第1話 前略、異世界転生しました
「ほえ……これが異世界……」
メガネのレンズ越しに見えるのは、レンガ敷の道に木枠とレンガで構成された建物。
全体がレンガ色で構成された街は人や馬車の往来が盛んで、単一な印象を持つ街並みに彩りを与えています。
大通りには冒険者向けの衣料品店や武器と防具を扱う専門店、鍛冶職人の工房などなどが立ち並び、旅の装備のほとんどは揃えられそうです。
この街こそが“冒険者”という職業が産まれたキッカケとなった地、この世界で最大の宿場町【カリーナ】だそうです。
曰く、約300年前に冒険者を名乗り、当時の世界を支配していた龍王軍を消滅させた英雄が最後の戦いを繰り広げたのが現在のカリーナとのこと。目の前にある看板にそう書いてありました。
そして初春の心地よい風が流れる空を見上げれば、箒に跨り空を飛ぶ人がいました。そう、魔法使いです。
「ままままま、魔法使い…………!!! ほんと、ほんとに、いる…………!?!?!?!? ふおおおおおおおぉ!?」
どこから出したか自分でも分からない奇声を上げてしまいました。周囲の人から奇異の目を向けられてしまいます。
あああぁぁぁぁぁ~また限界オタクしてしまった……感極まると奇声をあげてしまうのは私の悪い癖です。
ですが! ここは本物の異世界! あのラノベやアニメで地元の風景より見た異世界なのです! 限界化しないほうがおかしいです!
あ、ちなみに限界オタクというのは、感極まると語彙力が極端に低下したり奇声が出てしまったり、早口になったり突然泣いたりと挙動不審になってしまうオタクのことです。
感情の核爆発、とでも例えれば伝わりやすいですかね?
とはいえ本当に異世界転生があったとは。
私はつい数分前に、立ち寄ったコンビニで店に突っ込んできた車に轢かれてしまい、
しかし再び意識を取り戻すとそこは神社の境内で、目の前に美男子な神様がいたのです。
「
「え、えええええ、あ、はは、はい」
「しかし君は実に幸運だ。我の力を以てして、君の短い人生を延長させてあげよう。それも、この世界とは異なる、異世界で」
「ヴェッ!?」
「さぁ新たな人生の門出を祝おう!」
「ええええええええええええええ!?!?!?!?」
てな軽い感じで私は異世界転生を果たしました。
いやホントにそうだったんですよ!? 顔合わせて30秒未満で異世界転生は導入が雑すぎませんか神様!? RTAしてらっしゃる!?
でもまぁ、憧れだったのは間違いないので素直に喜ぶことにしましょうか。
ならば、私は異世界でやりたいことはひとつ! それは魔法使いになって国々を回ること。しかし今の私は魔法が使えません。使い方も知りません。当然装備もありません。
とどのつまり、この世界のことについて何も知りません。旅とか以前の問題です。
傍から見たら大馬鹿者ですが、ここまで来たのですからもう引き下がれません。装備を整えて魔法を覚えれば万事解決です。
とりあえず冒険者達ギルド的な場所を探しましょう。そうすれば何とかなると私のラノベ脳が訴えています。
特に意味もなく右に視線を移すと、大通りの向こう側に大きな看板がありました。
【カリーナ冒険者ギルド】
一歩も動かずに見つけるとはなんという幸運。探す手間が省けました。
大通りを横切り、幸運の女神様に感謝しつつギルドの扉に手をかけて——
………………………………………………………………………………………………
「無理だ……っ」
そうです。私はコミュ障。大勢が集まる場所なんて近寄ることもできません。何とかなりませんでした。
ましてや中にいるのは筋肉モリモリマッチョマンの男性に、電話ボックスを持ち上げてターザンは余裕そうな女性。かわいい美少女もいますが、私のような貧弱者が入れる雰囲気ではありません。
結局私は、ギルドの前を何回も往復する不審者になっていました。
そんなんで数分経った頃。
「おい、そこで何をウロチョロしている」
「ヒャイン!?」
振り向けば甲冑を装備した屈強な人が。これが本物の兵士……! 威圧感だけで死ねる……!
