第14話 だから、お飾りだと?
俺の名は、ヒケリー・アントア中尉。第三艦隊所属、六十八連隊、駆逐艦の隊長兼艦長だ。今は問題を起こし紛争を起こした中小企業モルザン社の幹部。それと同じく中小企業のバングル社の幹部の二人を呼び出し説明を求めていた。
思いもよらぬ形で、とは言いつくろっているが、こいつらはつらつらと言い訳を並べ立てているようだ。
中小企業の連中の目的は、起動核だった。この起動核はひとつ前の世代からよく使われている汎用性に富んだ機能を持ち、カスタマイズに用いるのに最適なものらしい。人気な商品なだけあり品薄で手に入りづらい。そしてその生産は今は訳あって止まっているらしい。
それを、貴族連中からの強い要望で取りに言ったら、横からかすめ取られて慌てて追いかけた先が、惑星ケッシュにあるラスアンクという街だったという。ここの統治が皇帝陛下によるもので優秀な
そのことを知りながら、あえて攻め込むことになった経緯に俺の頭は今にもブチギレそうだ。しかし、淡々と相手の口を動かすために、表情を固めている。
二人は貴族連中からの強い要望、それを強調しながら話を終わらせようとしてくる。相手を丸め込もうとするやつの手口そのままだ。そんなことが理由になるなら、どこの惑星の自治区も紛争地域になってしまうだろう。
貴族に中小企業が逆らえるわけもなく? 正当な理由があれば断れるんだよ。この惑星で小競り合いだろうが争いが起こることを、皇帝陛下が許容するはずもなし。企業の軍部で指揮官に就いていた人物は、上司の命令で仕方なく実行したとしか言わねぇ。立場的に逆らえなかったのはわからんでもない。
だが、官吏が統治している前提で攻め込む前に、交渉の余地すらないとほざくのはどうなんだ? こいつらは、今の状況を軽んじている様子がある。これはもう、一個人がやりました、なんてラインはとっくに超えて、会社存続の危機であることを話せば、企業側の連中は顔色が悪くなった。
あの、しかし、ですから。これしか喋らなくなったこいつらにかまっている時間が惜しくなり、後は部下に任せることにした。
☆
場所を変えて、こちらは閣下の親戚。お孫様のいるだろう部屋の向かいにある。特殊な硝子の傍聴室だ。
「で、その親戚のお孫様というのはどんな感じだ?」
アルモス少尉に尋ねる。保護と収容を任せただけで進展を期待したわけじゃない。それでも聞くのは、彼女の上官としての義務だ。
「とても穏やかな、それでいて真面目そうな青年ですね。船内をキラキラした目で見学していました」
「じゃじゃ馬の類じゃないならいいさ。それで、部屋に軟禁してくつろいでいる間に何か話してたか? 連れにアンドロイドが二体だったか」
「ええ、有意義といいますか。見てきたように予想を語ってくれていました。まるで、こちらが聞いていることを良しとして聞かせるように。今は軽食をとって持っていますね」
話を聞くと洞察力や推察、ロジックの組み立てがかなり上手いらしい。紛争相手の事や、この地に起動核が送られた経緯。誰が誰の指示で、何を考え行動したのか。考えながら言い連ねては、アルモス少尉を感心させている。
なんだそれ。十五歳になったばかりの青年が。しかも、今は街の被害について責任を感じ、頭をひねっているらしい。出来た孫を持って閣下は喜んでいることだろう。
俺は今から彼と話をするわけだが、見透かされないように注意を払っておくべきだろうな。
☆
プシュー。
応接室のドアが開いて入ってきた。僕はソファーから立ち上がり敬礼する。アルモス少尉と複数の兵士さん、その中で服装がアルモス少尉と同じような感じで、確か階級章が違う人物が話しかけてきた。
「私の名は、ヒケリー・アントア中尉。第三艦隊所属、六十八連隊駆逐艦の隊長兼艦長を任されています」
敬礼は結構、ソファーにかけてください。そう言われたので座りなおすと相手も対面に座り、部下に飲み物を頼んでいる。
「さてと、何から話せばいいか。まず結論から伝えるべきことを」
「お願いします」
「街に駐在する官吏の話では、君たちは攻撃を受けた側。それに対抗するために工業区とはいえ街中で抗戦を始めたわけだ」
「はい。間違いありません」
「工業区の総括、取りまとめをしているハワード氏はわかるかね」
「はい、いつも工場の裏倉庫を貸してもらい、指導もつけてもらって。大変、お世話になっています」
「そうか。工場は半壊しているそうだが、修繕可能な範囲だそうだ。けが人はいるがそれも今頃うちの揚陸部隊が検査と治療に当たっている」
「そ、そうですか。よかった。街中にも空爆がされていると思うんですが、そちらは」
「けが人はいるが、軽傷者ばかりと報告を受けている。建物の損害も工業区に近い方しか受けていないそうだ」
「はあぁー。本当によかった」
意図せず安堵の声が漏れる。アントア中尉が苦笑いしながら事情聴取を再開する。
「続いて、起動核の件です。貴方は起動核についてどこまで知っていたか述べてください」
「起動核。僕の見積もりが甘く、今まで使っていた起動核のスペックを上回る宇宙船を設計してしまいました。そこで、中古でいいので状態の良い代わりの起動核をおじい様の部下であるハイアータ伯爵家の家令エドワードに依頼しました。将来、採算が取れたら支払いできるぐらいの起動核が必要だと」
それから、一週間ほどで起動核の入手ができたと連絡が来たこと。スペックは納品後に説明すること。おじい様が、僕が母の実家を頼ったのがうれしくて張り切っていたことなどは少し
「失礼ですが、ご実家には頼らなかったのですか?」
「調べておられるとは思いますが、僕はフォーサイス男爵家の三男です。まあ、お飾りではあるんですが。実母が男爵家にメイドとして奉仕に来ていた際、父と出会い僕が生まれたわけです。ただ父には先に奥さんがいまして、妊娠中に父が強引に迫ったそうです」
ああ、この手の話か。という表情をする兵士の様子にたまらず苦笑いしてしまう。
「だから、お飾りだと?」
「ええ、最低限の食事はとれていましたし、十三で軍学校に入るのは決まっていたんですが、実母が僕が十五になる前に他界しまして。家からの援助はそこで途切れています。
父は元々女癖が悪かったようで、他にも女性関係があったようですが、金銭的援助を受けた記憶はありません。
今回の宇宙開拓の公募が発表された後、急に呼び出されたと思ったら、宇宙服の中古も買えないお金を投げつけられて、家から追い出されました。
学校は中途退学になってしまいまして。友人の助けでこの惑星にこれたので、日々バイトをこなして、軍学校の教材も友人から安く売ってもらって勉強しました」
「それで、ハイアータ伯爵家に援助をしてもらっていたと」
「ええ、母が他界した後、何度か専門的な教材が手に入らなくて頼りました」
「え、いや。ハイアータ伯爵家に身を寄せなかったのですか?」
「お忙しいおじい様の手を煩わせることはできません。というのは建前ですが、申し出は受けず、必要最低限でかまわないと。自分の目標が叶うまでは、自分の力だけでできるだけのことはして地力を付けようと考えました」
「……」
「遠回りではありましたが、誰にも恥じない生き方っていうのは心がけていましたし。ほんとに困ったときだけ、母からの言いつけを守って、ちゃんとおじい様に頼ってました」
「それをハイアータ閣下は許されていたのですか?」
「一度、ちゃんとお会いして、両親のことも含め話し合いをさせていただきました。最低限の支援だけとお願いする際は、かなり渋っておいででしたが。母からの手紙と自立して目標を達成したら、わがままは言わないということで納得していただきました」
「申し訳ない。お家事情まで聴いてしまい」
「いえ、義務であると認識しております」
「――恐縮です。それで、話は戻ります。官吏からの報告では、街の北西で二機の飛行船が衝突した目撃情報がありましたが、それについては?」
「片方は企業側から来た飛行艇、片や僕が組んだ宇宙船ですね。企業側の攻撃部隊が多くさばき切れないと思ったので、企業側本陣にこちらが遠距離攻撃できる手段があるんだぞって知らしめるための行動でした。自陣を手薄にすると危ないぞと。
ただ、相手の旗艦らしき船が前に出てくるとは思わず、飛行速度も向こうが上だったので、撃ち落としたら街に落下する可能性を考慮して自分の船をぶつけました」
「それは英断だな。何より、自分で組んだ船が飛ぶというのも、あ……」
「飛ばせるといっても発着場の推進器ありきでしたし、十五分も飛べばキャパ切れになって落ちたはずなので、総合的な結果としてはよかったと思います」
自分が組み上げた船。その船は企業側の船とぶつかり吹き飛んだ。その話をしたばかりなのにと、うかつなことを話したと悔いるそぶりを見せたアントア中尉に、気にしていないという意味で聞かなかったことにした。
「なるほど。では、企業側から――」
気を取り直し、その後もアントア中尉の質問に答え。補足があればコルビスとカラトロスが付け加えてくれた。
それからの事情聴取は企業側と違い、記憶の
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