第24話 ブルーバ第二宇宙支部②

 宇宙ステーション、ブルーバ第二宇宙支部。


「こちらは、軽空母艦DS-07。キャプテンのフォルア・ハイアータです。入港許可を願います」


『こちら、ブルーバ第二宇宙支部管制。シグナル確認中、――艦船データを確認しました。Dブロックのドッキング・ベイ、八番ドックへ入港許可が出ました。自動誘導システム及び誘導ビーコンを起動されます。システムに同期し、指示に従い入港してください。ようこそ、ブルーバ第二宇宙支部へ』


 管制との応対は初めてやったけど、すんなりと受付をしてくれそうだ。艦船が仮登録されていたことも時間短縮には関係してるのだろうと思う。


 誘導ビーコンの指示にしたがって、アルクスを入口まで近づける。すると、ステーション側から自動誘導システムが開始され、こちらと同期して接舷できるようになった。大きい船はシステムのアシストがないと操作が難しい。シミュレーションで経験したけど船側の入港アシストシステムだけでは時間がかかるのだ。


 それに、首都から遠く離れたステーションには、誘導ビーコンはあっても、自動接続システムがないところもあるらしい。その辺も慣れていかなきゃならないけど、今回はシステムが手助けしてくれて、入港に手間取らなくて助かった。



 ポートに接舷したのを確認して、下船する準備を始める。今回同行するのは、コルビスとカラトロスだ。ウォッチデバイスにステーションのマップをインストールしておいたから迷うこともない。トラブルもなくギルドの受付までこれた。


「こんにちは。ご用件をお伺いします」


「こんにちは。艦船の本登録と、ギルドの登録にきました。これが本登録用の艦船データです」


「データをお預かりしますね。艦船データの照会はすぐにできますよ」


 受付のお姉さんは、読み取り機に渡したデータチップを通した。


「艦船の仮登録がされていますね。仮登録が七隻ある様ですので、先に商業ギルドの登録をいたします」


「お願いします。登録用の個人IDはこれです」


「はい、お預かりします。お持ちいただいたデータの登録と紐づけに、少しお時間を頂きます。その間に軽くギルドのご説明をいたしましょう」


 そう言って、ギルド受付のお姉さんが説明をしてくれた。


 登録したギルドでは、同じく登録している艦船での活動が推奨される。登録されていない船の使用は許可されているが、照合データがない艦船の場合、ギルドからの補填や保証などがされない場合があること。


 傭兵ギルドと商業ギルド登録は、年間費を支払うか一定以上の依頼を達成することで更新できる。更新が行われない場合はギルド登録の凍結、または取り消しがギルド判断で行われる。尚、ギルドに登録されている艦船の場合、各星系のギルドの影響下であれば補給可能なステーションで、ランクに応じて燃料等の補給に割引が適応される。


 依頼を理由なくキャンセルする場合、キャンセル料金や違約金が発生する。正当な理由があれば免除される場合もあるが、ギルドの許可が下りない程度の理由は認められないこと。悪質な場合にランクの降格及びギルドからの追放処分になる事がある。


 依頼は必ず各ステーションのギルド窓口で受注し、完了報告を行うこと。常時依頼のクエストチャートや緊急性の高い依頼、特別な指名依頼などの依頼も含め、必ずギルドを通すこと。通さなかった場合の報酬の過不足、金銭のトラブル等にギルドは関与しないものとする。



 などなど、分厚い冊子ほどの参照規約が載っているマニュアルデータを渡され、熟読することを強く勧められた。傭兵ギルドと商業ギルドのマニュアルは、同じ内容で統一されているので、ほとんど変わりはないらしいのだが、依頼を出す側で多少の違いはあるらしい。



「艦船の本登録、及び傭兵ギルドと商業ギルドの登録が完了しました。依頼に関して端末を利用してクエストチャートを閲覧できますし、窓口で条件に合ったものを紹介することもできます。詳細が知りたい場合も、まずは窓口で確認していただいた方がよろしいでしょう」