「そこで何をしている!」
「ひぃっ! あっ、い、いや、その、あ、あれです、あの……と、友達を、ま待って、るんですけど、で、で、友達が時間になっても、こ、来ないので、ふ、不安に、なって……ああっ」
文字に起こしたら句読点が大量に付いてそうなキョドり方をする私。何も悪いことしてないのに冷や汗が止まらんです。あぁ情けない。
「そうか。あまり変な動きはするなよ」
兵士は納得した様子で去って行きました。心臓バックバクで死にそう。ガチャを100連回してもピックアップキャラが来ないときよりも心拍数が上がります。
もう目を付けられてしまった以上、このままずっとウロチョロはできません。もう腹を括りましょう。私は再び扉に手を掛け——
「いい加減に入ったらどうなのさ」
「ウヴァ!?」
突拍子もなく声を掛けられました。だから心臓に悪すぎますって!
恐る恐る振り向くと、そこには一人の少女が。
ぼさぼさのボブの金髪。
眠そうに垂れ下がったオッドアイの瞳。右側は空を思わせる水色、左側はエメラルドを想起させる青がかった緑色。
ボウタイブラウスの上にはローブを羽織り、膝丈のブリーツスカート、そして緑色のリボンを巻いた三角帽子。
紛うことなき魔法使いでした。
そして何より――かわいい。完全に二次元で見る美少女ですよこれはえぇもうだめ直視できません小動物っぽい感じがなんとも萌えです萌え!!!! 魔法使いでロリっぽくてオッドアイとか属性過多にも程があるんだが??? 完全に私を殺しにきてらっしゃる??? こんなん推すしかないが??? 一目惚れで推しになるなんて私基準じゃそうそうないですよ最高金賞あげちゃいますお金では買えないれっきとしたやつ!!!
「……急に顔がほころんだね」
「あっ、ああああああああああああ!? 」
完全にやらかしてしまった――! これでは完全にキモオタだ――!
どうにかして話題を変えなければ……!
「ええ、え、えと、あ、あなたは何を?」
「ん? 私はただの魔法使いだよ。今日はここに泊まろうかと思ってね」
ふわぁぁと大きなあくびをして端的に答えました。よし話題のすり替え成功。ついでにかわいい姿も拝めました!
「で、君は一体なにをウロチョロしてたの?」
「ヴァッ!? あ、えと、ギルドに入ろうとしてたのですが、緊張して尻込みしてしまって……奇異の目で見られないか不安で」
そんな私の不安の言葉を、魔法使いさんは呆れたようにバッサリ切り捨てました。
「ギルドに入るのに緊張する要素なんてどこにあるのさ。確かに冒険者は変人だらけで近寄り難いけど、ここのギルドは宿も兼ねてるから一般人もいるし平気平気」
ふわぁぁとまた大きなあくびをして魔法使いさんはギルドの中へ入っていきました。私も慌てて追いかけます。
ギルドの中は活気に溢れ、もはやお祭りのようです。昼間から酒を呑んで談笑し、男女両方からセンシティブな話題が飛び交う混沌空間。
そんな様子なので私が入ったことには気づかないらしく、スタスタとカウンターまで辿り着けました。
「宿泊希望。てかカウンターに突っ伏して寝させて」
寝起きが辛くなりますよそれ。
「宿のご利用ですね。宿泊期間はどのくらいでしょうか」
「うーん、とりあえず2日」
「2日ですね。あ、そちらの方も宿泊ですか?」
「うえ?」
コミュ障に突然の質問は止めてください死んでしまいます。
「あっ、え、えっと、はい?」
「ではこちらに必要事項を御記入下さい。あ、こちら鍵になります」
「ん、どうも」
魔法使いさんが鍵を受け取り去っていきます。それはつまり私と職員さんの一対一になることを意味します。
そんな状況に耐えられるわけありません無理です助けて誰か頼れる人に付き添ってもらいたいそうさっきの魔法使いさんとか。
そしてごちゃごちゃの脳内から吐き出された言葉は。
「あ、あの魔法使いさんと一緒の部屋でお願いします!」
「え……?」
私って、ほんとバカ。
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