第13話 半壊か……

 僕とコルビス、カラトロスの三人で砂煙が晴れた自陣を見る。いつの間にか敵の攻撃は止んでいた。


「なんだ? 敵が来なくなったし攻撃も来ねぇ」


「それになんだが、すごい音が迫ってきてるような」


『キャプテン、フーリカンです。コルビス、カラトロスも無事ですね』


「フーリカンのドローンか」


『キャプテン、街の上空に帝国軍の軍艦が来ています。双方の争いを止めて、言い分を聞いてから判断するそうです。それと、敵の中小企業は戦闘を止めて一部残っているようです。攻撃はされないと思いますが退避を――、あ、いえ。

 今から帝国軍の軍艦がそちらに向かいキャプテンとコルビス、カラトロスを収容するそうです。揚陸部隊が行くと思いますから指示に従ってください。』


「わかった。その場で待機ね。そっちは平気そう?」


『御心配には及びません。けが人も軽傷者のみ。搬入された物資も無事死守しました。ただ、工場が半壊していますが――。揚陸部隊の方が来られたようです。後程合流しましょう』


「了解、半壊か……」


 僕がつぶやいたのを拾ってカラトロスが陽気に声をかけてくれた。


「確かに損害はでかいかもだけど。死人が出なかったならいいじゃねえの」


「そうですよ。街側の損害はまだわかりませんが、味方が無事で物資も無事。今はそれだけでも喜びましょう」


「うん、そうだね。しかし、この後まだやることがあるのか」


 街の方面の上空から近づいてくる軍艦を見上げ、ため息が出る。軍艦はスムーズな停止と旋回を行い、どこからか小型艇がいくつも飛び出してくるのがわかる。その中の数機がこちらにまっすぐ向かってくるようだ。


 そんな光景を僕はぼんやり見ていた。




 ☆



「初めまして。私は第三艦隊所属、六十八連隊駆逐艦の副官、ヤワカ・アルモス少尉。あなた方を我が戦艦へ迎えに来ました。武器は規定により預からせてもらいます」


 アルモス少尉の指示に従い、コルビスとカラトロスは武装を兵士に渡した。それにならい僕もサーベル型の武器デバイスを渡そうとしたが。


「そちらのデバイスは、お持ちになったままで結構です。後程艦長に見せていただくことになるので」


「わかりました」


 僕らはアルモス少尉の後に続くよう言われ、小型艇に乗り込んだ。


「まさか、ハイアータ閣下のお孫様とは」


「失礼ですが、この小隊はおじい様、ハイアータ第三艦隊統合指令長官の指揮する部隊の一部ですか? 後、おじい様が偉いわけで、僕に様とかつけなくていいですよ。男爵家の三男ですし」


「そうですか、ではそのように。おっしゃる通りではありますが、ハイアータ閣下の第三艦隊の本体より部隊過程はかなり低いのです」


「それでも有事の際は第三艦隊として動かれるのですから、とても立派なことだと思います」


「そう言って頂けると、日々の鍛錬も報われます。ありがとうございます」


 小型艇から降り、初めて乗る駆逐艦に感動し、アルモス少尉と他愛のない話をしながら長い通路を歩いて付いた先は、応接室と書かれた飾り気のないこじんまりとした部屋だった。


 三人で通された部屋にテーブルを挟んだ向かい合わせのソファー。過度の方にも机がある。


「こちらで少しお待ちください。上官を呼んでまります。良ければ、あちらに飲み物と軽食もありますのでご自由にお使いください。少し時間がかかると思いますので」


「ありがとうございます」


 結局アルモス少尉とは、少し話せたけど彼女の口調は変わらなかった。勤務中だからだろと思い直し、奥側のソファーに腰かけたが座ったのは僕だけだった。


「二人はかけないの?」


「キャプテン、貴方は私達にとって護衛対象でもあります。緊急時に動けるようにするのも我々の責務ですから」


「なんもねぇ時はくつろいで椅子に座ったりするけども。今の状況次第じゃ戦闘もありうるからね。ほれ、食事と飲み物だ。毒はないよ」


「ありがと。そっか。おじい様の部下ということでも、あまり気を抜きすぎちゃだめだね。反省します」


「よろしい。ふふ、気を張れというわけではありませんが、何事も用心は必要ですよ」


「どうせこの会話もどこかで盗み聞きされてるんだろうさ」


 見えない誰かに聞かれている。そう言われたら、なんだか無性にどうでもよくなってきた。食事を一通りすると、頭の中でこんがらがっていたことがほどけて、なんとなく考えがすっきりしてきた。


