第18話 それに習うだけだからな

 おばあ様の話はとても楽しく、興味を引くものばかりで、母の幼少期からの色々な一面を知る。おばあ様も懐かしそうに話をされ、僕は気になったことや参考にできることを聞き、三日程の精密検査を退屈なく終わらせた。


 技術的進歩はあれど、チップを入れた際の反動が個々によって様々あるらしい。話によると施術後の違和感や体調不良があるかもしれない。そのように言われたが、不思議と違和感はない。ぐっすり寝た後のようで快調だ。


 もしかすると、時間が経った後で何かある可能性も示唆され。問題が起きたらすぐにメディカルステーションに連絡するように言われている。だけど、今のところ特別意識することもなかった。




「おばあ様、お付き合いいただきありがとうございます。お話が聞けてとてもうれしかったです」


「私もですよ、フォルア。久しぶりに孫と話せて楽しかったわ。家を長く空けることはできないから、私は帰ってしまうけれど。いずれ折を見て、本家に遊びに来なさい。いつでも歓迎しますからね」


「はい。直接行くのはまだ先かもしれませんが、通信で何かしらご連絡します」


「ええ、待っていますからね」



 おばあ様は、翌日別邸のある惑星を発ち帝都へと戻られた。僕のそばにはエドワードが引き続きいてくれている。



「僕はコルビス達が帰ってくるまで、譲って頂いたお母様の船を見て回るよ」


「かしこまりました。先日お渡ししたキーで、立ち入り禁止区域以外は入れますので」


「ありがとう。何かあれば船から通信を送るよ。食料や燃料の手配をお願いするね」


「かしこまりました。抜かりなく」




 ☆



 時は少しさかのぼる――。


 惑星ケッシュへ戻ることにしたコルビス達は、揃ってハイアータ伯爵に呼び止められていた。プライベートシップを手配してくれるということだったので、それに甘えることにした次第だ。


 一室に通された彼女らは、ハイアータ伯爵から話があると切り出された。

 


「まずは君たちアンドロイドの諸君。それと、惑星ケッシュでフォルアを支えてくれていた者たちに改めて感謝する。フォルアは、多少抜けているところもあるからな。そのフォローもしてくれていたと聞いた。重ねて礼を言う」


「もったいないお言葉です。ここにいない者たちにも、後程伝えさせていただきます」


「そうしてくれると助かる」


「それで、呼びとのことでしたが」


「フォルアがチップの施術に入った。この期間に一度、前のオーナーのところへ戻ると聞いている。諸々のアップデートの為とも」


「はい。今回我々は、キャプテンの護衛と宇宙船建造の手伝いをするため。前オーナーの指示で動いていました。ですが、今回の事で、今後もキャプテンに同行するのならば、準備不足を感じています。

 我々は成長型のアンドロイドとして製造され、主人の行動にあったポテンシャルを伸ばす。そのような指向性でいます。我々のカタログスペックを見ておられるなら、それぞれの個性も存在するとご存じのはず」


「そうだな。前もってそなたらの前オーナー、ドガー女史から製造元やカタログスペックについてはデータを見せてもらった。よくよく調べてみれば、製造元に軍が絡んでおったし、ドガー女史は研究者としても類稀たぐいまれな経歴の持ち主だ。彼女が必要と判断したならそうなのだろうな」


「はい。ですので、前オーナーから時間が空いた際、整備や調整を含め全体的なアップデートをするために戻るようにと言われていました。チップやインプラントのグレードも。やはり、今のままではこの先不安があると我々も感じています」


「しかし、ドガー女史の予算にも限界があるだろう」


「はい。今回は、基本的には能力の向上と、私コルビスとミカラド、カラトロスの戦闘面におけるスペックを上げるのが目的です。フーリカン、スイビーは、補助がメインですので、その方面に手を加えると」


「なるほど。今の時期に資金めぐりは、さぞ辛かろう」


「惑星ケッシュの件で、前オーナー少しばかり資金ができたので喜んでいました」


「ふむ。では、予定通りの目算はアップデート可能なのかね?」


「いえ。今回の調整目標値は効率値上限を六十パーセントアップさせる程度と聞いています。現状でできうる限りはそれが限界だと」


「それは、資金だけの問題ではないということか。あるいは技術的な問題か」


「両方です。各々の専用の装備を使う際のエネルギー効率や、処理速度の向上、本体の耐久性なども加味して精一杯とのことです」


「なんにせよ、目標値までは資金も時間も足りんということか」


「おっしゃる通りです」


「孫を任せるには、ちと不安だな。かといって、今から代わりなど当てもないのは事実」


「……」


「あまり手を出しすぎると孫に嫌われかねんしな。だが、そなたらだけでは難しい。単純に人手を増やすのも問題なのかね?」


「と言いますと?」


「そなたらはこのままアップグレードをし、フォルアの指揮下におればいい。ただ、人手を増やすことはできないのかね? 君たちと同じぐらいの性能を持つ、違う人手を」


「それは、オーナー側の許可が下りれば可能かと」


「ならばそうしなさい。時には押し通して進むのも良い。が、無理をすれば、どこかでぼろが出る。開拓というのは短期間で結果の出ることは少ない。ましてや競合する形になるのであれば、戦いは数を揃えた方が有利なのは間違いないじゃろ。

