第3話 フーリエちゃんの魔法教室! こんなの無料で受けていいんですか!?!?

「んっ……あぁ…………? あれ…………」



 目を覚ますと知らない天井でした。一瞬だけ脳がパニックになりましたが、徐々に記憶が鮮明になっていきます。



「そういえばここは……そうだ、異世界転生したんだ。そして昨日はかわいい魔法使いに出会って……」



 隣のベッドを見ると、中は空でした。今日はフーリエちゃんに魔法を教えてもらう予定だったのですが、いないのでは困りました。部屋から出て探すのも怖いし……

 と思った瞬間、部屋の窓がひとりでに開きました。不審者かと身構えると、現れたのはフーリエちゃん。良かったぁ、めっちゃビビったよぉ……



「んしょっと。あぁ起きてたんだ。じゃあ約束通り教えるからついてきて」

「は、はい!」



 髪の毛を手櫛で整えながら、フーリエちゃんの後ろで隠れるように歩きます。とはいえ身長が低いのでほとんど隠れられませんがそんなことどうでもいい。フーリエちゃんから漂う匂い……良き……これが美少女の匂い……


 案内されたのはギルドの中庭でした。

 ここは練習場にもなっているようで、サッカーフィールドほどの広さの中で冒険者達が魔法や戦闘の練習していました。飛び散る汗と清々しい朝日が鬱陶しい。

 フーリエちゃんと対面の形になり、いよいよ授業開始です。

 


「まずテストしよう。体の奥にフワフワしたものを感じると思う。それをふんっ、て感じで力を込めてみて」



 なるほど分からん。とりあえずやってみますか。



「ふんっ!」



 言われた通りに手に力を込めると、青白い光が手の平に現れました。



「その光が正真正銘の魔力で、攻撃にも使える魔力弾だよ。しかし1回で成功するなんて、なかなか素質あるよ」



 これが魔力、これが魔法。


 追い求めて、夢見た魔法。それが今、確かに私の手元に実体として現れているのです。

 フーリエちゃんの言う通り、体の奥のふわふわした部分から手元へ流れを感じます。血流とは違う、何とも言い難くも不快ではない不思議な流れです。


 魔力は手の平サイズの小さな青白い球ですが、暖かみがあり、眩いほどに輝いていました。憧れていた無限大の可能性がこの球には詰まっている。


 これ以上に感動する出来事があるでしょうか。

 私、泣きそうです泣いた。



「え、なんで泣いてるの!?」

「感動しちゃったんですもんんんんん!!!!」

「そんなに!?」



 あぁ、また限界オタクしてしまいました。感極まるとすぐ泣くのは私の悪い癖ですが、こればかりは泣いても仕方ない事情があるんです許してください……



「もう大丈夫です。続きやりましょう」

「そ、そう。じゃあ次はその弾を投げてみて」

「いいでしょう、中学で二ヶ月間だけバスケ部だった私の全力投球を見せるときです。とりゃゃゃゃゃ!」



 全力投球した魔力弾は真っ直ぐ進みーー

 綺麗にUターン。

 おや、どんどん光が近づいてきますね。すっごーい。



「あばぁ!」



 避ける間もなく自分で投げた魔力弾に被弾。私の体は宙に浮いて芝生に投げ飛ばされました。殴られたように痛い。



「だ、大丈夫?」

「なんとか、大丈夫、です」



 予想より痛かったですが、痣も無く軽傷で済みました。しかし一発だけならまだしも、何発も当てられたら骨折しそうです。怖い。



「じゃあ次は手のひらを上にして」

「こうですか?」

「そう。ちょっと借りるよ?」



 するとフーリエちゃんは、私の手のひらを掴んできました。フーリエちゃんの柔らかく暖かい感触に心臓がバクバクと脈打っている間に、互いの手のひらが光に包まれました。

 魔力を出したときに感じたフワフワ感が全身に巡っていく感覚がします。同時に熱さや冷たさ、土や風のような感覚が体の内側を駆け回り、形容しがたい気持ち悪さに思わず顔をしかめてしまいます。



「フ、フーリエちゃん、これは一体…………」

「私の魔力を分け与えて、属性の力をリラに付与した。火水木土氷風、これら六属性の内、学校で習う中級魔法くらいまでは扱えるはずだよ」

「たったこれだけで、ですか? もっと難しい練習を積まないとできない印象でしたが……」

「本来はそうなんだけど、リラには即戦力になってもらいたいし、何より教えるの面倒。幸いにもリラは魔法への適性が高いから、こんなご都合主義みたいな方法ができた」

「それ言ったらまずいんじゃないですか……」



 さすがにそれは失言ではないかと意見すると、逆にフーリエちゃんはまくしたてるように反論してきました。



「都合がいいから魔法なんだよ。だからこそ魔法は万能で、発想と実力次第でどんな事もできる。そうやって様々な発明が生まれ、更に他の技術と混ざり合ってまた新たな技術が生まれて、相互に影響を与えられながら繁栄を遂げてきた。夢があってダイナミックでロマンチックだと思わないかい!?」

