第11話 逃がす気はないってか?

 トスッ。


 空のダイビングは思いのほか早く終わった。上空では僕たちがくみ上げた宇宙船と、敵側の飛行艇がタレットを撃ち合いながら激しく競り合い、ぶつかり合いながら落下していく様子が見れた。

 それを一通り見た後。


「これから街に向かって走ります。背負いますから乗ってください」


「え、あ、ああ。ごめん助かるよ」


 僕は、膝を折り低くして背中を見せるコルビスに急いで身体を預ける。僕が走ったんじゃすぐに追いつかれちゃうからね。


「殿は任せろ。誘導を頼むぜ」


「では、移動します」


 その速度は凄まじく、荒れた道を走り抜け、邪魔な障害物を飛び抜けていく。僕には到底マネできる動作じゃない。後ろでは、遠距離から攻撃がされているのか、後方にバリアを展開しながら追尾してくるカラトロスがいる。


 カラトロスはしきりにバリアの頻度を調節するように感じる。


「カラトロス、ENカートリッジ、僕の脇のポケットにあるからとって使って」


「おー、マジか! さすがキャプテン!」


「二本あるから、コルビスも使ってくれていい。レーザーピストルもあるけど、僕じゃ当てられるか不安なんだよね」


「助かります」


「まあ、キャプテンは戦闘系チップがあればな。今はうちらに任せてくれ」


「そうするよ」




 ☆




「くそっ! なんだあの攻撃は!!」


「おそらくチャージ機能搭載の砲撃武器かと」


「そんなことはわかっている! なんでそんなものがあのぼろい船に付いてあったのだ!」


「観測者からは、船舶の上部に人影があり、そこから攻撃が来たとの連絡が」


「そんなことよりも、早く敵を追いませんと!」


「ん! そうであった。急ぎドロイドとオクトラを編成し、敵を追え! 足止めして捕獲するのだ! 多少の負傷などどうでもよい、生きてさえいればどうとでもなる!」


 はっ! と飛行艇の指揮官が命令を部下に伝達する姿を見ながら、先ほどの攻撃が頭を離れず、急降下していく自分が乗っていた飛空艇を見て身震いする。いくら優勢でも自身が前に出ることはやめておこうと思いなおした小柄な男。それは隣でたたずむガタイのいい男も同じであった。



「指揮官、我々は状況を上に報告せねばならん。現場の指揮は君に一任する! よろしく頼むぞ!」


 上司の言葉に返事をしつつも、やっとどこかに消えてくれた上司二人を見送り、後のことを考える指揮官は編成が終わったとの報告に気を引き締めた。


「現在飛行艇から逃亡した敵を捕獲するよう命を受けた。補給が終わった部隊から随時発進させろ! 追いつけば足止めを優先に! 続け!!」


 指揮官は用意されたバギーに搭乗し、先行する味方部隊の後を追う。こうして始まった追撃は、思うよりは早く追いつくこととなった。なったはいいが、そのあとが問題であった。




 ☆




 川がある! 大きな川! これはさすがにドロイドは来れてもオクトラは無理じゃないか?


「少しは地形が味方してくれてるね」


「向こうの装備にもよりますが、とっかかりの少ない底の深い川ですから、振り切ることはできるかもしれません」


「でも、足は向こうの方が速いみたいだ。攻撃が届き始めてる」


「どうすれば、向こうは諦めてくれるんだろ?」


「こちらの増援の規模次第じゃないか?」


「あー、そうだった。増援のこと忘れてたよ」


「キャプテン、相変わらず変なところが抜けてるな」


 あはは、とごまかす様に笑ってごまかした次の瞬間。


 

 ズバァン!! と音が鳴り響き前方の地面が爆発した。



「なんだ!?」


「どこからの攻撃だ?」


「後方の敵からではなく、もっと後ろからのようです」


「自走砲か?」


「おそらく。ただ精度はわかりません。進みましょう」



 ズバァン!! ズバァン!! ズバァン!! ズバァン!!


 音に驚き辺りを見ると、先ほどの爆発と同じ地面をえぐるような跡が煙と共に量産されていた。


「これは、わざと外している……」


「逃がす気はないってか?」


「おそらく上空に高性能の望遠レンズが積んであるドローンでもいるんじゃないかな。こちらの動きはまるわかりだ。直接こちらに攻撃が来ないってことは、生かす気ではいるんだろう。捕えて尋問、今回の事を僕らの責任として擦り付ける。目的はこの辺りだろうか」


「仕方ない、川を挟んで戦闘しよう。相手だって回り込むのに苦労する地形だ」


「わかりました、持久戦に持ち込みましょう。無理にこちらから攻める必要もないですし」


 三人で方針を固め、僕らは相手の出方をうかがう様に位置取りする。




 ☆



「望遠レンズ起動、範囲拡大。――目標地点は戦闘の痕跡あり。現在も小規模ですが戦闘が継続されている模様」


「遅れてしまったか。閣下から迅速にと言われたがお咎めがあるかな? 戦闘中の所属は?」


「はっ。片方は中小企業のモルザン社と同じく中小企業のバングル社。ヒューマティックノイドが十五機、ドロイドが七十機以上、戦車及び戦闘車両十両。抵抗しているのは、閣下の配下所属のコルセル四機、あと所属不明のアンドロイドとドロイド多数、それと複数の民間人のようです」

 

「民間人?」


「はい、閣下から急ぐ理由が追記されて送られてきています。ご自身の親族に贈り物を届けたが、それに群がる有象無象が出てきてしまったと。筆頭がアマダ伯爵だとのことです。その傘下か影響下にある企業が紛争に参入しているということです」


「ということは、民間人の中にその親族がいるということか……、まいったな。ただの争いの鎮圧だと思っていたぞ」


「閣下が急げと念押ししておられたので、何かあるとは思いましたが」


 二人は領地の紛争を早急に鎮圧するよう命令を受け。コルベット級二隻、駆逐艦級一隻の布陣で惑星ケッシュ(フォルアの滞在している惑星)に急行していた。あとから来た連絡で、紛争の鎮圧から要人保護の命令も組み込まれ内心焦る二人。


 片方は身長が高く細マッチョの印象を受け、出世頭とも目されている男性ヒケリー・アントア中尉。

。片や目の鋭さが印象的で、婚期を逃しているのではと噂のヤワカ・アルモス少尉。


 このままでは、民間人に紛れているだろう閣下の親族とやらが危うい。そう思い、急ぐことにした。


「急速降下! 紛争の仲裁に入る」


「了解。急速降下開始、コルベット艦先行せよ!」


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