「わかりました。ありがとうございます」


 受付に礼を述べ、一旦その場を離れる。後ろに控えていたコルビス達と相談することにした。


「おまたせ、登録は全部終わったよ」


「お疲れ様です。本登録の認証通知が来てますね。この後どうしますか?」


「何か依頼でも受けとくか?」


「そうだね。まずは、クエストチャートを確認してみよう。常時依頼とか、簡単な依頼があれば受けてもいいと思う」


 クエストチャートは、依頼をオンラインで閲覧できるシステムらしい。今まで縁がなかったけど、少し見ただけでも依頼の豊富さに驚かされる。


「輸送依頼は多いですね。護衛依頼は少ないようですが」


「首都近辺で宇宙海賊が少ないのかもね」


「そう言われりゃそうなのかもな」


 首都星系の周辺という事もあり、軍や警備関連の巡回監視が厳しいことで知られている。おいそれと海賊行為などはできないのだろう。


「常時依頼に医療品の項目が多々ありますね。この辺りの項目なんて食料品二割、部品系三割、医療品五割ほどが散見されます」


「まだ調整もあるし、距離が短いものを選んで受けようか。帰りも何か受けれれば受けたらいいし、依頼がなければそのまま帰ればいいよね」


 一週間もあれば往復できる距離を選び受付に申請する。実績が少しでもある方が、他所での活動にもプラスな面があることくらいはわかる。アルクスの試験航行も兼ねてるからこの辺りかな?


「ん~とじゃあ、この常時依頼を受けてくる。今回は何事も初めてだし、搬入作業にも立ち会うよ」


 再び受付に向かい、クエストの受注をお願いする。


「クエストが終わりましたら納品証明を受け取って、こちらのステーションまたは他のステーションのギルド受付で完了報告をお願いします。完了した通知は各ギルドで共有されますのでご安心ください」



 最後に、お気をつけてと送り出された僕らは、食料品二割と医療品八割を合わせたコンテナを搬入してもらう手続きも済ませて、皆の待つドックへ戻ることにした。



「搬入が始まるのが三十分後。完了予定時刻が一時間後です」


「ふう。しっかり確認して、初めての輸送を無事終えたいね」


「うちらも目を光らせるし、安心してなって」


「頼りにしてるよ」



 ドックに戻る際、ステーションの窓から外を見る。瞬いている光の数だけ星があり、まだ見ぬ景色もあるのだろうか。それとも、ただ茫然とこの景色がつまらなく感じるのだろうか。そんなことを考える。




 ☆



 ほどなく搬入作業は予定通り問題なく完了し、納品証明の受領書にサインをして出発することにした。


「こちらは、軽空母艦アルクス。管制へ、出港許可を願います」


 ちなみに、艦船の名称や名乗りは持ち主の意向で自由だ。自由ではあるが、大げさに誇張しすぎると笑われると思う。なので、常識の範囲で呼称することが推奨される。


『こちら管制、出港許可が出ました。付近に艦船はありません。ビーコンに従い出港してください。良い旅を』


「ありがとう」


 これから向かうのは、ブルーバ星系の隣にあるマーマモス星系のステーションである。ブルーバ星系から船の単独ワープドライブで亜空間航法を行い、三日かかる距離だ。


〔ステーションから十分距離が離れました。ワープドライブ起動、シーケンス始動オールグリーン。続いて亜空間フィールド展開完了、目標の座標固定しました〕


「よし、マーマモス星系へワープ開始」


〔カウントスタート、……3...2...1、本艦は亜空間航行に入りました〕


「しばらく時間が空きます。どうされますか?」


 コルビスが尋ねてくる。特にこれと言って予定はないし、僕も少し休むかなと思っていた。少し伸びをして考えてみたが思い浮かぶ事もない。


「トレーニングをするのも良いけど、今は何もないようなら少し仮眠するかな」


「わかりました。ブリッジには私とカラトロスが残りますので、お休みになってください」


「ありがとう。何かあれば起こして」


「了解、お休みキャプテン」


 フォルアは船内の自室に向かうため、ブリッジを後にした。



 ☆



〔キャプテンが自室に入られ、お休みになりました。ウォッチデバイスから睡眠中の心拍数に落ち着いています〕


『すぐに横になって眠ったんですかね』


『宇宙での活動も慣れてなかったらしいからね。気が張ってたんじゃないか?』


『ストレスやメンタルのケアは、しっかり見てあげないとね!』


『キャプテンの事ですから、そこまで気が回らないかもしれません』


『ボク、キャプテンのお世話しようかな』


『ワタシもお世話したい』


『過度なスキンシップはキャプテンが望まれるかわかりませんし、最初は控えめにした方がいいと思いますよ?』


『嫌われない程度の距離感は必要だぞ』


『せやせや。日常的に負担かけたらせわないわ』


 フォルアのいないときは、それぞれが示し合わせたように通信を繋ぎ会話が繰り広げられる。主に話されるのはフォルアの話だが、それを本人が知る由もない。







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