第15話 お守り、すごい役に立ったよ
企業側の取り調べは未だ終わっていなかった。後にも先にも自分の責任ではないと、幹部同士で責任を押し付け合っていたのだ。すでにそのラインは越えていると言っているのだが。
傍聴室でそれを見たアントアは、こんなのが企業の幹部クラスなのかとため息をつき、隣では無表情にモニターを見つめるアルモス少尉。
そんな折、通信連絡が入る。
『無事に鎮圧できたようで何よりだ。苦労をかける』
通信のモニターに姿を見せたのは、フォルアの祖父にして、帝国軍第三艦隊のトップ、ビキン・ハイアータ総司令であった。
「はっ、恐縮であります。ですが企業側がごねており、現場での全容はわかっていてもらちが明かぬ状態です。申し訳ありません」
内心は焦っていたが、表情を崩さないのは案外得意な才能を持つアントアは、現状報告を短くまとめた。
『そうか。こちらでもアバラス子爵及び、複数の貴族が取り調べを受けておる。時間はかかるが、アマダ伯爵との関係には結びつけることはできなさそうだ。派閥の関係上、粛清は各々に
「そうなりますと、お孫様の方は解放してもよろしいかと思われますが、いかがでしょうか?」
『フォルアか。まったく、誰に似たのか頑固なところよ。しかし、報告によれば自分の組んだ船を飛ばし、被害を出さぬがために相手の船と衝突させたとあるな。一応の目的は果たせたとみてよかろう』
「閣下?」
『あ奴の事は私が引き継ぐ、開放してかまわんよ。私とあ奴の問題もあるしな』
「と、言いますと?」
『エドワードに連れて戻らせる。無論、私の元にだ』
「お孫様は納得なさいますか?」
『するもしないも、元から約束はしてあるからな。それに公募のこともある。急がんと他の者に後れを取るからな。例の起動核もこちらに回収するし、あ奴も素直になるだろう。開放する際一言言っておいてくれ。そろそろ祖父孝行ぐらい考えてほしいとな』
「かしこまりました。必ずお伝えします」
『よろしい。貴族連中のことは任せてもらうが、堂々巡りで時間消費する分の対価はもらうとしよう。企業から押収できるものは全部吸い上げておけ。社員の退職手当も忘れずにな。使えそうな人材はキープするように』
「よろしいのですか?」
『倒産か企業縮小して雇われるかは、その人材いかんだ』
「了解しました」
☆
「そのようなことを、わかりました。エドワードを通じて僕の方から連絡を入れておきます。お世話になりました」
「ああ、復興の方は我々も尽力する。身支度を整えて、後のことは任せたまえ」
「はい。よろしくお願いいたします」
そんな挨拶を交わし、僕はハワードさんのところに三人で戻ることになった。
「よう、戻ったか?」
「ハワードさん、この度は大変ご迷惑を――」
「ばっかやろう! やると決めたのは俺だし、結果を招いたのも俺の判断だ。お前が気に病むことじゃねぇ」
そういいながらずいっと顔を寄せるハワードさん。
「修繕費用や賠償金を、目が飛び出るほどの保証金で埋め合わせされるんだ。誰も死んでねえし、工業区の人間も納得してる。金がもらえてバカ騒ぎ出来て逆に喜んだ奴や楽しんでたやつもいるしな。俺もその一人だ」
とすん、と僕の胸を軽くたたくハワードさん。
「復旧にかかる時間を気にしなきゃ、でかいプラスなんだからよ。辛気臭く謝られる方が悪い気がするぜ」
「――ありがとうございました」
「おう、それでいい」
☆
坊ちゃま、と次に声をかけてきたのはエドワードだった。
「心配かけたね。お守り、すごい役に立ったよ」
「それはようございましたな」
「僕が久々に、おじい様に呼び出されているのは知ってるかな?」
「もちろんです。帰りの手配は既に進めております。明日以降、準備が整い次第いつでも出発できるでしょう。旦那様から例の起動核も回収して持ってくるように指示されております」
「そうか。色々と済ましたいこともあるけど、まずはおじい様の要件を終わらせるのが先決だね。早いに越したこしたことはないけど、各所にこの地を離れる連絡を入れたいから、出発は早くても明後日かな」
「では、そのように」
「うん」
