第23話 ブルーバ第二宇宙支部①
文明が艦船で宇宙を飛び回るようになってから、一般的に通信手段として
他にも長距離や緊急時に行う通信手段は存在するのだけど、世間一般では総じてスターリンクと呼ばれている。
〔先日送られてきた帝国政府からの通知で、一カ月程後の午後からワープゲートの使用が許可されています。それまでに済ませるられることは済ましておきましょう〕
開拓に出発してしまえば、
そして僕らは今、宇宙船の試運転を兼ねて航行中だ。惑星ブルーバを離れ、ほど近い場所にある宇宙ステーション、ブルーバ第二宇宙支部へ向かっていた。
大型輸送船から軽空母艦という事に扱いを統一したアルクス。DS-07というのは製造番号、いわゆる型番で名称や正式登録が未登録のままになっていたため、宇宙ステーションに登録しに行くのが目的だ。お母様が設計して組み上げたのだけど、型番の仮登録しかしていなかったらしい。
エドワードの話によると、改良してからは宇宙に出ていなかったようだ。なので、時間があるうちに正式登録をしておこうという話になった。正式登録時、AIであるアルクスの名前で艦船名登録する予定だ。AIに名前を付けて、艦船の名前と統一することはよくあることらしい。
型番だけでも宇宙の航行に支障はないけど、艦船名は是非登録してほしいとアルクスからの要望でもある。
識別で正式な登録データがあることは、宇宙では一種の信用を得るステータスでもある。何らかの事故で航行が難しくなったり、宇宙海賊であるならず者に襲撃された際の救援信号で登録されている船があることによって、救助する側にもわかりやすく判断しやすくなる材料にもなる。軍艦や警備船の検問でも一定の信用が得られるしね。
宇宙の航路を正しく航行していれば、遭難なんてことはほぼないはずだ。それでも不意のトラブルには備えておくべきだろう。宇宙船乗りの命綱とも言えるものだし。
「登録データで必要な記載はこんなものかな。アル、問題ない?」
〔はい。問題ないでしょう。ところでキャプテン〕
「うん?」
〔傭兵
「ああ、前に教えてもらったやつだね。もちろん登録するつもりだけど、両方に入っておく方がいいってエドワードにも言われててね。両方のギルドから信用が高ければ、相応にランクも上がる。ランクが高ければ、仕事の幅や商品の取引でも割引適応とか優遇されるっていうのがあるらしい」
〔そうですね。今後どのようにキャプテンが行動するかによりますが、我々の戦力があれば大抵の事はこなせると思われます。入っておく方が今後有利になるでしょう〕
「商業ギルドに入っておけば、保有する艦船の限度が十機になるよね。資産次第ではそれ以上保有することも認められるけど。それに登録料や年会費は少ないからデメリットはほぼないようなものだと思ってる」
〔デメリットがあるとすれば、緊急時に召集がかかる可能性があること。ほかに、理由なく依頼を失敗すると違約金が必要であること。また、受注した依頼が契約内容と異なり困難なこともあること、と言ったところでしょう。輸送依頼や護衛依頼なども、情報が正確な物ばかりではありません。悪い状況が重なったり、時には情報が古かったり曖昧だったりすることで、
「安易に高額な報酬金に飛びつくとか、好条件が過ぎるとかっていうのにも警戒しろってことだね。要は契約内容をしっかり吟味することか」
〔その通りです。もとより、ギルド側が依頼内容を精査するでしょうから、突拍子もないことは起こりにくいでしょう。ですが、依頼者側から悪意がある場合も可能性がないわけではありません。不正の片棒を
僕の答えに肯定するアル。僕としても特に危ない橋を渡りたいとは、さらさら思ってない。ランクだって、最初は簡単な依頼しか受けれないだろうけど、コツコツ真面目にやってれば上がっていくだろう。ただ、悪意に関しては注意が必要だ。宇宙での活動をよりよく続けるためには、情報収集は怠るわけにはいかない。
「それはそうと、他の船のAIやコルビス達の様子はどうだろう」
〔問題は報告されていません。諸々の調整も順調のようですから。今は各々武器の換装などで相談を行っているようです。状況に合わせたプリセット決めているのでしょう〕
「そっか、ならいいんだけど」
〔各艦のAI達も問題なく
「いや、連絡がないなら今は彼女達の好きにしてもらった方がいいさ」
〔――はい。ただ、寂しがり屋の子もいますから、定期的に声をかけてあげてください。その方が喜ぶでしょうから〕
「うん。わかった」
僕はしばらくの間、アルの中で滞在することが多いだろう。なので、他の船のAI達との接触はまだ少ないのだ。コルビス達アンドロイドと各艦船のAIで調整がされていく中、しゃしゃり出るわけにもいかないからと思っていたんだけどね。コミュニケーションは大事という事だ。
☆
アンドロイド達が合流して人心地着いた頃のこと。
まず、各艦船のAIとアンドロイド達の引き合わせを行った。
「最初はやっぱりアルの紹介だね」
〔はい。私はディースシリーズの軽空母艦。DS-07のAI、アルクス。宇宙で、あなた方の家として、灯台となるべくして
「こちらこそ」
「よろしゅう」
「アルは元々は工業用の大型採掘輸送艦なんだ。製造はクラットル社が手掛けていたんだけど、他社との競合に負けて業績不振が続くようになったらしい。その時買い手がつかなかった船を、お母様が買い上げてこの船がここにあるわけさ。クラットル社自体は未だ続いているけど、規模を縮小したらしくてね。アルと同じ同型機は造っていないみたい」
〔当時は中途半端に、採掘船の機能と輸送船の機能を融合することに理解はなかったようです。採掘船なら採掘に特化した機能を、輸送船なら輸送に特化した機能を付けた方が良い風潮でしたから〕
「今みたいにアタッチメントも豊富じゃなかったみたいだし、仕方ないと言えばそうなのかもね」
「差別化を図りたかったけど失敗した形になったのでしょう」
「企業っていうのは、利益が出てなんぼだからね」
「お母様は、クラットル社の損害を知ってそこに目を付けた。大型採掘輸送船の設計図と特注の消耗品なんかの製造ルーツ、機械研究のデータを引き換えに損失の何割かを補填して、会社が潰れない様にしたんだって」
「キャプテンの母様にとっては、渡りに船ってことか」
「クラットル社からしても、救いの神だったかも」
「間違いないな」
「さて、話をもどすと僕は基本的に、宇宙ではアルの中で生活させてもらうことになる。みんなの使う部屋数は余裕であるから好きな部屋を使ってくれたらいいし、各艦の整備や補給もあるから母艦に必ずいる必要もないよ。ただ、しばらく僕はライセンスの為にブリッジで操舵することになると思う。アルがサポートしてくれるけど、休憩や睡眠は必要だから交代で誰かブリッジにいてもらうことになる」
「問題ありません。我々もフォローできるように調整しておきます」
「その辺りはお任せするよ。続いて、フリーゲート艦のみんなだね。データは共有しているから確認していると思う。僕の印象で進めさせてもらうよ。まずはじめにレクサーだね」
〔はい。DS-01のAI、レクサーです〕
「レクサーは、戦闘機開発の有名企業スクルーノが手掛けていた機体だ。装備が中距離での連続的な射撃がメインとなるように組まれている。換装により装備を多様化することで、対応の幅も広げられるね。戦闘では弾幕でのかく乱を得意とするところだ。ただ、エネルギー兵装ならまだいいけど、実弾を湯水のごとく使う仕様は、緊急時だけでお願いするよ。他の船にも言える事なんだけどね。申し訳ないけど、収支が安定してからってことになる」
「大丈夫ちゃうか? 母艦も含めて攻撃手段は各々あるみたいやし」
「相手次第ですが、ビーム兵器があまり効かない相手もいるでしょう。あまりにも相性が悪いようなら許可を求めてから使用することもできます。もちろん、猶予がなければ使いますが」
「それでいいと思う。身を守ることを優先してほしい。それで次が――」
〔同じく、DS-02のAI、ゼクセンだ〕
「ゼクセンも企業スクルーノの手掛けた機体だね。ゼクセンの強みはその装甲にある。さらに近距離用の武装が多く
「戦闘機が群れで来た場合、ドローンの方が有利な場面もあります。なんにせよ、単機で孤立しないように他の艦と連携が必要ですね」
「そうだね、連携の必要性は非常に高い。戦闘シミュレーターもあるから、色々な場面を想定して活用してほしい。じゃあ、次の紹介をしようか」
〔DS-03のAI、サリバーです〕
「サマーソーン社が製造した、ドローン主体の機体を改造したのがサリバーだ。サリバーの基本的な立ち回りは後方よりだけど、ドローンによる戦闘を得意とすることからオールレンジに攻撃手段を持っているね。特にドローンによるシールド展開をすることで、艦隊の防衛にもつながる重要な位置づけだと思う。サリバーがいれば、不安要素は結構減るんじゃないかな」
「シールドは確かに有用ですが、過信はできません。使いどころは多いかもしれないけど、高出力の火力兵器には歯が立たないときもあります」
「もちろん、過信するつもりはない。駆逐艦以上の巡洋艦や戦艦の主力兵器にはさすがに厳しい。だけど、ドローンを犠牲にすることで、攻撃から船体を守ることはできるはずだ。ダメージを軽減する役目は重要だろうと思う程度さ」
「それを聞いて安心しました。オールレンジと言っても、ドローンを破壊したり妨害してくる奴がいないわけじゃありませんから。妨害されたら難しい状況もでてくるでしょう」
「もちろん、問題が起きた時の想定は絶対するさ。それで四機目は――」
〔DS-04のAI、ロンビといいます〕
「ロンビはセレクール社が製造した機体だね。サマーソーン社の機体と似た傾向があるけど、扱うドローンの種類で差別化されてるみたいだ。リペア艦であり補給艦でもあるこの艦は、兵装が他の艦よりも少なくはある。けど、索敵レーダーの強化が施されているんだ。警戒の目を持ち自衛もある程度できそうなところが良い塩梅だと思う。
キャパシタのチャージユニットがあるおかげで、味方に自力のエネルギ供給だけでなく外からのエネルギー供給も
「サリバーと並んでドローンの展開をすることで、宙域制圧もやりやすくなるでしょう。戦闘中、死角が減るのは良いことです」
「被害は出さない方が望ましいけど常にそうもいかない。被害を少なくすることは当たり前に取り組むべきことだけどね」
その場にいた全員が頷く。
〔続いて、DS-05のAI、アヴォカと申します〕
「大手ハグライズ社が手掛けた高火力機、それがアヴォカだ。アヴォカは長距離の攻撃ができるのだけど、
レーザー兵器が財布に優しいと言っても、兵器である以上使い続ければ歪みは出るし整備は必須。当面は整備資材に余裕はあるから問題はないけど」
「ENについては、ロンビからの支援もあれば当面なんとかなるでしょう。基本的に戦闘は短く終わらせるのが
「そうだな。それによ、装備を換装して近距離でも中距離でも対応できるようにしてもいいんじゃね? 味方が近くにいりゃ遠距離にこだわり過ぎる必要もないさ」
「それもそうだね。お母様の趣味全開でデフォルト装備のままにしておく必要は感じないから、操縦する人の自由にしてくれていいとも」
「柔軟さはキャプテンの美徳っすね」
「ありがと。それで、最後がシュープだね」
〔はい。DS-06のAI、シュープです〕
「アルと同じく製造はクラットル社が手掛けていたんだ。同型機はもうないけど、派生機ならあるんじゃないかな?」
アルの格納庫で待機していた、採掘及びサルベージ船。この船がいるだけで、多少の収入は見込めることが分かった。アルクスも採掘能力はある様だし、二隻で旨味のある採掘ができれば最高じゃないだろうか。それと、この艦はドローンの運用もできるので、小規模な敵に対して自己防衛だってできる。採掘艦と
「目的の宙域で採掘できれば言う事ないけど、出来なかったとしても戦力になってくれる頼もしい限りだよ」
「シュープはアタッチメントの換装で、ある程度何でもこなせるっていうのはすごいと思います。それに、互換性が幅広いのもいいですね」
「そうなんだよね。アタッチメントの種類はマーケットに豊富にあるみたいだけど、今は手元に数種類あるだけだ。今後、状況に合わせて揃えていこうと思ってるよ」
やはり早めの収入確保は確立したいものだ。
コルビス達はそれぞれ挨拶を終えたら各艦に入り、各々で操作調整をするらしい。感情豊かな彼女らは、姦しい言い合いをしながら分かれていった。そんな彼女らは喧嘩することはあるんだろうか? ないといいけど。ふとそんなことを思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます