政により殺人鬼の標的にされた、センチュリー家の政略が悪魔を生み出した、などと。
フィルトネさんとメフィさん以外のクラウンロイツ家の人々が、死神の行いと思想に対してどんな意向なのかはまだ分かりません。しかしコメントを残さないことも考えにくく、今日の新聞の記事によってクラウンロイツ家の意向が明確になると考えると見通しが広くなります。
「あまり危惧することはなさそうだね。ルーテシアの行動によって想定していた懸念は杞憂に終わりそう」
「おらもこだこと初めてだ。肝が冷えて、まだ安心はできね」
「そうだね。まだ油断すべきではないけど、一息つける暇はできそう」
「でもフーリエさんは百息くらいつくじゃないですか」
「私の膝でよければ、千息でも万息でもどうぞ!!」
「全くこの2人は……」
フーリエちゃんに呆れられましたがいつものこと。それに、ずっと固い表情だったフーリエちゃんが微笑んでくれたことで重く暗い空気が一気に晴れました。
暗い時も明るい時も、苦しい時も楽しい時も、いつも中心にはフーリエちゃんがいる。まるで太陽であり月のよう。みんなフーリエちゃんの放つ光に影響されているのです。
太陽が無ければ地球が極寒になるように、月が無ければ潮汐が発生しないように、フーリエちゃんの存在は無くてはならないのです。
つまりフーリエちゃんは神。推しは神なのです。
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