☆
「キャプテン、こっち来てくれ。話があるんだ」
話の終わりを見計らいカラトロスが話しかけてきた。
「うん。そっちいくよ」
話に加わるのはアンドロイドの
「結論から言いますと、キャプテンに今後も同行するのでお願いします」
「ドガー様の方には、既に連絡済みです。今回の件もご報告いたしましたが、笑って承諾を頂きました。破損しているドロイドや消耗品などは、軍の方から損害賠償として補填とクレジットの保証金がでるそうです。予想外の収支で喜んでおられましたわ」
「そうだったか。今回担当してくださる軍の方は、対応がまじめで好感が持てたから安心していいと思ってるよ。何かあれば、おじい様に会う機会に連絡するけど」
「前のオーナーが喜んでたんやし、心配いらんやろ」
「以前からうかがっていた、おじい様というのはご親戚でしょうか?」
「ああ、伝えてなかったけど、母方の実家でね。帝国軍第三艦隊の総司令をされていて、僕からしたら祖父に当たる方だよ」
「帝国軍の総司令……、なんや話がぶっ飛んでんね」
「そのおじい様から呼び出しくらってさ。早くても明後日の便で帝都に行かなきゃならないんだ。エドワードに手配してもらってる」
「それは急ですね。今日からの予定はどうしますか?」
「とりあえず、今日は夜遅い就寝するかな。ライフラインって活きてるのかな?」
「はい。被害から免れたいくつかのホテルは、早くも営業されています。ライフラインの損傷は軽微ということでしたから」
「それは助かるなぁ。僕も復興に何かしら役立ちたいけど、さっきから緊張感が抜けて眠気がひどいんだ」
「まあ、復興に関しては街の人と軍に任せとけばいいでしょう」
「せやせや、休めるうちに休むのがいいやろ」
「ハワードさんとエドワードに一声かけてから、近場のホテルにいこうかな」
「ミカラドとスイビーが警護に当たります。二人ともお願いします」
「ええ」
「了解や」
取り決めがなされている内に、ハワードさんに一声かけてホテルへと向かう。エドワードは、ヒューマティックノイドの点検があるそうだ。護衛はアンドロイドの二人に任せると言われた。
☆
「それにしても、こんな結果になるとはなぁ」
「正直、キャプテンの行動にはおどろかされました」
「状況判断といい、思いっきりの良さといい。わても正直、最初の頃の面影からガラッと変わったのは意外やったな」
「チップもつけない非力なオーナーという認識でしたが、指揮官系の外部デバイスだけであれだけ行動できた。チップやスロットに手が加わればどうなることやら」
「そうなんよ。末恐ろしいというか楽しみでもあるなぁ」
「ええ、このかわいいらしい寝顔が、凛々しくなるのはギャップがあります」
「なんやミカラド。あんさん、そういうのに興味あるん?」
「ええ、まあ。本人には言いませんけど」
「そういうの”ギャップ萌え”言うらしいで。ええ趣味してるわ」
「そういうスイビーはどうなのです。なにやら、押しに弱いように見受けられますが?」
「キャプテンが事務所から出る時の話やろ? あれは仕方ないやん。正直助かったし、意外な行動というか、なんかわからんけどドキドキしたわ。カラトロスも賛同してくれてたし」
「あなたも同じような趣向のようですね」
「否定はせんけども。案外、他のメンツもそんな感じちゃうかな?」
「確かに。なんだかんだと、誰も否定はしなさそうではありますね」
ホテルに着いた後、僕はシャワー室で寝てしまったらしい。発見されるのが早く介抱されてバスローブを着せられて、ベッドに寝かされたようで風邪をひかなかったのは幸いだ。翌日は朝早く起きようと思ったが、疲れていたのか昼前まで寝ていてスイビーに起こされた。
無論、シャワー室で寝てたことにお小言はもらった。
「今からでも、お世話になったところに挨拶回りに行くよ」
「じゃあ、一緒に行こか」
「お供します」
「ありがとう。まずは働いてたバイト先だね。急な退職だから菓子折り持っていこうか」
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