第3話 はいどうぞ、と言われましても
さてもろもろの契約はすんだな。と、席を立ったドガーさんは、席を少し外すと部屋を後にした。
概ね好条件で特別社員として雇用してもらったが、皇室からのお触れで出された宙域の資料や海賊の出没率、事故の件数など、気になる点を調べるのに時間が足りていない。
ハワードさんが気を利かして食料の確保をしてくれていたけど、それに甘えてばかりはいられないし、何とか金銭を得る当てはできたがそれだってドガーさんの気遣いを得ている。
しっかりしないと、必要な事項をリストにまとめ直し、見落としや追加事項を載せていく。半年なんて資金がない人間からしたら余裕なんてあるわけがない。僕は運が良い方なだけなんだ。
リストを見直し、うんうんなやんでいると、いつの間にかドガーさんが部屋へ戻ってきていた。
「必要事項の見直しかい? 関心関心」
「自分にできることは最低限、できないことはできるように立ち回ることが大事だと思っていますから」
「いいね。で、集中してたところ悪いんだけど。この五名のアンドロイド達、早速君に付けさせてもらうよ。はいどうぞ」
「え、えっと、ど、どうぞ?」
「君の部下として配属するってことさ。早速自己紹介を頼むよ」
「あ、なるほど。僕はフォーサイス・フォルア。家名は嫌ってるんでフォルアと呼んでほしい」
自分の家名が嫌いな人って結構少なくないんだよね。主に次男以降の子供は特に。
「コルビスです。プロセスチップは上位戦闘、フライトアシスト。成長マインド、通常作業用共通インプラントになります」
「ミカラドです。プロセスチップは上位戦闘、フライトアシスト。成長マインド、通常作業用共通インプラントになります」
「フーリアン申します。プロセスチップは上位補助医療技術、フライトアシスト。成長マインド、通常作業用共通インプラントになります」
「スイビーや。プロセスチップはメンテナンス、フライトアシスト。成長マインド、通常作業用共通インプラントになります」
「カラトロスだ。プロセスチップは上位戦闘及び上位防御シールド、フライトアシスト。成長マインド、通常作業用共通インプラントになります」
「自分の得意分野を提示してくれて助かる。僕は主に中型艦フライトライセンス持ち、中位メンテナンスライセンスの二つを所持している。戦闘に関しては軍事学校の初級クラスを上位成績程度のものだね。中途退学したし」
「ちなみに、途中退学の理由を聞いても?」
「実母が亡くなった後から、学費を家が出さなくなったからです。父が度々愛人を作って、貢いでいましたから。それに、三男で腹違いである僕に、父をはじめ、義母や義兄弟からさえも邪魔者扱いされてましたからね」
ドガーさんから疑問が来る。隠しているわけでもないので簡潔に応じた。
「それはなんとも……」
「すみません。反応に困る返答で。ただ軍事学校では友人に恵まれて、教材なんかを安値で譲ってもらいました。なので、学校は卒業できませんでしたが、高等学科までカリキュラムはこなしていましたし、以降の専門技術などの知識も独学ではありますが学習しています」
「君は偉いな。私なら不貞腐れて腐っていたかもしれない」
「偉いなんてものじゃないですよ。僕は、男爵家の出自ですが望まれてできた子供ではありませんでした。あの家で唯一の味方は実母だけで、父に女ができたくらいから、母の様態が悪くなり、そのまま僕が軍学校に行っている最中に亡くなったようです」
「辛いことを聞いてしまった、許してほしい」
「大層なことじゃないですから、お気になさらず。それに最後に母から受け取ったもの、それは僕の宝物になりましたから」
「それは聞いても大丈夫なものかい?」
「ええ、母方の家に行けば、生活には困らないといった内容の証明書と、それを母と記念に一枚残しておいた写真のペンダントです。ついでに父が不倫に走ったことや、不正をしていたこと、母が患った病気の原因。一部始終がこのなかにあります。一部は既に母方の方に情報が渡っているようですが」
「なるほど、踏み入ったことまでよく話してくれた。それとすまないことを話させてしまった」
「一応、これはハワードさんにも伝えてあることなので」
「そうか」
「しかし、それにしてはおかしなことだ。君の母君の実家がどういうところかは知らないが、君がここまでされたにもかかわらず援助を出さない。これはどういうことなんだろうか。実家も見放している?」
「いえ、自分から食費と教材費だけ支援を受けています。これは自分が望んだことだし、元からですが父と今は疎遠になっているので、いずれ父が僕になにかしら要求してくるでしょう。その時、自分が誰を追い詰めたのか気づかせるためです」