 おそらく、公募に集まる有象無象はそれをするはずだ。その資金は、フォルアに代わってわしが立て替えておく。フォルアが文句を言えば出世払いしてやった、徐々に返せばよいと言えば何とかなるじゃろ」


「よろしいのでしょうか?」


「何がだ?」


「我々が、継続してお孫様の指揮下に残っても」


「当たり前じゃ。孫が信頼している者を、今更代えるなどしてみろ。いくら温厚なフォルアでも、激怒するわい。それに、そなたらなら問題ないと思うが、フォルアの能力の件をおいそれと外に漏らすようなこともできん。いずれは気づくものも出るだろうが、その辺りの機密漏洩きみつろうえい遵守じゅんしゅは、人間よりも容易たやすかろう?」


「それは、もちろん!」


「だから、そなたらでいいんじゃよ。短い期間の単純作業はまだいいが、長期間となれば人間は不安やストレスを感じる。どれだけ宇宙に慣れようと、肉体や精神の抵抗力はおちる。不具合があれば、ドロイドは修理すればいいのかもしれんが、体調を壊すなどすれば人間はそうもいかん。快適な環境で適度な休息をとらねばまいってしまう。

 それに、人間の精神を整える役目を担えるのは、信頼があり意思疎通ができる者だ。フォルアがおぬしらを信頼するなら、フォルアを信頼するわしも、それに習うだけだからな」


「あ、ありがとうございます!」


「よいよい。さて、プライベートシップの手配はしてある。用事が終われば早くフォルアの元まで戻ってやってくれ。資金は追って振り込んでおく。ドガー女史にもよろしく伝えてくれ」


「承知しました!」


 失礼します! そう言って部屋を後にしたアンドロイド達を見送った。


 近年、アンドロイドの技術は進み、男性型女性型問わず人間とそん色ない感情を表すアンドロイド達。人間がアンドロイドと籍を入れることも珍しくはなくなった。


 わしの孫ももしかして……。わしが生きてるうちにひ孫の顔は拝めるんだろうか? 何とはなしに、そう思うハイアータ伯爵であった。






 所変わって、数日後のドガーの工房にて。


 アップデートの為に専用のユニットに固定されていたアンドロイド達。ドガー女史に報告も兼ねて会話を楽しんでいた。


「それで、伯爵様からの資金を頂けたわけか」


「はい。まずかったでしょうか?」


「いやー、むしろ願ったり叶ったりな状況だな。軍のトップと言ってもいいところから、アンドロイドをご所望とはね。フォルア君に目を止めた自分を褒めてやりたいよ」


「ドガーはん。キャプテンに、絶対せこいことせんでな?」


「何を言っているんだ、スイビー。フォルア君はハイアータ伯爵の孫なんだぞ。やましいことなどするわけがない。もしもやってバレたら、私の首などすぐに消し飛ぶ」


「釘を刺さないと、貴女はやりそうなんですよ」


「ミカラドまで! 私が金の成る木を枯らすわけがないだろ?」


「それで、ドガー女史。真面目な話、増員の当てはあるんですか?」


「コルビス。ドガー女史というのは、なんだかむず痒いぞ」


「ハイアータ伯爵が、そう呼んでいましたから。前オーナーというのは呼びにくいので」


「まあ、そうかもね。それで、増員の当ては――。あるよ」


「やっぱあるのかよ。それって、わたしらの後続機か? それとも新型機?」


「カラトロス。君たちの後に製造されたナンバーで、スペックが似たような子達は、既に三人いるんだがね。もう二人追加で開発は進んでいる。資金や時間との兼ね合いで納期が延びているが、製造元からは出荷可能ラインは越えているそうだ」


「初耳ですわね。我々と構成スペックが異なるんでしょうか?」


「フーリカンも興味があるか」


「もちろんです。同じ主人を持つ身となるのですから」


「実はいうと、構成はほとんど違いはない。成長型の特徴を持ち、スペックの拡張が可能な子達だ。一つ違うところがあるとするなら」


「するなら?」


「君たちがオーソドックスタイプの分類なら。後続はミックスタイプだな。俗にアレンジタイプとも言うが」


「ミックス? アレンジ? 意味がよくわからないのですが。スペックデータはないのですか?」


「あるとも。あるが、会ってからの楽しみにしていたまえ」


「なに言うてんねん!」


「ふざけんなよ!」


「冗談だ冗談、起きたら見せてやる。はいはい、アップデートを始まるぞ。就寝、就寝~。おやすみ~」


「――!!」



 有無を言わさず、ドガーの操作でアンドロイド達は一斉に眠るように機能をフリーズさせる。文句を言いたそうにしていた面々は、強制的に静かになった。


「まあ、楽しみにしていてくれたまえよ」













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る