第25話 自動調理器(オートクッカー)
マーマモス星系へワープが成功し、通常空間へ移行する。
通常航行に切り替わった時点で、システムに問題がないかチェックを終えた僕らはくつろぎながら雑談をしていた。
「マーマモスの宇宙ステーションへは、およそ一時間で到着する予定です」
「了解。今回は依頼の報告だけしたらステーションで少し滞在しよう。交代で買い物なんかできたらいいと思ってる。必要なものがあれば購入してくれていいからね」
「キャプテンは、何か目的の物でもありますか?」
「んー、
「そうですか。でしたら、護身用の武器も見てきてはいかがですか? 確かテザー銃をお持ちでしたよね」
「うん、テザー銃は持ってるよ」
「殺傷力の高い銃系統や武装は持っておくべきと思います。せっかく訓練もしているわけですし」
「殺傷力のある護身用の武器か、必要になるかな」
「自分から攻撃しないまでも、相手に脅威と思わせるのは大事だからね」
「脅威がないと思われれば、相手は気兼ねなく攻撃してくるでしょう。けん制は大事だと思います」
「そうだね。わかった、いくつか見繕ってみるよ。このステーションで思うようなものがなければ取り寄せても良いしね」
思えば護身用なんて、その場を切り抜けさえすればいいと思ってた。だけど、それだけじゃダメなんだな。悪意に対し抵抗できなければ付け込まれる。そういう世界に自分はいるんだと意識を高めなきゃ。
「まあ、そう気負わなくても今は問題ないでしょう。我々も易々と負けるようなことはありませんから」
「それは心配してないさ。ただ、自分の意識する部分が足りてなかったなって思い直してただけだからさ」
「そうですか。何か思うことがあれば、気軽に聞いてください」
「そうするよ」
そんな雑談をしながら時間を過ごし、目的のマーマモスの宇宙ステーションに到着した。
☆
宇宙ステーションに無事入港する。まず行うのは依頼の納品だ。早速納品を依頼担当者に連絡を入れて行う。それほど待つことなくドックに到着した担当者らが、コンテナを検品していくのを眺めて待つ。
「検品が終わりました。問題はありません」
「では、こちらにサインをお願いします」
検品作業は量も少なかったので二十分程度で終わった。問題がなければやり取りは短くこんなもので済むらしい。受領書にサインをもらい担当者が帰っていくのを見送った。
「さて、これからギルドに依頼達成の報告だ」
ついてくるメンバーは、ミカラドにヴィース、それにオデルの三人だ。ヴィースとオデルとはそれほど話ができていないから、この機会に人柄が掴めたらいいなと思う。
「じゃあ行くっすよ、キャプテン」
ドックからしばらく歩いて、ムービングウォークが設置されている区画があったので利用する。
「これがあると楽に時短できるね」
「大抵のステーションには設置されてるようだけど、有ると無いとじゃだいぶ違うっすね」
「この先にギルドがあるようです」
「他の利用者も多くいるからはぐれちゃダメヨ、キャプテン」
さすがにマップデータがあるステーションで迷子になるなんてあるわけない。
って思っていた時期が僕にもありました。迷子ではないけど、トイレに寄ったとたんに絡まれました。
「ギルドで完了報告させた後に絡まれるなんてね」
「何ぼそぼそ言ってやがる。さっさと荷物とクレジットを引き渡せ!」
「いやいや、引き渡せって言われても」
「さっさとしろや! 余裕こいてんじゃねぇ!」
二人組の男が詰め寄ってくる。二人ともナイフを所持しているようだ。
『目を離した隙に絡まれるなんて、お約束カキャプテン?』
『とりあえず、無力化するっすよ』
「頼むよ」
「あんっ!?」
「うお!!」
二人の男は、うめき声を上げたとたん倒れこんで動かなくなった。どうやらヴィースの一撃で気絶した様だ。ヴィースの手にはチリっとスパークしている電流が見えている。
「助かるよ。まさかこんなとこで恐喝にでくわすとはね」
「首都星から離れているとはいえステーションで強盗なんて、今時実行する者がいたことに驚きナノヨ」
「コロニーや惑星でやるならまだしも、こんなとこでやるなんてね。足の付く犯罪なんて捕まえてくれと言っているようなものっすよ」
「ステーションのような限られた施設で防犯設備があり、監視が強い場所でやるなんて考えなし過ぎて呆れます」
三人が言う様に、ステーションの中は監視が厳しいことで認識がされている。犯罪防止は各々気を付けるものだが、ステーション内での犯罪はかなり重い処罰が下る時がある。発覚したが最後、犯罪歴としても一生重く見られるのだから。手軽にできる犯罪と言えどやるメリットはない。
ミカラドとオデルが一人ずつ犯人を担ぎ、僕からステーションの警備部へ被害届として連絡を入れる。数分待つと連絡を受けた警備員が駆け付け、事情を説明して犯人を引き渡すことになった。
後で警備部から連絡を受けると、犯人は遠いスペースコロニーからの旅行者であることが分かった。彼らはステーションでの常識に疎かったらしい。疎いというか、犯罪をやらかす時点で問題なのだが、スペースコロニーで出来た犯罪がステーションでも出来ると思い込んでいたのだそうだ。傍迷惑な話だよほんと。
しかし、近頃旅行者の急増に伴い、ステーションでの犯罪も頻度が増しているという話だった。トラブルや犯罪には十分気を付けるようにと注意喚起される。
変なトラブルにあったが、気を取り直してマーケットが並ぶ区画へ移動してきた。
「思ったより店舗が並んでるね」
「宇宙ステーションで店舗を持つのは難しいらしいですが、期間を設けてであれば敷居は下がるそうです。なので、そうして開店している店舗も多々ある様ですね」