「しかし、中小企業の連中。ハワードさんの工場めちゃくちゃにして、今更ながら腹が立ってきたな。起動核一つに企業の戦闘部隊送り込むわ、街中に空爆するわ、工業区をヒューマティックノイドで踏み荒らすわ。あんなことできる権限があるわけないじゃん」


官吏かんりが無事だったという話ですが、避難がどれだけできていたか」


「最初は小規模な攻撃だったな。こっちが抵抗見せたら力ずくで奪い取る勢いになったし。最初からそのつもりだったか」


 一瞬、僕が饒舌じょうぜつにしゃべりだしたことに疑問を持ったようだが、何かを察して話に乗ってくれる二人。



「こんな所とは言えないけど、辺境だけどここは皇帝陛下が統治する惑星なはずだ。治安も気候も穏やかだ。小規模だろうと、むやみやたらと紛争を起こしていい場所じゃない。攻撃に興が乗って、途中から専制者にでもなった気になってたんじゃないかな」


「確か、エドワードの旦那がトレーラーを工場裏手の倉庫に入れた辺りで攻撃を受けたんだったか?」


「エドワード氏は護衛にヒューマティックノイドを四機、連れてきていましたね」


「多分、工場に来る途中から攻撃を受けてたんじゃないかな? 例の起動核がどういう代物で、どういう経緯で手に入れたかは知らないけどね。おじい様の伝手で手に入れたんだと思うと、不正はないと思うけど聞くのが怖いよ」


「出所はエドワード氏に聞けばわかるのでしょう」


「そうだね。ただ、護衛にヒューマティックノイドを四機、普通じゃそんな護衛を付けないもんだ。おじい様の差し金なんだろうけど。おじい様は不正が大っ嫌いだからね。正規ルートを通してるはずだけど。貴族間のいざこざでもあったのかもしれない」


「お貴族様の、パーツの取り合いに巻き込まれたってとこか?」


「かも知れない。中小企業の裏にはアバラス子爵といくつかの貴族連中。これは予想だけど、そのさらに後ろにガクー・アマダ伯爵がいるんじゃないかな? 派閥が違うって聞いたことがある」


「もしも、私たちの手の届かない場所の話なら、はた迷惑なのですけどね」


「おじい様、まさか今の状況を何気に予想して作り出してないよね? エドワードが、なんで都合よく外部チップデバイスの上級指揮官系デバイスを組んだヘッドアップディスプレイなんか持ってたんだ?

 ヒューマティックノイドの指揮の為か? いや、エドワードはその手のチップは付けてたはずだ。だけど、おじい様が死人が出るような企てを見繕うはずもない。


 軍艦の派遣は意図したものだけど、予定より遅れて到着したことで混乱が出た可能性はある。家令であるエドワードに連絡が付き、惑星に滞在していたのもその根拠だ。彼が直接運搬をするのも、ヒューマティックノイドが護衛に付くのもおかしい。

 情報が錯綜して貴族や企業の力の入れようを見誤った?

 さっき話してた第三艦隊所属の副官である彼女は、僕がおじい様の孫というのを知らなかった、もしくは直前に知ったような感じだった。


 それと、今回の紛争に関わった経緯のある企業はもちろん、貴族社会にも何らかの影響は出るだろう。何せ皇帝陛下直属の管理地だ。皇帝陛下が不満を漏らせばどうなることか。

 その時、アマダ伯爵は企業や頼子の貴族をかばうだろうか? 足切りに使うことだけを考えるとしたら、貴族はどうなるかわからないけど、企業は絶大な大ダメージを受ける。人事の不始末で終わらせられるほど甘くはないと思う。最悪倒産――」


「キャプテン、ちょいたんま」


「え? あ、うん」


「キャプテンの考えは参考にするとしても、今は我々の身がどう扱われるかが問題です」


「そうだった。考えに没頭しすぎたよ。どこまでがおじい様の筋書きなのか。それまでで考えは打ち切るべきだね」



 考えに没頭しすぎて、考えが口に出すぎてしまった。ようは、自分たちの身柄が不正な考えで裁かれないことが大事なんだ。


 僕は工場区、いや、街の損害と復興について二人と話した。情報が少なくて話すことは端的なことだけだ。話の流れが途切れてから、しばらく部屋に沈黙が落ちた。


 それから少しして、部屋の外部からノックが聞こえた。返事をするとアルモス少尉と、見知らぬ男性が部下を少数連れて入ってきた。








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