第19話 お母様、夢の盛りすぎじゃないかな?

 チップ装着後、別邸にいる間は検査を定期的に受けることになった。異常な反応は未だに出ていない。


 おばあ様は帝都に帰られ、僕は予定していた通りにお母様が残した宇宙船を見ることにした。



 ♢



 五つある戦闘艦の内の一つ目の機体は、スペック表によると高火力で小回りの利く設計を指標に造られたようだ。標準装備は連射可能なレーザー砲が四門に、標準タレット、中型誘導ミサイル。換装をすれば中距離から長距離武装も載せられ、実弾や多弾頭ミサイルを搭載できる。


 フリーゲート艦に駆逐艦の火力を持たせた、とは聞いていたが。


「カタログスペック的に言えば、ほんとに駆逐艦でいいんじゃないかな? よくフリーゲート級で審査に通ったもんだ」


 そんな感想が漏れる。この船は複数の武装の組み合わせを可能にし、一点火力集中することで瞬間火力だせる。必要があれば、船の旋回に合わせて弾幕もはれる万能型だ。


「コルベット艦ならもっと楽に母艦へ搭載出来たろうに。当時の影響なのか、お母様の趣味なのか」


 なんとなく後者のうような気がする。船が造られたのは十年以上前。母が二十三歳のときらしい。


「その若さでこれだけのものを……。ほんとにすごいな」



 ♢



「次の船は……、フリーゲート艦に機動力と小回りを求めたのか。出し入れ可能なウイングが可変してブレードになる? 装甲はテクニカルフレームに、フルイドコーティング? 接触時の為に強度強化を切り替えできるのか。よく考えてある」


 テクニカルフレームというのは、軍艦のミリタリーモデルよりも一つ下のグレード。一つ下と言ったけど、一般の艦船に使われる装甲の最上位モデルの一つだ。そして、フルイドコーティングっていうのは、流体金属でエネルギーを消費して衝撃を吸収する装甲強化の役目をする。シールドの役目にもなる為、スペックに余裕がある船は大体流体金属を装甲にコーティングしている。


 昔はそれほど普及してなかったらしいけど、エネルギー消費の効率化が進み、今ではグレードやランクは様々だが大抵の船に使われている。エネルギーが続く限りは、強化コーティングが張られた状態で運用できる。


 グレードは基本的に一般企業が国から扱いを許可されているもの、それと軍事関連に携わる企業が扱っているものの二つに分かれる。ランクは五段階に分類され、値段はピンキリだ。下位から中位ランクが庶民船から一般企業向け、上位モデルは傭兵ギルドや商業ギルドなどが使っている印象だ。ちなみに、お母様が造り上げた船は、すべて上位モデルのパーツ構成なんだけど。まあ、そこは伯爵家だしね。


 ただ、効率化がされているとはいえ、エネルギーを消費するわけなので運用には気を使うし、特殊なコーティングである流体金属だからって消耗はするので、規模の大きい衝突や被弾にずっと無傷であるわけでもない。


「うん。コーティング装甲の強度操作はありがたい機能だな。エネルギー管理は大変そうだけど、常に全開で消費するわけじゃなさそうだ。お母様は節約にも注意を払う人だったからこういう造りにもこだわったのかも、そういう面ではとても助かる」


 標準装備が中距離ビームタレットに、小型ミサイル、近接バルカン砲? ブレードウイングといい近接武器が多い傾向だな。換装は可能なようだけど、外部ユニットを連結させて、……車輪? キャタピラ? 走行車両にも運用できるのか!? 小惑星で地面を走っての運用も可能っていうのはすごいな。


 さらにスペックを確認すると、移乗攻撃艇搭載と記載がある。戦闘要員やドロイドを乗せて相手の船の装甲に打ち込むのか。なんて恐ろしいものを。


「お母様、何と争う気だったんだ?」




 ♢



 お次が、ドローン主体の戦闘艦か。ドローンの種類も多いけど最大積載量がかなり多いな。でも、これって同時に動かすのは、ベテランでもかなり厳しいんじゃないか? それに積載量的に、前の二機より機動力が下がってる。


