第2話 見た目こそアレだが
ハワードこと店主さんのおかげで、要望通りのプレハブもとい、我が艦船に居住空間ができあがりつつあった。
「おめえ、腕も良いし根性もある。もし開拓に失敗したら俺のとこに就職に来いよ」
冗談でもうれしい言葉をくれる店主に愛想笑いで返しながら作業を続けていく。そこであることに気付く。
「あ、食料と水の備蓄!!」
「おう、時間がなかったみたいだから前に言ってた知り合い店に発注しといたぞ!」
「ま、マジですか!? やっぱりハワードさんは神様だった!」
「何言ってんだこの馬鹿は、発注は早めにしないと他所にとられるのなんて当たり前だろ? 何分資金がないんだからな」
「あ、はい」
「宇宙に夢見るのはわかる。俺もそうだったが、出る前の準備も帰りの予測準備も怠ったたら、せっかく手に入れたと思った資源と抱き合って遭難だ。肝に銘じておけよ。行って帰ってくるまでが宇宙飛行だ」
「はい!!」
「はあぁ~、なんか頼りないな。船に専用のAI付けてやった方がよさそうだな」
「いや、でも、そこまでの資金なんてないですし……」
「そこはお前、コネでも使えば何とかならあな」
「師匠!!」
「誰が師匠だ! まあ、船が船だからそんな大層なもんは載せれねえ。が、手がないわけでもねえ。連絡先消してなかったよな?」
おもむろに通信機を操作し始めたハワードさん。その場にいても仕方ないので、宇宙船の整備にもどることにした。
「あーハワードだ。久しぶりだな、ちょっと訳ありで使えそうなAIを譲ってもらいたいんだが。あ? いや、うちで面倒みてる客の奴さんがな、全然資金がないらしくてな。余ってる奴とか試作品でもいいんで、もらえねえかとおもって声かけたわけよ。船は昔俺が使ってたプレハブ型を毎日改造して飛べるようにしてるとこだ。ああ、あのプレハブっだよ。懐かしいだろ?そんでよ――」
ハワードさんは、しばらく通信機で話を続けて承諾を得たようだ。途中まで聞いていた内容は僕についてあれこれと言っていたようだが、途中から作業に集中して聞いてない。
次の日、ハワードさんの店にはお客さんがきていた。
「あの箱に乗る奴がどんな奴か見にきたが、あれが?」
「ああ、話してた奴さ。少し抜けてるとこはあるが致命的ってわけじゃなし、頭も回るし腕も我流だがかなりやりやがる。数年仕込めば店だって出せるだろさ」
「かなり気に入ってるじゃないか」
「何より根性があるからな、構造式を把握するのにわざわざばらしてまで覚えちまうんだからあたまがさがるよ」
「へぇ~、彼は貴族の出なんだろ?」
「そうらしいが、見えねぇくらい性格が良くてな」
「ほう、珍しい部類か」
「で、昨日話した件だが、宛はありそうか?」
「結論からいうと、無くはない」
「煮え切らない物言いだな」
「だが、彼になら譲っても良いかなとはおもってる」
「お、見込み有りってことか」
「最終的に確認はするけどね。彼はいくつだっけ?」
「身分証の照合ありで15になったとこだな」
「初々しいね」
「おいおい、試すのは任すが壊すなよ? 優良物件なんだからよ」
「任せなよ、彼の心根に触れるだけさ」
作業が一段落したところでハワードさんに呼ばれ、昨日連絡を取っていたというドガーさんという方に顔つなぎしてもらった。最初の印象は儚い人といった感じだったが、明日はこのドガーさんの店に行くように言われた。
なんでも、ドガーさんはAIを専門にアンドロイドの制作を手掛けている人物らしい。その界隈では有名で、僕も名前くらいは聞いたことがあるくらいだ。
その次の日、約束通りドガーさんの店を訪ねて驚かされたのが店内に並ぶカプセルの数と、その中に入っているアンドロイド達だった。
「す、すごい数ですね」
「まあ、皆顧客からの預かり品でね、休眠状態で機体の調整中だからつまらないだろう。こっちへおいで」
「は、はい」
「うぅお!?」
「ここにいるのはバイオロイドの中でも、主最新主流になってる性処理までをやってくれるセクサノイドの類だ。聞いたことや見たことくらいあるだろ?」
「え、ええまあ」
「彼女たちの場合は、普段の私生活まで盛ってるわけじゃない。日常行動でメイドや執事の仕事もこなしてくれるし、戦闘用に比べれば劣るがボディーガードだってできるんだ。通常業務が多岐にわたる類では、アンドロイドの中では万能型という位置づけかもしれんね」
「次に戦闘用アンドロイドなんだが、戦闘というにはぬるい、いわゆる殺し合いをするような行動プログラムから主人を防衛する守備型の行動プログラムが主なアンドロイドまでいる。あと、特殊なのは尾行や調査、はては暗殺までこなすのが戦闘用と言われるアンドロイドの類」
「あとは、軍からよく発注がかかる整備型用のアンドロイドだな。修理、修繕、改良、改造、パーツ製造までこなすスペシャリスト。このアンドロイドの存在が、今のエンジニアの人口を減らしたとまで言っても過言じゃない。君もエンジニアの端くれなら、整備型に嫉妬したんじゃないかい?」
「いやいや、嫉妬どころか尊敬するしかありません。アンドロイド達から受ける印象は、正確で慎重、合理的かつ柔軟性のある解答。それを間違いと定めて再計算させて、妥協させたは良いけど後で文句を垂れるそのほとんどが人類側なんです。
確かに状況や場面で合理的な解答がでるかもしれない。妥協はしたくはないけど、妥協の中にも打開点はあり、少なくとも効果のある成果が得られるときもあります。人間とアンドロイドに考えの違いがあり、時と場合によりどちらかの考え方が違って当たり前ですよ」
「似たような内容の論文をいくつか見たことがある。君は、人間はアンドロイドに管理されるべきと考えるかね?」
「それはアンドロイドを過信しすぎです。僕ならその質問の内容にイエスと答えることはありません。人間にも得手不得手があるように、アンドロイドにだって得手不得手がはあると思うし、押し付けられたら嫌な感情に近いシグナルを出すはずです」
「アンドロイドは人間に相当すると、聞こえるのだが?」
「相当するも何も、思考や感情が芽生えた時点でヒューマニズムの枠に入っていると考えます」
「人類至上主義や、トランスヒューマニズムを目の敵にしているヒューマニストに目を付けられそうな返答だ」
「話は少しずれますが、自分が使っている物の原材を料知らずに、その原材料は自然によくない、環境破壊を招くだと喚く、人種と同レベルのように思えてなりません」
「君は思ったより、なかなか
「ただ、僕が間違っているのであれば考え方も変わるでしょう。かたくなに持論にすがる気はさらさらありませんので。持論に肉付けするための知識が少ないかもしれませんが、今のところ僕の出した答えはアンドロイド、トランスヒューマニズム、ヒューマニスト。うまくかみ合わせてやれば、物事の運びも促進するはずだけど、そうはうまくいくはずもない。それはなぜか」
「「いずれにも思考と感情が芽生えているから」」
「はははは、すまないね。こんなに盛り上がるとは思っていなくて、客人の飲み物を切らせてしまった。テロン、すまんが飲み物のお代わりを」
『かしこまりました』
「……」
「テロンが気になるかい?」
「ええ、少し」
「普段の彼は会話にさりげなく会話に水を差さないように、飲み物を注いでおくことだってできるはずなんだがね」
「そうですか」
「うむ」
さてと、と席を立ったドガーさんは、私のプライベートルームに行こうかとさそってきた。ちなみにドガーさんは女性だ。
「ハワードから聞いてるが、あのプレハブを改造して出航するんだとか?」
「ええ、最初見た時は驚きましたが、今では愛着がわくほど航海を楽しみにしてます」
「そんで、大きさをでかく生活空間の増築、作業場所の改築、もろもろの強度増加。これ、君一人で操縦して作業するのかい?」
「え、ええ。そのつもりだったんですが、何分不慣れなもので船にサポートAIを積めないものかと――」
「そういう話だったが、とりあえず君という人間を知っておかないとと思い、急だがハワードのところに行ってみたのさ。その結果なんだが……」
「は、はい!!」
「私の仕事でいくつか人手が欲しい、人材が稀でなかなかなお目にかかれない」
「は、はあ」
「で、結果から言うと君を採用したいと思ってる。もちろん条件なんかは付くんだけどね」
「え、いや? 僕、これから宇宙では資源探査を……」
「おや、この辺は察しが悪いな。つまりだ、今回の皇国からだされたミッションで行う仕事。それは採掘なり資源調査、漂流物の探査などなどと多岐にわたる。その仕事を君は一人であの棺桶と言ってもいいプレハブ型、今は少しグレードが上がってモダンチックになってきたかとは思う。が、しかし」
「……」
「乗員が足りなさすぎるし、サポートが宇宙船用AIだけって。はぁ~……」
「あ、でも、僕の資金ではとでも手が出せそうになくて……」
「だろうね! でね? うちの仕事兼任しながらやってみないかい? AIどころか、さっき話してたアンドロイドだってつけるし、バックアップ体制から補給の運搬まで任されてあげよう!」
「しかしそれはっ」
「なんだい? 宇宙の船乗りは大概兼業が一般だ。人員の不足した船にアンドロイドなんかのクルーを補充するなんて誰でもやってるだろ?」
「そういうことじゃなくて!」
「なんだい? 仕事内容だったら簡単な話、うちで製造中のアンドロイドやドロイドなんかの成長促進だよ。船に乗って、皇国が指定した場所の作業を一緒にやるだけ。簡単だろ?」
「そんなことが仕事になるんでしょうか? そんなことだけで、船のアップデートからバックアップまで、幅広くやってもらうことが対価となる正当な報酬とは思えないんですが」
「馬鹿言っちゃいけない。さっきも話したろ? 君がアンドロイド達をどう思ってるのか。人だろうとアンドロイドだろうと、君は相手を見てものを喋る人間だ。こちらが欲しがっている人間はまさにその思考の持ち主さ。仕事内容は先ほど言ったことに、幾つか注文をつけ、全面サポートする。いかがかね?」
「その内容の詳細によります。変な実験なんかさせられたら身がもちませんからね」
「素晴らしい解答だ、おーけー! それじゃ、話を詰めようか」
ドガーさんと僕との話し合いは、折り合いがつくまで長くなりそうだとおもったが、意外なことにすんなり話が着いた。
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