「た、確かにそうかもしれない…………! ふお……ふぉぉぉぉぉ…………! さすが天才魔法使いフーリエ様! かわいい…………!!!!」



 蒼い瞳がキラキラと輝いて眩しいです……! 夢に満ち溢れた表情、とてもかわいらしい! ぐうたら系でも芯があって、けれど大好きな物事にはひたむきに向き合う姿勢は素晴らしくて、ある種のギャップ萌えも感じます。最高です。



「ともかくリラは魔法が一通り使えるようになってるはずだよ」

「でもどうやって使うのですか?」

「リラの体に刻み込まれているはずだよ」

「刻み込まれているって……魔法は魔力とか祈りとか意識してどうこうしないと使えないんじゃ……」

「なら例えば、人間は筋肉をどう使って歩くかと聞かれたら答えられる?」

「えっと、分かりません」

「それと一緒。中級までは原理を理解してもしていなくても、ある程度は感覚で使える。今度は杖を使って試しにやってみよう。私の予備を貸すよ」



 やってみよう、なんて教育番組みたいなノリで言われましても……いくら推しの杖を借りたとて、さすがに困惑の情が勝ります。

 火の玉でも出せばいいんでしょうか? 魔力弾を発現させたときのように、杖に魔力を込めます。すると杖の先から火の玉が発現し、勢いよく飛んで行ったではないですか。

 フーリエちゃんの言う通り、体が勝手に魔力を制御して使いたい魔法が放たれていきます。



「すごい……すごく、すごいです……!」

「ふふっ、魔法の魅力に言葉を失っちゃった? まぁそうだよね、こんな強力な武器を簡単に扱えてしまうんだもの。生まれつき魔法を使える人からすると不思議でも何でもないけど、使えない人からすれば恐ろしくも魅力的に映るよね。だからこそ魔法使いになる為の適性が存在するのだろうけどね」



 不信感は高揚感に変わり、目の前で様々な魔法が表れて消えるのが楽しくて仕方ありません。

 比奈姉ひなねえの語っていた光景が現実として目の前にあるのです。もしこの世界に比奈姉がいて、同じように魔法を習得していたら、きっと今の私と同じ感情に包まれているのかもしれません。

 誰よりも魔法を追い求めていた人なのです。魔法の世界で魔法を使えたとき、どんな感情を隆起させたかは想像に難くありません。



「ほらほら、もうリラは魔法を覚えたんだからフーリエの魔法教室は終わり。朝ご飯食べるよ!」



 フーリエちゃんが手を叩いて私を呼びます。子ども扱いされてるみたいで少々気に食わないですが、フーリエちゃんなので許しましょう。実際、フーリエちゃんと比べれば私の腕前は子供みたいなものでしょうし。



  ※※※



 朝の食堂は人で溢れかえってました。まるで年二回開催されるオタクの祭典のよう。

 その中で二人分の席を見つけ座りました。



「これでもうリラは魔法使いだよ。ただの極度の人見知り人間から、極度人見知り魔法使いへクラスチェンジ」

「人見知り……コミュ障……ううっ」

「ふと思ったけど、その割に私とは普通に話せるんだね」

「なんか一度打ち解けた人とは普通に話せてしまうんですよね」

「へぇ。そうだ、話変わるけど、リラは昨夜の地震気付いた?」

「いいえ? 全く……」

「そっか。変なこと起きなければいいんだけどねぇ」

「そうですね……」



 地震大国と呼ばれる日本に住んでいたせいか、少し地震に鈍感になってしまったようです。

 この世界における地震への認識がどうかは知りませんが、少なくとも建物に耐震性があるように見えません。

 魔法があるとはいえ、比較的小さめの地震でも気を張る必要があるでしょう。それは不安を隠しきれないフーリエちゃんの表情を見れば明らかなことです。

 


「ところでリラ、この街はいつ出て行くの?」



 フーリエちゃんがモグモグとパンを頬張りながら尋ねてきました。

 私は比奈姉を探す目的がありますが、闇雲に探すのは得策ではありません。フーリエちゃんが見たという場所が最初の目的地になるでしょう。

 しかし旅に出ると言っても何も持っていません。まずは装備を整えることから始めましょう。



「見たところ何も持ってないようだし、ここで装備を揃えてから出たら?」

「それ今考えてたことです」

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