「ドローンの種類で、ビームシールドを展開。盾みたいに運用できるのか。守りの運用に適してるのかと思いきや、セントリー型半固定砲台のドローンで遠距離も可能。近距離から遠距離まで、戦闘用ドローンをこれでもかってほど使うのか。本体にもある程度の軽武装もあるし、乗り手次第でなんにでも利用できるな」


 単独での運用はあまり考えていないが、味方のフォローに力を発揮できる機体なんじゃないだろうか。


 やはりドローンにもグレードやランクは存在する。採掘や戦闘向けのドローンだけじゃなく、船の修繕を行うリペアドローンといのもある。それにセントリー型というのは、目標座標を半固定することで遠距離攻撃を行う、半固定砲台のことだ。軍事施設なんかにはよく配備されている浮遊防衛型ユニットを小型化したのが始まりらしい。


 昔は何人もの人員が必要だった作業だが、オートメーションが技術的な部分を補助してくれるようになり、個人の判断で即時運用が可能になってからは主流になっている所も少なくない。その分価格は高い。それに費用は掛かるし整備もいるので使い手を選ぶものなのは変わりない。



 ♢



「次の船は、これもドローンが運用できるのか。小型から大型までのリペアドローンが搭載されてるな。おもに、修理がメインなのか? キャパシタ外部リチャージユニット搭載? 外部リチャージってことは、他の船のエネルギー事情も外部からコントロールできるってことか。CCキャパシタキャパシティカートリッジは、このために他の船より多く標準搭載されてるわけね」



 船のエネルギーのことは、主にキャパシタキャパシティ容量と呼ばれ、キャパシタと略されることが多い。キャパシタは船内の自動発電ユニットや、外部の光や熱のエネルギーを取り込み、時間経過で回復する。

 キャパシタの回復量を超えた過剰消費でオーバーヒートし、自動発電が故障ないし不具合が発生した場合、CCカートリッジを使用しキャパシタの急速補給を行って、船の機能を維持するようにする。そうしなければ戦闘中なら被害が増え、運行中なら航行もできない状態に陥る。


 僕が主に燃料と言っているのはこれの事だ。


 流体金属には内部のキャパシタコンデンサエネルギー容量から吸い上げる機能がある。被害を防ぐために、コーティングにキャパシタを使い過ぎてオーバーヒートさせる。これが原因での船の不調は多いことらしい。 レーザー系の武器もキャパシタの消費は結構あるからね。


 この船の機能があれば、宇宙で漂流中の故障船の修理から、戦闘中のエネルギー補給までできるわけか。でもそれだけじゃないみたい。


「他の船と違い、索敵レーダーの強化もしてあるな。中距離のレーザータレット。実弾のタレットも載せれるのか。リペアドローンだけじゃなく、戦闘ドローンもいけるのがすごいな。何でもできます、こなしますって売り文句が出そうだ」



 ♢



 戦闘艦の最後の締め。これも可変機能がついてるな。


「これ、超長距離射撃モードなのか。エネルギーの消費は激しそうだけど、カートリッジの残量を度返しに連発できそうだな。あー、いや。砲身の一時冷却は挟むのか。それでもメリットの方が大きい。耐久性や冷却部の改良ができれば、撃つ回数も飛距離も伸ばせそうだ」


 先制の一撃。不意打ち。不定期な嫌がらせにも運用できそうだな。


「武装は遠距離主体、ミサイル搭載可能。なんだか、まだギミックがありそうだな」


 あ、やっぱりあるな。着脱式外部ユニットを装着可能。ミサイルポッドと長射程用の精密狙撃管制ユニット。


 お母様、夢の盛りすぎじゃないかな? ここまでざっと見てきて出てきたのが僕の感想だ。お母様の趣味全開で造ったのだろう、その機体たちに僕は驚きとため息を何度も出した。



 今までの戦闘艦に共通するのはオートメーションの充実で、パイロットが一人でも可能な点。船の性能を百パーセント引き出すことはできないだろうけど。戦力としては申し分ないと思う。

 もちろんフリーゲート艦というだけあって操縦席は複座を採用している。パイロット人数、力量や能力次第で化けるのは明白。こういう船には、アンドロイド達を乗せた方がよさそうだな。


