行く末は如何に

「やれやれ。厄介なことになったね」



 脱力して猫背になりながらフーリエちゃんは呟きました。

 先程まで押し寄せていた集団は、上層や来た方角へ帰ったり、逆方向へ向かったりと各々の脚が向く方向へ散り散りになっていきました。



「バラしちゃっていいんですか」

 「前も言ったように嘘はつきたくない。ただ不幸中の幸いなのはルーテシアが犯行予告を出した依頼者。ギリギリ五分五分に持ち込めるか持ち込めないかくらいになる。それくらいの背景のある人物で……」

「もう特攻しちゃった方が早いんじゃないですか? こういうのは、やり遂げれば罪に問われないんです」



 話を遮ってまで脳筋な方法で解決したいのでしょうか。もっともエリシアさんの場合はドンパチしたいだけで、それ以上でもそれ以下でもないのでしょうけど。



「エリシアにとってその手段は大したリスクじゃないだろさ。エリシアにとってはね」



 フーリエちゃんはどっかりとソファに横になって寝る体勢になりましたが、事態は休息を許しません。店のドアが破壊されかねない勢いで開け放たれ、来客を告げる鈴が余韻を残さず絶命しました。新しい鈴に付け替えなきゃ……



 「どうすんだべどうすんだべ!? ただ事ではなくなっちまったよ!?」

「ぁ〜分かってるから休ませてよ……今ひと山越えたところだからさ……」

そだことそんなことしてる場合じゃねえべよ! 我ががくっちゃべったあなたが話した、最悪の場合になっちったでねの」

「とりあえず市民の矛先をセンチュリー家に向かうよう誘導はした。ルーテシアと店主姉妹の行為が善か悪かが本質ではないって」

そだことそんなことしても……容易ではねよ」



 思案顔で拳を顎に当てる情報屋と寝返りするフーリエちゃん。対象的な2人の間には、何とも奇妙な空気感が漂っています。奇妙すぎて私もエリシアさんも間に入る隙がありません。



 「で、センチュリー家とクラウンロイツ家の情報は?」

「……そだない。まず統合の話は白紙だ。よって完全に対立状態。そして姉さまらは捜査局ではなく本家に戻さらっちゃされた。んでこっちの動向も、どっかから抜いてるんだべない。把握はしてるみてだ」

「次は向こうのターンかな。私の予想では拮抗状態になると思うけど」

「ヒュースベルかい? 獣人で、元々はセンチュリーの屋敷で働いてたらしけども、半年前に無一文で追い払わっち、そっから音沙汰無し。半年前は獣人への制限が始まった頃だべ」

「そんな彼が自らの意思で命を絶とうとしている。死神が悪がセンチュリー家が悪か、意見は二分する」



 2人の話にエリシアさんは頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべていました。時より「やっぱり脅したほうがいいのでは?」などと呟きます。明晰なのは錬金術のことだけのようです。

 かく言う私も完全には理解できませんが、まだ挽回できるチャンスはあることだけは理解できました。


 フーリエちゃんの話の通り、ヒュースベルという人物のプロフィールは新聞にも書かれています。

 圧政の被害者ともいえる彼のバックグラウンド、そして死神の目的を考慮すると批判の的はセンチュリー家にも向くことが予測されます。

 圧政により殺人鬼の標的にされた、センチュリー家の政略が悪魔を生み出した、などと。

 店主姉妹以外のクラウンロイツ家の人々が、死神の行いと思想に対してどんな意向なのかは分かりません。しかしコメントを残さないことも考えにくく、今日の新聞の記事によってクラウンロイツ家の意向が明確になればより事は進むでしょう。



「あまり危惧することはなさそうだね。ルーテシアは上手くやってくれている」

「おらもこだことこんなこと初めてだ。肝が冷えておっかね怖い

「そうだね。まだ油断はできないけど一息つく暇はできそう」

「でもフーリエさんは百息くらいつくじゃないですか」

「私の膝でよければ、千息でも万息でもどうぞ!!」

「全くこの2人は……」



 フーリエちゃんに呆れられましたがいつものこと。それに、ずっと固い表情だったフーリエちゃんが微笑んでくれたことで重く暗い空気が一気に晴れました。

 暗い時も明るい時も、苦しい時も楽しい時も、いつも中心にはフーリエちゃんがいる。まるで太陽であり月のよう。みんなフーリエちゃんの放つ光に影響されているのです。

 太陽が無ければ地球が極寒になるように、月が無ければ潮汐が発生しないように、フーリエちゃんの存在は無くてはならないのです。

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