第12話 無我夢中ねぇ……
「目標高度まで到達。中小企業側への通信は可能ですが、民間人側へのアクセスコードが……、いえ、ありました。ヒューマティックノイドのコルセルに搭乗している、閣下の配下の方です」
「双方にすぐに停戦命令を! 指示に従わなければ戦艦からの砲撃も
「アルモス少尉は双方の責任者と連絡を――」
「艦長、被害の出ている街の
「無事だったか。その通信には私が出る」
☆
「さっきから直射はなくても爆風で負傷しそうになる」
「死なれたら困るんだろうさ」
「敵の追撃砲きます。一部ドロイドがジェットブースターを装備しているようです。数機来ます!」
「やらせんてぇの! キャプテン、バリアからあまり離れないでくれ」
「ああ」
僕は既にENピストルをカラトロスに渡している。サーベル型の武器はなぜかアンドロイドでは操作できないと結論付けられ、僕が自衛用に持つことになった。
「川を渡った一部と交戦します!」
「頼んだよ!」
ENカートリッジの予備はもうない。この危うい状況で何もできない自分に歯がゆさが生じる。ただ、何もできないときほど何かできないか考えてしまう。悪いことではないが、悔しく感じる。
「川を渡ってくるドロイドの数が増えてきた! 向こう岸にいる敵よりも渡ってきた敵に対応する」
「了解、対面の敵はこれ以上はそれほど動いてないみたい。だけど時間が経てば、ジェットパックを用意されて数で負ける」
「そうだな。ショットガンはまだ撃てるが、時間が経つ分不利か」
敵のドロイドが続々と増えていき、コルビスを囲むように配置取りしている。じりじりと後退するコルビスにカラトロスの援護が続く。
近接戦闘は陣取りと同じようなもの、そう言っている作家がいた気がする。カラトロスの援護はコルビスの背後に敵を回り込ませないこと。それが成っているからこそ防衛ができている。
だが――!
「カラトロス、背後から敵の反応!!」
「こなくそっ!!」
カラトロスが背後に気をそらした途端、敵のドロイドがコルビスの背後に回り同時に襲い掛かった!!
☆
「そうです。ハイアータ伯爵家、家令エドワードでございます。はっ? 親戚? いえ、お孫様であるフォルア様は別の場所に。二機の航空機が墜落した場所からそう遠くには行っていないと思われます。お側には二体のアンドロイドがついていますが、詳しい場所が――」
『Bエリアの北西に強力な電撃砲のようなエネルギー反応があります! 座標転送しました!』
「データを送りします。街の北西に反応があるようです。早急に調べていただきたい!」
『こんな時に介入してきて通信なんて、もしかして、あれが言ってた援軍か?』
まさか、援軍が帝国軍所属の軍艦だとは思いもよらなかった面々。事情を知るエドワードだけは乱れのない姿勢でいた。
「ええ、企業側にも今頃停戦の連絡が行っているかと」
『あーっ、やばかった! ガトリングの
宙に浮く軍艦から輸送機らしき機影が出ていくのが見えた。通信では街の管理を任されている官吏との連絡を密にし、街の救助と再建がなされるようだ。ある程度、各場が落ち着いたら責任者と関係者を駆逐艦で尋問するという。
『敵のドロイドとオクトラが徐々に一定の距離を置いて停止していますね』
フォルアの方も無事であればいいが。そう思わずにはいられない一同であった。
☆
「何を馬鹿な、許可は貴族の方からとっていると、だから! 紛争? ただの小競り合いだ! 攻撃は意図したものではない。勝手にこちらの荷物をかっさらっていった俗物を追ってここまで来たのだ! そこで攻撃を受けて、あえなく反撃したまでである。当方には何も落ち度はない!」
「何!? 北西の戦闘を早期に? なぜだ。我々はまだ目的の物を手に入れていない! なぜ止めねばならん!!」
「何が民間人だ。攻撃しているのは奴らとて同じことだ!」
「やめないと、戦艦から砲撃だと? 誰の許可を得て――!」
「通信が、一方的に解除されました!」
ぐぬぬ、バカにしおって!! 内心で声を上げたが、一企業人である自分達が、戦闘を生業にしている軍人に勝てるはずもない。そんなところだけは冷静になれた幹部の一人。
隣でも同じような態度で、顔を真っ赤にしている同僚を見ると幾分か自分の立ち位置に思考が割けるようになってきた。
部下には戦闘の中止を伝えながら、軍部がどれだけの情報を持って来ているのか疑問に考える。
「しかしわからん。こんな辺境地に軍の巡回予定はなかったはずだが」
「ここは貴族の統治はなく、皇帝陛下の、つまり国役人の
「時間をかけすぎましたかな?」
「いや、二時間程度でピンポイントに軍艦が来ることなどなかろう」
「仕方ありません。この場を抜け出す口実を作らねば」
☆
コルビスがやられる!! そう思った僕は、エドワードに預けられたサーベル型のデバイス武器を両手で構えていた。後から思い直してもそれは明らかに無意識だった。
「コルビスはやらせない!」
気が付いた時には武器を振りぬいていた。凄まじい爆音に我に返った僕だが、砂煙が上がってコルビスの姿が見えない。ハッとした状態でコルビスの安否を、返事が返ってくることを望みながら名を呼ぶ。
「コルビース! コルビース! コルビ――!!」
「私は無事です。キャプテンこそ無茶しないでください! あれくらいの包囲ならあしらえますから」
急に背後から口を押えられたともったら、砂煙の中から現れたコルビスのお叱りを受けた。お叱りと言っても、きつい感じではなく。仕方ないなといった素振りで、それはカラトロスも同じ感じだった。
「そうだぜ、キャプテン。いきなり武器デバイス振り上げたと思ったら、扇状に電撃砲放つんだからよ。コルビスまでやっちまったかと思ったぜ」
「ご、ごめん。無我夢中で」
「無我夢中ねぇ……」
三人の目前には、地面をくりぬいたような跡と、それに巻き込まれた敵側のドロイド達の姿があった。
☆
「街の北西に一瞬ですが、強力なエネルギー反応。今だ交戦が続いている模様」
「……あの光は、拡大して光が放たれた瞬間の映像だけ見せてくれ!」
「はっ!」
――間違いない。あの光はハイアータ閣下が所持している、特殊な兵装から出る光と酷似している。噂では、一族に連なるごく一部の者しか扱えないと聞いていたが。アルモス少尉が聞いたところによると、親戚というのはハイアータ閣下の孫であるということだった。
ここは予定通り、自分が取り調べをして正しい判断を下さねばならん。ただ、閣下の孫がじゃじゃ馬の類でないことだけを祈ろう。
「我が艦は至急、今の高エネルギー反応が出た場所へ向かう。フリーゲート級は双方の紛争を止め、被害報告と街の復旧支援を行え!」
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