「キャプテン、あそこの店舗に
「お、じゃあ行ってみよう」
店舗へ入りカタログと展示物を見比べていく。アルクスの船内にあるオートクッカーは、お母様が設置したもので型は古い。だが、有名なメーカーでグレードが高い物なので今の時代の自動調理メニューでも互換性があるらしい。いくつか調理メニューを見繕って購入した。
あとで自動調理して試食会でもやってみよう。
続いて、いくつかの店舗を冷かしてから武器を扱っている店に入る。
「さすが宇宙ステーションのショップだね。有名どころのメーカーが満遍なく取り揃えられてる」
「お客さん、ここらじゃグレードは平均的だが、信用度の高いメーカーの武器を揃えてるよ。何かお求めの物はあるかい?」
店の店員から尋ねられ、銃に慣れていない人でも扱えるピストルとライフルのおすすめを聞いてみた。
「慣れてない人の入門向けの銃ってこったな? なら、ピストル型ならマカル社のMQ-44とMFE-79だな。威力も連射も標準ではあるが、ENカートリッジの消費が少なく、素人でも取り回しが簡単なのが人気だ。あとは、こっちのラーズマ社のLM-7Gも癖がなくておすすめだ。
ライフルだとうちで有るのは、ヴェーベック社から出てるVe-112が集弾性があって人気が高い。それと、コンパクトマルチライフルって部類だが、アタッチメントが豊富なVe-54AMもおすすめだな。ライフルのわりに小型なんだが、アタッチメントでサイズ調整ができる」
店員はカウンターにピストルを並べてくれ、ライフルは飾ってあるものを指さした。
「近接用の物は何かありますか?」
「近接だと、オーソドックスにナイフか伸縮できる携帯棒の類だな。そこの棚に置いてるもんがそうだ」
「警備隊で使われてるやつですね」
店員さんのおすすめは、どちらかと言うとナイフなんだとか。サイズが手ごろで携帯しやすく、丈夫で壊れにくいのが売りなんだって。
「ナイフはそのままでも使えるし、切り替えてENを消費してビームカッターが使えるから簡易的な火起こしなんかでサバイバルにも使える。それに丈夫なロープなんかも切り崩せるぞ」
セールストークを織り交ぜてくれるあたり、携帯棒よりおすすめなんだろう。
「どれにスルカ決まった?」
少し考えてから決めることにした。
「MQ-44は学校で支給されて使ってたやつの上位モデルだ。整備もやったことあるしこれにするかな。ライフルはVe-54AMとナイフはおすすめの奴を買っとこうか」
「あんがとよ!」
ミカラド達から特に指摘も出なかったのでその場で装備することにする。とりあえずピストルとナイフのホルダーを腰に掛け、Ve-54AMはアタッチメントが多いので今はケースでの持ち運びになる。
僕としては人心地着いた気分だが、ミカラド達のショッピングを続けるためにフロアを雑談しながら歩いていく。そのまま小一時間ほど店を回った後、ゆっくりドックへ帰り着くのだった。
☆
マーマモス宇宙ステーションでのショッピングは、交代も含め滞りなく終わった。ブルーバ第二宇宙支部に戻る際に、何かしら輸送の依頼がないか調べたところ、部品系運搬依頼があったので受けてステーションを出発することにした。
もろもろの手順を終えて時間も頃合いになったので、休憩も兼ねて船内の食堂ルームに移動し手が空いているメンバーと食事をとる。アンドロイドであっても食事は
アンドロイドが食事をするという事に眉を顰める人も稀にいるのは周知されている常識だ。僕は何とも思わないんだけど、むしろ一緒に食事ができた方がありがたいと思う方なんだけどね。
「買ってきた
〔合成肉や食物繊維も問題なく食事できるように、食品メーカーには配慮しました。軍や貴族、一般向けにも卸している業者ですから、レパートリーも多かったです〕
アルクスが言っているのは、食品の材料を扱っているメーカーのことだ。消費期限や賞味期限が長く、安全面に注力しているメーカーなんだとか。
「新しいメニューも問題なく作れてますね」
「皆にも評価してもらいたいし、早速いただこうか」
そう言ってみんなで食事を堪能する。
「風味や触感もちゃんと出てるね!」
「これなら飽きや偏りもなく、長期間の宇宙滞在にも対応できそうじゃないですか?」
「レパートリーが豊富なのは、備え付けのオートクッカーのグレードが高いからやね。一般向けのグレードやとニ十品も作れるかわからんし、作れてもこのクオリティーで仕上げれるかって言うとできんやろな」
スイビーの言う通り、お母様が手配していたオートクッカーのグレードは高い物だ。一般的なグレードなら登録品目がニ十品目もあれば良い方で、お母様のは何と三桁、驚きの二百種類越えものメニューを登録できるのである。料理の仕上がりもかなり良いものなのはこだわりだろう。
「お、魚介類もちゃんと再現されてる。すごい!」
「栄養のバランスもしっかり設定できますから、健康への配慮とこだわりが感じられます」
「お母様はそういうとこに特にこだわりそうだからね。お金を掛けるところはとことんやりそうだ。とてもありがたいことだけど」
参加してくれてるのは、フーリカンとスイビー、ブローワにブルダの四人。アルはボディーを持ってないからフォローに回ってくれている。各々で食事をとって意見を交えていると、食堂に船内アナウンスが流れた。
『報告します。進行方向よりやや外れた位置で救難信号を捉えました。キャプテンは至急ブリッジへ』
「救難信号か」
その場の片づけを任せて、僕はブリッジまで急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます