第8話 お言葉に甘えて!

 戦闘発生から既に一時間半。僕らは敵の戦力に抵抗していたが押され始めていた。敵の地上兵器が工場区域をかまうことなく破壊しながら進み、空爆の頻度が上がったからだ。ドロイドの損傷も多くなり部隊全体に負担が重くのしかかる。


「メンテナンス、僕も手伝うよ」


「いけません、坊ちゃま!」


「リペアライザーみたいな重機を使わないものなら僕でもできる!」


「だからと言って工場内部は攻撃範囲にないります。指揮所は頑丈でしょうが、外は危険ですから」


「言ってる場合か! スイビー、僕の方にも損傷したドロイドを。簡単なことなら任せてくれ」


『キャプテン!? せや言うてもなあ――』


「多少の不具合や調整パーツの交換程度ならすぐできるから!」


『そういうことやのうて――』


「指揮所からそんなに離れてない場所でするから!」


『もー! しゃあないなあ……』


『スイビー! 貴方――』


『しょうがないやん! 手が足りないんは事実やし! 狙われてるのキャプテンじゃないし! 指揮所は近いし! キャプテン整備士やし! エドワード氏もおるし――』


『だあぁー! マジで危険になったら隠れてくくれよ!?』



 泣き言のように言い訳をしだしたスイビー。それに対してカラトロスが折れる。手が足りていないことを理解できているのでスイビーの言い分は否定しどころがないようだ。


『カラトロス!?』


『仕方ねぇじゃん! 打開策がねえんだからよ!』


 ミカラドからの突っ込みを受けたが、カラトロスのやけくそ気味の正論に周囲は黙ってしまった。




 ☆




 戦闘継続中にドロイドの破損状況が響き始め、ついにはコルセルに攻撃が集中してきた。相手も損傷して戦力は削れているはずだが、攻撃の激しさは止まない。


『D班、Aブロック寄りでオクトラと交戦中! 敵損傷軽微、抜けられます!』


「ミカラド、遊撃はそろそろ引いて防衛に回って! コルセルはオクトラに集中! コルビスも戻っていい。補給がいるだろう。フーリカン、負傷者の程度は?」


『こちらC班、軽傷者がほとんどです』


「それはなにより、それでドローンで見た相手の指揮所は、最初に言ってた航空機かな?」


『はい、地上の大型車は補給物資、ないしオクトラ用の装備と思われます』


「そうか……」


「A班もどった。ただ、そろそろ弾薬が切れそうだ」


「E班戻りました。こちらも、エネルギーパックがそれほどありません」


『D班から、裏口にオクトラ集結中!』


「――やるしかないか」


「坊ちゃま?」


 怪訝な表情で問いかけてくるエドワード。僕の視線は倉庫の奥で影になっているシルエットに集中させた。


「大詰めってとこだね。カラトロス、コルビス! 宇宙船を上げる」


「何を馬鹿な!?」


「ハワードさん、倉庫にある宇宙船用の遠距離キャノン砲使わせてください!」


『なんに使う気だ? 遠距離ったって中古品の骨董品だぞ? 整備はしてるが数発撃てばすぐいかれちまう。前に話したろっ!』


「重力下だと射程四十km、でしたよね? チャージショットで多少伸びるとか」


『おい、まさか?』


 宇宙船の整備や組み立てをしているときに借りている作業用の倉庫。そこにはいくつかの宇宙船用に付ける武装があった。遠距離キャノン砲はその一つで、ハワードさんにその性能を聞く機会があり覚えていた。

 かなり古い型だが、チャージショット機能が備わっている優れものだ。持ち主はもう他の武器に換装して払い下げだと聞いている。


「宇宙船に乗せてカラトロスに撃ってもらいます。チャージショットならそれなりの威力は出るはず! それに今の船のエンジンでも十五分くらいは飛ぶはずだ。推進剤もちゃんと補充してるから」


