第5話 オートマチック

 ホテルに戻った僕は、食事を済ませ一息ついた後にカラトロスと共に射撃場に来ていた。何故ホテルの地下に射撃場が、と思われるかもしれないが意外と設備があるホテルは多い。


 ストレス発散や日々の訓練、初心者の講習場。用途はそれぞれあるが、今回は僕の訓練兼武器の選択が主な用途だ。


 カチャン!シャコン、ダンッ!シャコン、ダンッ!シャコン、ダンッ!


「キャプテン、長物のリロードはいいが射撃はいまいちだな」


「狙いをつける感覚がしっくりこないんだよ」


「なら、オートマチック拳銃の連射型の方がいいかもしれないね。レンタルしてくるから待っててくれ」


「わかった」


 精密射撃の素質はあまりないのかもしれないな。とはいえ、自衛できる程度の射撃センスは磨かないと。


「ほい、キャプテン」


「ああ、ありがとう。これは軍事学校の初等科で触ったやつだな」


 意外と癖がない分威力はそこそことの評価だったはず。ジャム装填不良が少なく初心者が扱うのに丁度いい塩梅で、基礎を磨くのに重宝されている拳銃だ。


「早速使わせてもらおう。火薬型なんだ、それに二丁?」


「なんでも試すのが初心者の心得みたいなもんよ」


「そんなもんか」




☆(フォルアの使用した拳銃はベレッタM9系をイメージしています。カラトロスの使用したライフルはVSR-10系をイメージしています)




 ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!カチャカチャン。ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!


「いいじゃないか。なかなか慣れてきたみたいだね。反動にもあんまり動じなくなってる。今日はやらないが、慣れてきたらエネルギー兵器に変えてみるといい。今時火薬なんて使ってるレトロな銃系はあまり出回らないからね」


 しばらく銃を撃ち続けているとカラトロスから声がかかる。腕がしびれてきたので見計らって銃を棚に置く。なかなかしびれがとれる気がしないな。


「そうらしい。一定のリズムばかりだけど視点を左右にすると命中率はそこそこ上がるね。火薬の匂いは少し鼻につくけど嫌いじゃないかな。でも、宇宙空間じゃエネルギー兵器の方がよさそうだ」


「宇宙空間や微重力の空間じゃそうかもね。日々訓練してれば上達するし、私らが指導しながらやれば変な癖もつかんよって」


 シャコン、ダンッ!シャコン、ダンッ!シャコン、ダンッ!シャコン、ダンッ!


「すごいな。的のマークに一点しか跡が残ってない」


「戦闘用アンドロイドがその気になりゃ、こんな芸当もできるさ」


 カチャン!シャコン、ダンッ!シャコン、ダンッ!シャコン、ダンッ!シャコン、ダンッ!シャコン、ダンッ!

 両肩、胴体、頭部二回、五発命中。


「おみごと!」


「ありがとよ。そんじゃあ、レンタル時間ギリギリだし行くか」


「そうだね。今日は付き合ってくれてありがとう。一人じゃこうもうまい具合には進行できなかったよ」


「キャプテンは素直だな」


「ほんとのことだもの」







「手の感覚が戻るまで、小一時間寝るかな」


 キャプテンは部屋へ引っ込み、夜の時間までは自由行動とした。私は簡単な補給をとり、その足でラウンジまで向かう。席はまばらに人がいたが、空席があるのでそこに座らせてもらう。腰を落ち着けカタログデバイスを開いた。


「さて、キャプテンは素直さがあって銃の筋はよかったよ。デバイスの効果次第じゃ長物も短銃も難なくいけそうだ」


「さようですか。素質があるのは素晴らしいことですな」


 何気ない独り言をよそおってカタログデータを開く。


 とくに返事はしないが、キャプテンの関係者であろう。何故そう言い切れるのか、相手の杖の握りに、キャプテンが母親と映ったペンダント、その中にあった紋章と酷似したものが見えたからだ。


「実のところ、来週届くはずだったものが急遽前倒しで手に入りましてな。こちらで保管しております。どうも情報がもれていたようで申し訳ありません」


「キャプテンが無事でなけりゃ……、いや、あれは私らの実力を確かめたのか。陰からこそこそしてた奴らはそっちの手ごまかね」


「話が早くて助かります。御推察の通りあの場には、一般人を装ったりステルスを装着した護衛はついていました。坊ちゃんがどのように危機を乗り越えるのかも、しっかり観察した上であなた方の到着が襲置ければ救出していましたが」


「キャプテンのおじいさまとやらが、どういう目論見でいるのか。キャプテンとどのような契約をしているのかは知らん。が、そろそろマイクロチップや技能インプラントを用意してやった方がいいと思うぞ?

 ニュートラルどころか、どノーマルで今回の公募を乗り切れるとは到底思えない。私らがサポートしたって、キャプテン本人がどうがんばろうが、チップ持ちやインプラントがん詰めの素人にだって勝てやしない場面も出てくるだろう。人質に取られた私らは何にもできん」



「ふーむ、やはり。予想はできていましたし、我々も坊ちゃんには促してまいりました。ご党首も坊ちゃんと契約する際、坊ちゃんからある提案が出されましてね。それを飲む形でチップ関連やインプラント関連の強化技術は先送りになりました」


「その提案ってのはなんだい? キャプテンの不利になるような情報じゃなきゃ聞かせてもらいたいね」


「そうですな……、少しお待ちください」


 初老の男は席を外したのち、数分ほどで帰ってきた。



「ご党首様より許可が下りました。簡潔に申し上げますと――」




 ☆





「ってな話を聞いたわけよ」


「それは何というか、短い付き合いですがキャプテンらしい言い分ですね」


「そうさな。契約は結局”自分の船を設計して作ること”が条件なんだっけ?」


「そういうことでしょうね。しかも、専門のチップやインプラントを使わずに自分の知識だけっで」


「んー、まどろっこしいけど、努力できることが自信にもつながるし、悪いことではないな」


「そうなんだけど、折角一緒に活動してるんだしさ。相談くらいはしてほしいわな。水臭い」


「そうなんだよなぁ。まだ付き合い短いからかね?」


「そうでもないと思いますが。……もしかして」


「もしかして?」


「伝えるの忘れてるとか?」


「え?」


「は?」


「ありえるか?」


「ありえるんじゃな~い?」


「せやろか?」


「わからん。オーナー曰くキャプテンは少し抜けてるところがあるらしい」


「え~?」


「まあまあ、それが事実かどうかは別として。話に出ていた起動核の受け渡しは我々で?」


「おう、明後日、偽装したトラックが直接工場に来るそうだ。セキュリティキーももらってる」


「キャプテンはどういう反応するかしらね」


「案外すんなり、そうなんだ? で終わるかもしれん」


「ありそう」


「たしかにね~」



 会話はその後も続いたが、結局本人に聞くのが早いという結論に至った。




 ☆



「あー、その契約聞いちゃったんだ? いや、別に隠してたわけじゃないよ。作業が楽しくてみんなに伝えるの忘れてたんだ。ごめんね」



 後にも先にも、キャプテンには直接何でも言うべきことは言っておくことがアンドロイド達の間で共通認識となった。



「キャプテンは今回工場の執務室でいてください。向こうとの打ち合わせはそちらでします。護衛は私とミカラドが主に当たります」


「よろしく頼むよ」


「あたしとスイビー、それとフーリアン。ドロイドで搬入するし受付もする。わからんことはないと思うが、通信機で何かあれば連絡するよ」



 今日は起動核エンジンの搬入が予定されている。前の襲撃から学び、警戒態勢は十全に敷かれるようだ。


 僕はハワードさんの許可を得て、応接室用の事務所を借りて待機。コルビスとミカラドが護衛について、外はカラトロスたちがやってくれるらしい。


「新しい起動核が付いたら、いよいよ各ユニットの総仕上げに入れるね」


「今のエンジンだけでは、さすがにガス欠が必至ですから」


「その他のエネルギ問題も、キャパシタが行き届かないって言ってたからね。エンジンの種類やリソースはデータで見て把握してるけど。旧式という割に全然現役だよ。初見で見て飛び跳ねちゃった」


「キャプテンはリソース問題が解決したら、ちゃんと船内でも人間らしい生活が送れるように設備をみなと相談すべきです」


「うっかり自分のことは最低限ですましちゃう性分だから――、はい! 相談してちゃんと設置します」


 コルビスのむすっとした顔に思はず背筋が伸びる。


「はぁ、普通は人間側がアンドロイドに指摘する設備案なんですよ? アンドロイド優先に物事を考えてもらえるのはうれしいですが、キャプテンで人類である貴方が自分の事をないがしろにしてはいけません」


「は、はい!」


「それを客観的にみられて、変にみられるのは我らも同じなのだから肝に銘じてほしい」


「肝に銘じます!」


 ミカラドにもお小言を言われてしまった。だが確かに僕がしっかりした行動をとらないと、乗員にも変な視線ややっかみがくるかもしれない。ちゃんと考えて行動しよう。


「事前連絡ではあと十分ほどで予定時間になります」


「周囲異常なし」


 もうそんな時間か、受け渡しもワクワクするけど、無事に搬入がされなければ意味がない。そんなことを考えながら宇宙船の設計図を見て思案することにする。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る