第22話 幸先がいいな

 アルクスを含むAIを搭載した戦闘艦たちを起動し、それから三カ月近くが経った。


 エドワードには賞味期限が長くもつ食料品からフードマシンに使う糧食りょうしょく、医療品や燃料などの必需品を手配してもらった。アルクスの提示した追加で必要な物品は、手配するのに難しいものはそれほどなかったらしい。ただ、数がこの上なく多いので、出立前の期限までに納品してもらえるように骨を折ってもらった。


 輸送船だけでもかなり揃える物はあったのに、フリーゲート艦が六隻もあれば、マスト必需品な物から追加品も含め揃えるには時間はかかる。それに、費用はなんだかんだで伯爵家からすべて出ている。おじい様からの伝言で、出世払いで返してくれればいいと言われたが、返し切るにはどれだけかかることやら。


 他に三カ月の間にあったことといえば、帝国の公募によるワープゲートの混雑を解消するため、皇帝とその身内による抽選会が放映されたことだ。普段見ることのない皇族の出演に世間は沸いた。


 実施された内容は、応募が早いもの順で時期が被る応募者をまとめたリストが制作された。次に、アナログなルーレットに回転を加え、ダーツの矢で射止めた個所に書かれた宙域に飛ばすというものだ。ワープ先の混雑もなくす予定らしいく、軍による見張りまである力の入れようだ。ちなみに、公募は予定していた動員数を大幅に上回ったため、予定の一月前に募集を打ち切っている。


 元々、二カ月の延期があったので、期間を一月削ることへの文句はそれほどなかったようだ。期間内に応募が間に合わなくて参加できなくても、時期をおいて宙域に入ることは認められているのが大きいだろう。


 抽選を受ける応募者には、決定した宙域にワープゲートの使用許可を優先的に得られる特典が配布される。ワープゲートの特典には有効期限が設定されており、期限が切れてしまった場合、強制的に最終応募期間の枠に入れられてしまうようだ。そこは注意しないといけない。


 そして、淡々と抽選会が始まった。実家が僕に与えた応募時期の通知は、公募が開始された早い段階だった。運がいいことに、スペースステーションが思いのほか近くにある宙域が当たった。補給面で安心できる材料がそろうのは良いことだ。


「幸先がいいな。宙域の情報がないか調べるのと、ステーションの情報も仕入れておこう」


〔ネットワークから情報を洗い出します〕


「お願いするよ。僕は先に来るドロイドの搬入に行ってくる」


 数日前にドガーさんから連絡をもらい、先にドロイドを送ってくれたそうだ。


「しかし、輸送船が広いって言っても、ドロイドが六十体っていうのは多い気がするんだけどな。整備パーツも送ってくれたみたいだけど、格納庫の一つをドロイド用にするか?」


カーゴ貨物スペースには余裕はあります。単純作業や運搬にもドロイドがいた方が何かと助かるでしょう〕


「それはそうなんだけどね」


 ドロイドについて少し触れておく。ドロイドの性能はピンキリだけど、作業用全般のドロイドは汎用性が高い。その反面、特化したことは苦手な部分がある。自己判断は基本的なものであればできる。ただ、細かい判断は苦手とする。ただ、アンドロイドや高性能なリーダー種のドロイドがいれば、その指示に従いその性能は飛躍的に伸びる。


 人類であれば、指揮系統のチップなどの運用で同じことができる。処理速度や脳波の影響で細かな指揮ができるドロイドの数に限りはあるんだけどね。


 

〔船内であれば、必要に応じて私も運用できます。それに、DS-02の移乗攻撃艇にもドロイドは必要ですから〕


「あー、そうだった。それを言い出したら、六十体なんて少ない数のように思えてきたよ」


〔アンドロイドが多数在籍するなら、ドロイドが多くて困ることはありません。

私の中にはあらかじめ、メンテナンス施設がありますから、整備に困ることも少ないでしょう〕


「うん、確かに。最低でも、アンドロイドの数に対して十倍ぐらいは必要か。ドガーさんに追加の催促しておくかな」



 ☆



 それから、コルビス達が戻ってきた。話に聞いていた新メンバーのアンドロイド五人と、百に上る数のドロイドと共に。


「やあ、お帰り。会えてうれしいよ」


「ただいま戻りました、キャプテン」


「調整ばっかされてさ、身体動かしたくてうずうずしてたぜ」


「仕方ありません、必要なことでしたから」


「そのおかげで、なんやかんやスペック上がったんよ」


「それぞれの得意武器も効率良く扱えるようになりましたからね。戦闘の継続も多少は楽になります」

 

