第8話 これから始まる異世界旅! 比奈姉探しの旅に出発です!
翌朝。階下のギルドで
冒険者達の視線を集めているような気がして、めっっちゃ緊張しますが比奈姉のため頑張らないと。
「すすすすいません! ひ、人を探しているのですが……」
「特徴を教えて頂けますか?」
「は、はい。髪は薄茶色でセミロング。し、身長は私より頭ひとつ分くらい高くて、容姿は…………どんなでしたかフーリエちゃん」
緊張でフーリエちゃんから聞いた情報が消し飛びました。改めて聞くと、あくびをして答えてくれました。
「フード付きのケープを羽織ってて、下はショートパンツだった気がする。最後に見たのは約1ヶ月、【コルテ】で」
「名前は分かりますか」
フーリエちゃんが答えている間に (私の脳はハードディスクか!) とツッコミして緊張が解けたので、ハッキリと声を張って答えました。
「モトヤマ・リラ。私の姉です」
「はい、了解しました。では各地の提携ギルドにも情報提供を呼び掛けるよう手配しておきますね。では、コホン。冒険者のみなさーん! こちらの方に心当たりありませんかー!」
急に受付のお姉さんが大声をあげたかと思うと、ゾロゾロと冒険者達がカウンターに集まってくるではないですか!?
ダンベル何キロ持てるかで競いあってそうな屈強な冒険者陣に囲まれ、困惑と怯えで目がぐるぐるの私。せっかく解けた緊張の糸も再び張ってしまって喉がカラカラです! フーリエちゃんを盾にしようとも小さいので無理! でもそこがしゅき。
「モトヤマ・ヒナか。東洋の国の人間か?」
「似たような人を見たわ。紅茶を狂ったようにガブ飲みしてた」
「よう魔法使いのちっこい嬢ちゃん、今夜暇かい?」
「出すもん出して寝なよ」
「そりゃどうも」
やっぱり冒険者ってロクでもない!! 酒臭いし無理! 逃げる!
フーリエちゃんも同じ気でいたようで、視線で「逃げるよ」と合図しています。私も若干外れた目線で「はい」と返事を送ると、予備動作なしにダッシュ! 様々なイベントに巡礼した経験から、人混みを避ける術は持っているのですよ!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……抜け出せた……」
「あんな有様では情報に期待できないですね……」
他の地域のギルドにも比奈姉の情報が共有されるそうなので、そちらに賭ける方がよっぽど健全です。少なくとも、あんな人達からの目撃例をアテにしていたら一生掛かっても見つからないでしょう。
「さて、私は今日でこの街を出たいんだけど、リラはどうする?」
「もう出るんですか? 私は比奈姉を探しながら観光もしたいのですが」
「この街は本当に何も無いよ。『冒険者の聖地』なんて呼び名とは裏腹に、朽ち果てた記念碑とさっきの大型ギルドしか無い。特徴が無いのが特徴ってやつ?」
「うーんそうですか……ならフーリエちゃんが見かけたという場所が、最初の目的地になりますね」
「えー逆戻りするの? でもまあ普通はそう考えるし、あそこから別ルート辿るのも悪くないか」
フーリエちゃんは意に満たないようですが、ここは私の目的のため我慢してくださいな。
ふと上を見上げれば、突き抜けるような青い青い空。転生前の世界では見られなかった、まさに青雲。吹き抜ける風はほのかに暖かく、人間が活動するには最適な気候です。
「ヘックション! ヘックション! ズビッ、ブエックション!」
「ハンカチならありますけど、使います?」
「ありがと……ズビビビッ」
若干一名、春に拒絶された人間がいました。草花が花粉を撒き散らすには最適な気候です。
「さて、どっちに向かえばいいんですか?」
「西側の城壁を越えて道に沿えば、隣の都市を経由してコルテまで行ける」
「了解です」
箒を取り出し飛び立つと、眼下には赤瓦の屋根が並びます。改めて見ると教科書で見た中世ヨーロッパの街並みそのままです。
城壁を越え、先日の戦地を越え、地上に引かれた一本道の上を進みます。
「お腹空いたぁ~頭が働かなくて眠いよぉ~」
そういえば朝食を食べてませんでしたね。私のお腹も空腹のベルを鳴らしました。
「昨日の残りのパン食べます?」
「絶対カピカピだよねそれ」
「そんなでもないですよ。かじれば意外とふわふわ……でもないですね」
「当たり前でしょ」
背に腹は変えられぬと、フーリエちゃんはパンをかじります。私もかじります。
カピカピのパンから僅かにただよう芳醇な香りは、流れに身を任せて往く気ままな旅を予感させました。
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