 ただ、一つ大きな問題があるとすれば。全機、非売品のオーダーメイド、カスタム仕様のパーツが多いこと。整備用のカタログスペックデータはお母様のお手製だ。被弾した時の交換パーツは結構な調整に時間が必要そう。全部が全部替えがきかないわけじゃないけど。


 宇宙空間は被弾しなきゃいいってものでもないし、運用には頭を悩ませるか? それでも資金ができるまでは、この戦闘艦たちに頼るしかなんだよなあ。


 ブループリント設計図は、外に漏らせないないのは当然だけど。あ、やっぱり自爆ユニットは存在するらしい。そんなことをしなくて済むように僕も成長しないと。



 宇宙に出たらまず、手ごろな宙域を見つけなきゃならない。資金調達できるように採掘もしていかないと。精錬も自分たちでできたら効率も上がる。輸送船があるんだし、輸送依頼をうけるのもいいか? その方面で僕にできることがないか考える必要が出てきた。


 その前に輸送船のスペックチェック終わらせよう。



 ♢



  で、でかいな! さすがフリゲート艦を複数収納するだけのことはある。肝心のスペックだが。大型というだけあって可能載貨さいか重量は予想をはるかに上回っている。空母みたいな運用ができるように整備施設もあるし。 ドローンの予備や弾薬、整備パーツの割合は悩ましい。


 そもそも、大型輸送船自体の整備にだって消耗品は出るんだし、定期的な補給が可能な宙域でないと、大型の輸送船が整備できる設備なんて限られてくるか。今後の事も考えて、大型輸送船の整備ができる条件がそろってるステーションも調べとかないと。


 さておき、貨物室と格納庫は内容を後で詰めていくとして、艦橋に行こう。


 これは良いな。艦橋は程良い広さがあり、船の状態を監視できるモニターが見やすく配置されている。燃料やエネルギー循環も把握しやすいようになってる。操作は基本的なタッチパネルに、レーダー表記も見やすい。船内で何かあったときの隔壁操作も可能。内部に敵が侵入したと際にモニタリング機能があるんだな。細部にこだわりが見て取れる。


 船内の壁も並大抵の武器じゃ破壊できない強度がある。なので、遠隔で防衛タレットが作動するようになってるんだな。


 後は輸送船に不釣り合いなほどのタレット装備の数。戦闘機やミサイルを落とすための装備なんだろうな。


「これじゃ、ほんとに軍の空母と変わんないんじゃないか?」



 あとは、居住空間を見て回ろう。


「これはまた……。ここは、お母様のコレクションルームか?」


 一つ目に入った部屋、そこで見たものはデータチップの倉庫だった。色々と研究していたのだろうけど、まるで店舗の中のような、閲覧のできるライブラリー展示店のような感じがした。



 当時のカタログからバックアップを取ったのか、古い船のデータやらパーツの構成やら、見やすいように整えられているデータチップ。研究で使いそうな機械から、観測用の専用ユニットまで、見ていて飽きない。


「当時から十年以上経っているから、アップデートはされていない。十年程くらいのデータなら、各社のカタログのデータバンクをみればバックアップ可能かもわかるだろ。お母様の趣味だけど、僕も興味がある。このデータチップの更新は、僕が引き継がせてもらいます」



 居住区には食堂やメディカルルーム、トレーニングルームもあった。部屋数も多く、何というか高級マンションや、ホテルを彷彿とさせる造りだ。おそらく各部屋も、どこかのホテルルームが参考にされてるんじゃないかな?


 おそらく、艦長室なのだろう広い部屋や、クルー用にも客室用にもなのだろう、艦長室を少し小さくしたような部屋もある。各部屋にはベッドやトイレ、シャワー室も完備されている。外部との通信機やオンラインネットワークで情報を見れる映像出力可能なプロジェクター付きのモニターまで設置されていた。長旅に欠かせない設備はバッチリだ。


 大体の部屋や区画は見て回った。必要かどうかは別として部屋数も多いし、アンドロイドたちには各部屋を割り振ってもいいだろう。そういえば、メディカルルームの隣にアンドロイド用の精密検査ユニットやメンテナンスユニットがいくつかあった。


 お母様は、初めからアンドロイドの搭乗を予定していたのかもしれないな。あとでエドワードに確認してみるか。





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