 エドワードから連絡を受けて出迎え、久々に会った彼女らは特に変わった様子はない。いてあげるなら携帯されている装備ぐらいだろうか。それと、連絡を受けていた追加された面々。


「元気そうで何よりだよ。それで、そちらが話に聞いてた五人かな?」


「はい。初めまして、キャプテンフォルア」


 まずは私から、と挨拶を始めてくれた。


「私はエルベル。プロセスチップは中位指揮官技能と探査技能です。上位戦闘と上位戦闘艦フライトアシスト。それと成長マインド、通常作業用共通インプラントになります。よろしくお願いします」


「そして、ボクはヴィースだよ。プロセスチップは中位強化センサーとドローン情報処理強化をプラグインしてるよ。上位戦闘と上位戦闘艦フライトアシスト。それに成長マインド、通常作業用共通インプラントは他の子も共通だと思うよ」


「そうですね。ヴィースが言ったように共通で付いているものははぶきましょうか。それでは続きを。わたしはブローワと申します。先輩のフーリアンと同じく上位医療技術をプラグインしています」


「あれ? フーリアンは上位補助医療技術だったような?」


「わたくしたち先発組の五人も、合流した彼女たちのデフォルトのプラグインと同様にアップデートされています。わたくしも補助が取れて、上位医療技術がプラグインされていますよ。個人技能は前と変わらずドローンを使用しますけど」


 確かにドガーさんから、それぞれアップデートしたとは聞いてたんだけど。


「そうなんだね。後でそれぞれのスペックデータを再確認しておくよ」


「それがよろしいでしょう。それで――」


「はいはーい、次は自分っすね! 自分はブルダです!」


 フーリアンの言葉を引き継ぐようにブルダが勢いよく僕の前に来る。

 

「自分、キャプテンに会えて光栄っすよ!」


そう言うと、なぜか僕に抱き着いてきて、ブルダは頭をすりすりとこすりつけてきた。


「はしゃぎすぎやろ! スペック紹介はどないした?」


「あ、プロセスチップは上位メンテナンス技能とエネルギーコントロール技能がプラグインされてまーす!」


 スイビーが諫めてくれて、ブルダは続きの紹介をしてくれた。上位メンテナンス技能は、ほとんどの船のメンテナンスが可能で、データさえあれば専門的な作業もできるらしい。


「ちなみに、うちも上位メンテナンス技能にアップしてるで」


「そ、そうなんだ、頼らせてもらうよ。僕も色々学ばせてもらいたいからね」


「まかしとき! で、あんさん、いつまでキャプテンに抱き着いてんねん! こちおいで!」


「やぁ~。スイビー先輩、やきもちっすか?」


「ちゃ、ちゃうわぁボケェ! キャプテンが困っとるやないか、ちょいだまっとり」


「はーい」


 ブルダが離れ僕が安心して息をつくと、いつの間にか後ろから急に僕の頭が撫でられた。


「え、わっぷ!」


「ワタシ、オデル。プロセスチップは中位ハッキング技能とステルス技能。よろしくキャプテン」


 僕が振り向くと、自己紹介してくるオデルに抱きしめられた。振り向いたタイミングで抱きしめられ、豊満な胸に顔が埋もれて間抜けな声が出てしまった。


「あ、ああ、よろしくお願いするよ」


 とりあえず、挨拶するために胸の間から顔を上げてみる。彼女の身長は二メートルを超えているらしい。


「カワイイ……」


「え?」


「なんでもないです。ナデナデ……」


 呆けている僕をスルーして、オデルは僕を撫で続けている。


「おっめぇー、キャプテンがまた固まってんだろ。呆れられる前にそろそろ離れろ」


「ハーイ」


 今度はカラトロスが止めに入ってくれた。オデルがすんなり離れてから、僕はどぎまぎしながら落ち着く為に再び息をつく。


「とりあえず、皆よろしくね。みんなが来てくれたから船の試運転もやっとかなきゃね。あとは、これから届くはずの納品もしなきゃいけない。少しバタバタするけど、協力してくれると嬉しいよ」


 今後の予定について話したり、納品作業の進捗、データの共有などを行って時間が過ぎていった。




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