第17話 セイナが残していったものだ
車の中で諸々整えた後、おじい様がいる建物まで駆け寄る。
「お待たせして、申し訳ありません」
「多少はマシな顔になったか。では、いくぞ。行先は地下シェルターだからな」
「地下シェルター、ですか」
おじい様は、そのまま無言で歩き出しエレベーターをエドワードが操作している。途端にエレベーターは動きだし地下に移動しているのがわかる。それから、凡そ体感三分で起動を停止した。
「えらい地中やね」
「避難時にも使えるし、大切なものの保管にも使えるようにしているのね」
「ここからしばらく、ムービングウォークに乗っての移動だ。迷うこともない」
おじい様がそういうと先に乗って移動を始める。僕らもあとに続くけど、来たのは初めてだからなんだかワクワクする。
「どこぞの豪商や幹部連中もこういう倉庫を持っているが、自分の保有する船や珍しいものの展示場のようにしていることが多々ある。わしも昔はそうだったが、娘に展示場でもないのにわざわざ船を並べ出しておく意味がない。必要になればその都度出してあげればいいと言われたわい」
「お母様が常日頃から整理整頓はきちんとするように、良く指導されました。大事な場面でそれがないと困るでしょって」
「うむ。わしも言われたのう」
「整備することも移動することも大切だけど、無駄な労力はきらってました。趣味は別でしたけど」
「……ふむ。そこの脇で降りる」
「はい」
「ハッチを開けますので、少しお待ちください」
エドワードがパネル操作とキーを操作してからしばらくすると。
ウィーーン――。
シャッターが自動で上がっていき、中から照明がカチカチと照らし出された物。
「宇宙船……? あ、お母様の紋章!?」
「見事なものだろう? 娘の……、お前の母、セイナが残していったものだ」
「こちらには、戦闘艦が五機と大型輸送艦が一機ございます」
「どれも見た目で今では古い型と言われようが、性能は今の戦闘艦にも劣らん。むしろ駆逐艦クラスの攻撃性能はあるだろう。登録としてはフリーゲート級と大型輸送艦だがな」
「少し前まで帝国における規約が存在し、フリーゲート級と駆逐艦級で登録費用が大分異なりましたからな。費用削減と言ってフリーゲート艦を改良されていました。フリーゲート級に載せれる最大スペックの起動核で、どこまで駆逐艦クラスまでの火力を出せるか。移動、加速の細部にもこだわっておられました。後は……、可変機能と全弾ブッパはロマン! ドローン主体の攻撃とか夢があるじゃない? とか言い出して、夢中で魔改造――、ゴホン。ご自身で改造されておられました」
「す、すごいなぁ」
「そして、さらに奥に見える唯一の輸送船は、母艦として機能し、一世代前の小型軽空母並みのスペックを有したとか。生活拠点として内装にこだわったものと聞いております。フリーゲート艦を収納できるようにするには、中型輸送艦ではサイズ的に無理がありました。登録費用を度外視しても、戦闘艦を収納させておきたかったのでしょうな」
「個人で空母を持つのは、かなりの壁があったからな。セイナが夢を語る時ぐらいか、令嬢らしく見えたのは。エンジニアとしての実力がけた外れに高かったことが、幸いしたというか災いだったというか。作業着の繋ぎを着た令嬢が、顔を汚して宇宙船の改造をしているという話が出回らんように、屋敷では
「大奥様は、最初白目をむいて倒れられましたな」
「耐性がついてからは、セイナの味方をしとったがな」
「服やアクセサリーなどよりも、宇宙船のカタログをお選びになり、お気に入りチェックするのがご趣味でしたからな。カタログに目を通して目の下にクマをつくることも珍しくはありませんでした。何度も苦言を申しましたが、聞き入れてはくださらなかったので諦めました」
「隠れて体調を崩されるより、分かった上で体調管理した方がまだましとか。お前が肩を落として言ってきたときが懐かしいな」
お母様の昔話に花を咲かせている二人。僕が知らないお母様の姿を二人は知っているんだな。当たり前か、家族だもの。
ひとしきり話し終えると、おじい様は僕に向き直る。
「さて、本題に入る」
「あ、はい」
「フォルアよ。あそこにある機体を全部お前に譲る。元々は、お前の母セイナによって造られたものだ。登録者であるセイナはおらず、登録者は仮でわしの名前にしてあるが、お前がその気ならあれを動かしてやってくれんか?」
「でも、おじい様にとっては、僕にとっても遺産ですが。思い出の品だというのは変わらないはず」
「お前に回りくどい言い回しは不要だな。お前の母セイナは、元々はお前にと遺したものだ。本当は、成長したお前と、一緒に乗って宇宙旅行がしたいと手紙にはあったがな。その願いは叶えられなかった」
「おじい様……」
「お前は以前言ったな。自分の作った船を飛ばしてみたいと。大気の中だろうが外だろうがそんなことはどうでもいい。短時間でも自分の意志で、自分の手で造り上げたその船で空を飛んだ。
お前は納得せんかもしれんが、及第点くらいはとれているんじゃないか? 意固地というか、頑固というか、地力を付けるのにもそろそろ目途を付けたらどうだ。
お前自身は自分の約束をすでに果たしている。わしがあれに乗る時間もないしな。かといって他人に譲る気はないし、倉庫で眠らせるよりも動かしてやった方が、セイナも喜ぶと思うのだが。――どうだ?」
「僕が乗ってもいいんでしょうか……」
「お前以外に、あれに乗る資格など有しておらんよ。フォーサイス男爵家が何を言って来ようと、お前の母セイナの遺産はお前のものだ。それを望んだのもお前の母セイナだ。それに、例の帝国からの公募は、今からまた船を造り直す時間もなかろう?」
確かにそうだ。僕は自分の目標を及第点だが達成している。おじい様の望み、お母様の望み、僕がやらないで誰がするというのだ。それに、アンドロイド達やお世話になった人たちに、恩を返せるチャンスが転がり込んできたんだ。うだうだ考えるのは後でもできる。今できることは――。
僕は自分の手を見て、ぎゅっと握りこんだ。
「はい。もう迷いません。僕はお母様の船に乗ります!」
「よく言った。それと、セイナからお前に、まだ預かっている物もある」
おじい様は、エドワードに合図を送り、その合図を受けたエドワードが小型のケースをおじい様に渡した。
「これはな、生前セイナが心血を注いだ特殊チップだ」
「と、特殊、チップ!?」
「我々ハイアータ伯爵家に連なるものには、稀に特殊な技能に目覚める者がおる。わしでいえば、精神力をエネルギーに変える力だな。それを強化してくれる、この武器デバイス」
「僕も、エドワードから同じようなものを持たされました」
「お前の場合は、少し違う能力のようだ。わしの真似事のようなこともできるが、本質はそこではなく、テレパシーの一種ということらしい」
「テレパシー?」
「例えば、言語が全く分からなくても、相手が何を言いたいのかそれとなくわかる。言葉ではなく、精神やら心やらでつながるというおぼろげなものだ。似たような能力はセイナももっていたがな。覚醒した詳しい力は、結局セイナ自身もわからなかったようだ。必死に研究しておったよ」
「そうですか。それが何なのか、突きとめるのも面白そうですね!」
「そうだろう? 開拓のほかにも目的があった方が身が入るというものだ。わかったら、わしにも教えてくれ」
「ここへの立ち入り権限は、後程設定したキーカードと一緒にお渡しいたします」
「ありがとう」
「とりあえず、ケースに入っているものは良しとして。わしからもお前に渡すものがある」
エドワードが再びおじい様にケースを渡している。
「え、それは」
先ほどのケースとは違い、少し大きなアタッシュケースだ。おじい様がケースを開くと中には、お母様がくれたようなものとは違うが、様々な色のチップがいくつもある。
「特殊チップではないが、特急扱いのチップだ。多少の地力はついたのだろう?」
「それなりには」
「宇宙はそれほど甘くはない。いついかなる時も最善の状態で
僕はちらっと振り返り、アンドロイド達を見る。
「はい」
「ここを立ち去れば、しばらく、わしとも会うこともできんだろう。たまには祖父の心労も考え、行為に甘えてほしいもんだな。お主の個人データは保管してある。餞別に特殊チップと一緒に、ここの施設で付けていくといい。それと、船の調整もあるだろうからな。別邸を自由に使ってかまわん。誰もおらんより、使える者がおる方が使用人も喜ぶだろう」
「わかりました。あ、ありがとうございます! お世話になります!」
この後、おじい様の計らいで、別邸にある施設でのチップ施術をすることになった。施術は終わっても定着の時間もあるので一週間ほどの療養が必要らしい。
アンドロイド達は、僕が動けない間にドガーさんのところで整備と諸々のアップデートをしてくると告げて、惑星ケッシュへ向かうようだ。
僕が目を覚ましたのは、施術から三日後。おじい様は仕事で出かけていたが、おばあ様と久しぶりにお会いし、母についての色々な話を聞くことができた。
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