「それで大っぴらに支援は受けないと。そういうことかい」
いらんことで彼と関係は切らない方がよさそうだな。ハワードも同感だろう。そう思いフォルアとの距離感を考え直すドガー。
「さて、時間は有効に使わんとな。五人のアンドロイドを筆頭に、単純作業が可能なドロイドも三十体連れて行かせる。あとから二十ほど追加で派遣するよ。今は宇宙船の完成が優先だろうからね。資材についてはハワードと相談して順次手配する予定でいる」
「助かります! ありがとうございます!」
☆
「おおう、来たか。ドガーから話は聞いてる。設計図のアップグレードも上げておいた。確認したら作業に入ってくれ。俺は自分の仕事に戻るからよ」
「ありがとうございます。では早速」
プレハブ型を改良したモダン型。系統の違いはほぼない。プレハブ型よりも強度が増し、住居スペースから貯蔵庫、エンジン耐久度、燃料の備蓄増。
公募期間までの間に”フォーマル”まで行けなくても、”カジュアル”までは持っていくつもりだ。それに人手もできたし、可能性が見えてきた。
「まずは全員にこの設計図のデータを覚えてもらいたい。覚えたら段取りとパーツ構成の縮図、構成から完成までもっていく」
[了解です]
「コルビス、貯蔵庫と通路ここからここまでの担当をお願いするよ。燃料からエンジン部分はスイビー。フーリカンはブリッジの構成を頼む。カラトロスは武装面を構築。あとでフーリカンと装備の調整を任せる。僕はその間資材調達の調整と足りない部品を見積もってくる。わからなかったら連絡を随時入れてほしい。こうした方がいいとか、機能性や効率面で意見具申があればそれも連絡してほしい。よろしく頼む」
「了解です。早速取り掛かります」
それから数日、資材の不足分が問題を起こしていたが、ハワードさんや
ドガーさんの助力もあり、何とか設計図の構成通り宇宙船は完成しつつあった。
「キャプテン。提案が――」
「コルビス、どうかしたかい?」
「貯蔵庫なのですが、食料や
「そうか、ここからここにバイパスを分岐できる?」
「問題ありません、中間に分離機構をはめ込めば船のENを一時的に節約もできます」
「そうなると、いよいよ規模が”カジュアル”までの規模になるな。早速構図を再計算しよう」
「それについてはフーリカンと打ち合わせしますので、キャプテンは一度しっかりとした休息をとられた方がいいと思います」
「休息。休息?」
「ええ、ハワードさんからも、小言を頂いていましたので本当にお休みをお取りください。最低二日以上です」
「え、んあー、仕方ないね。じゃあ一旦現場指揮をコルビスに、副指揮権をフーリカンに譲渡する。よろしく頼むよ」
「拝命しました。御ゆっくりお休みくださいキャプテン」
☆ 誰がどの会話をしているかご想像ください。
『行ったか?』
キャプテンであるフォルアが現場を離れ姿を消した後、彼女達の会話が始まった。
『行かれました』
『なんだかんだ現場にいると休みらしい休みをとろうとしないな』
『そういうタイプなのでしょうキャプテンは』
『こちらから提案したら、ちゃんと聞いてくれますから。その辺は我々がフォローしてさしあげたらいいじゃない?』
『完璧な上司ってのもつまらんからな』
『で、本題に戻るが、そろそろ動力方面がキャパオーバーするぞ』
『動力源のアップグレードは、予算が厳しいって話じゃなかったか?』
『キャプテンが再来週にどこかから手配できそうだとは言ってましたが』
『なら問題ないだろう。宇宙でガス欠なんてシャレにならんし、”カジュアル”になるったって、そこいらの宇宙船の装甲よりもろいわけだしな』
『どんな動力源が来るかわからないけど、設計図自体のアップグレードは絶対よ』
『そりゃそうだが、キャプテン色々ぬけてんだよなぁ。自分の寝床や風呂とかトイレとか、先に私らのメディカルセットとかが思い浮かぶのになんでそこ抜けるんだって』
『ご自身がアンドロイドであるかのような思考パターンですからね。あと、キッチンセクションは余裕を持たせてください。食堂という名目で』
『もしも”フォーマル”までグレード上がったら、ブリーフィングルームもつくのかね?』
『もちろんつくでしょう。それに、もしもなんて言葉はいらないんじゃないですか? このペースでいけば。”フォーマル”クラスまで資金がもつかどうかは知りませんけどね』
その後もアンドロイド達の会話は続くのであった。
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