スペースファクター 稀にある宇宙整備士の非日常
ツヴァイリング
第1話 資金難は苦労する
始まりがなんであったか、そんなことを思い出している内は余裕がある表れなのかもしれない。それともただの走馬灯か。
それより目の前の奴らが忙しなく働いているのを見ると思う。どうしてこうなったのか。
「キャップ、こちらの作業が終わりました。作業予定は以上で終わります」
「ああ、お疲れさん。こっちも今日の分は終わるとこだがな。休憩もちゃんととって自由にしてくれていいよ」
相手に指示を出して周囲を見渡す。
「彼らは彼らである程度すれば気が済むでしょう」
こっちは趣味でやっているようなものだしな。
「んー、そんなに気を使わなくてもよかったんだがな」
「彼らなりの善意ですから」
「わかっちゃいるんだが。まあ、やってくれるっていうなら任せるけどね」
なんか知らんけど、徐々に増えてるような気がするんだよなぁ。いや気のせいじゃなく確実に。アンドロイドやドロイド人員が。
さておき、ここは工場区のラボラトリ。僕の拠点で仕事場でありテリトリーだ。何をする場所かと言えば、宇宙船の整備からパーツのアップグレード、修理からオーバホールまで請け負っている。それに、ロボットからアンドロイド、ドロイドを含め機械生命体のメンテナンスからアップグレード、たまに変な装備変更なんかも含めてやっている整備屋だ。
さすがにスクラップを真新しく新品にするようなことはできないが、使えるパーツを繋ぎ合わせてニコイチ作業するのはお手の物。
この場所は誰が呼んだか『
事の始まりは自分の乗っていた宇宙船がワープゲートの割り込みを食らって、座標と全く違う地域に吹っ飛ばされたことがはじまりだった。
僕の身分は爵位は低いが一応男爵家の三男で、主にスペックの高い兄貴二人との関係は最悪だった。
領地は小さいがそこそこの収入源がある我が家に、帝国から届いた一通の手紙、もとい電子通知が俺の境遇をさらに追い込むことになる。
帝国から届いた通知の内容は、要約してみれば一年前に見つけた宙域で、特にこれといった資源や注目するような原料がないことがわかり、この地域を何かしら有効活用できないか手さぐりでもかまわないので人手が欲しい。
つまりは、家で暇をしている人間を有効活用できる機会をやるから、人手をよこせということだ。どの家も人材に余裕があるわけではないが、ごくつぶしはいるようで、僕のような家に貢献できるほどの能力がないと見込まれた人間が選出される。
先ほど爵位、身分といったがこの公募に送られたものにそんなものは関係ない。誰が早くよさそうな作業場を見つけて手付を主張してビーコンをつけるか。それが競争であり蹴落としあいの戦場になる。
それに感づいた自分は急ぎ目的の多目的船を探しに、その類の店に走り出した。
そんな以前、宇宙に上がる前の事を思い出した。
☆
数年前――。
いくつもの店をはしごして回り予算に笑われながら断られること何件目かの宇宙船ショップに足を運んだ。
僕はとりあえず、準備を進めて宇宙作業できる船を探すところから始めなければいけない。貧乏貴族でもない普通の貴族家庭なら、宇宙船くらい用意してくれるものだが。いかんせん実家にはそんなことを手伝ってくれる人間はいないし、見放されている僕に助言をくれる相手もいない。
頼みの綱は自分の知識と貯金のみ、家にいる間にこっそり貯めた資金で宇宙船を調達しなければならない。親から渡された資金なんてぼろい宇宙服が買える程度の金額だ。宇宙遊泳でもしろっていうのか?
ざっくり分けて必要なものは、宇宙船、宇宙服、作用器具、燃料、食料などである。宇宙船は予算をケチっても寝床とトイレはついてないと厳しい。それなりに費用が掛かるが一度不時着してしまえば燃料なんかほとんど使わない。旧式のソーラーパネルとエネルギーを貯蓄するバッテリー。けがをしたとき用に医療器も必要だ。
作業場に作業用の台座、工具は自前のを持っていけばいい。燃料は緊急用に多目に持っていくのと、食料は現物と栽培用の物を買い求めた。
宇宙船工場に要望を出して予算を出すと、大笑いされた。もう何度目かわからない、断り文句の前の失笑かと落胆した。
だが。
「お前さんの想定してる宇宙船ってのは、プレハブ型だな。宇宙船と呼べる代物とは程遠いが、目的が宇宙開拓なら昔はよくつかわれてたもんだ。何なら骨董品だがうちの倉庫にあるやつを持って行って見るかい? あれなら大抵の装備はできてるし、見習の研修用で昔から置いてあるだけだからな。料金だって相談価格で提示された額の半分くらいでよい」
「えっ、いいんですか!?」
「言っとくが最新のものを渡すわけでもねえ。もう200年以上前の骨董品で、そろそろばらそうかと思ってたところよ。兄ちゃんさえよけりゃ、あれに最低限だが武装や補助装置もつけてやるぞ?」
「お話はうれしいんですが、なんでそこまでしてくれるんですか」
まあ、きにするわなあ。そう言った店主は頭をかいて話し出した。
「俺も昔はよ、お前さんみたいに家のお荷物扱いされてたのさ。資金もほとんどなく先立つものも少ない。そんな時に始めたのが今のこの工場さ。ちなみに移民組だがな」
「話を聞くに、なんか他人事とは思えなくてな。できることはやってやろうって気になっただけだ。聞いた資金じゃここ以外にどこも相手してくれるようなとこがないのはわかるだろ?」
僕は思わず立ち上がって腰を折り頭を下げていた。
「ありがとうございます。本当に感謝しかありません」
「まあ、開拓がうまくいくかはわからんが、最低限手伝ってやるからお前も手伝え。期日にはまだ日があるだろ?」
「はい、自分もエンジニアの端くれです。自分で出来ることならやりますし、手伝えることならなんでも言ってください」
話は決まった、とお茶を一杯飲みほした店主はニカリと笑った。
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