「ちょいまち、武器を取り付けるのに船に固定モジュールなんてないで!?」


「宇宙船の真上で、コルビスに固定モジュールを持ってもらってカラトロスが狙撃する。ほんとはコルセルを乗せたいけど重量的に厳しい」


『骨董品キャノン砲のエネルギ弾は四、五発しかねえぞ』


「相手にこっちからも攻撃が届くんだってわからせるだけです」


『自分たちが安全地帯だと思ってるから部隊を増員してきたってことか』


「ええ、船の操縦は僕がやります。これ以上人手は割けれけない」


『まじかよ……』


「大マジですよ!」


『ダメです、キャプテン。許可できるわけがない! いっそのこと起動核を渡してしまえば――』


「こちらの増援ももうすぐくるはず。ここまで耐えて、諦めるにはまだ早い!」


「危険すぎますぞ、坊ちゃま!」


「死ぬ気はないけど死ぬ気でやる! 最悪オートパイロットで危なくなったら逃げるさ。それより、表門の敵部隊が邪魔だ。エドワード、コルセルで少しでいいから黙らせてくれ。そっちから回り込んで出る!」


「……死んではなりませぬぞ?」


「そのつもりだ」


「このカトラス型ビームサーベルを腰に下げてください。発動機に触れた際に刃がでる仕組みです」


「扱ったことないよ?」


「腰に下げているだけで十分です。お守り変わりだとお思いください」


 わかった。僕がそう告げるとエドワードは優しく微笑みを浮かべ離れていく。コルセルの方へ向かい指示を出すようだ。


「さて、発着場まで船を移動させる。その間にできるだけ正面の敵を排除してくれ!」


 こいつ本気でやる気かって視線を向けられたがかまっている暇などない。カラトロスにキャノン砲の状態を見てもらう。言われたように残弾数ぐらいは何とか撃てるようだ。コルビスがアタッチメントを持ちながらカラトロスと宇宙船の上部に飛び上がった。


「キャプテン、上部の屋根外すぞ?」


「任せる、好きにやってくれ」


「お言葉に甘えて!」


 宇宙船からあまり聞きたくない音が聞こえてくる。飛行に支障がなければどうとでもやってくれていい。僕は思いなおしカラトロスたちがやりたいようにやらせる。


「推進剤残量良し、スラスター連動良し! エンジン出力六十パーセント、発着場まで移動する!」


「職人班、工場に戻った方がいい。空爆が激しい!」


「コルセル、弾幕を集中させろ。注意を分散させよ! 時間が稼げればそれでいい!」


『わかった、おい、お前ら裏門を通り抜けるぞ! そらよっ! 置き土産だ、釣はいらねぇぜ!』


 職人班の爆弾やミサイルランチャー、バズーカなどの多彩な攻撃が固まって布陣する敵に直撃する。大体はオクトラの巨体で防がれてしまったが、無事に工場への帰還ができたようだ。


「アンドロイドの姉ちゃん。ショットガンと弾丸だ、これもってけ!」


「おう、あんがとよ!」


「フォルア、これ着ていけ。首に巻いてスイッチ押せば簡易宇宙服になる! 今のぼろっちい服よりゃましにならあ! それっ!」


 宇宙船に駆け寄って危なげなく登ってきたハワードさん。パワードスーツの性能は伊達でないようだ。ありがたく簡易宇宙服のパッケージを受け取る。首に巻いてスイッチを押すと、身体を包み込むように黒に緑のラインが入ったヘルメットもついている宇宙服になった。


「ありがとう、ハワードさん。あと、迷惑かけます」


「ばぁーろう! 帰ってきたらこの付けは何かしらで返してもらう。――だから、早まんじゃねぇぞ?」


「はいっ!」



 僕の宇宙船は、発着場までの短い距離を移動した。通常自力で船体を持ち上げるものだが、仮初のこの宇宙船にはその力がない。なので、発射直前の推進力を発着場の装置で瞬間的に発生させて飛び立つ方式をとる。


 死ぬつもりはない、いくらか時間が稼げればそれでいい。不安と恐怖心がないわけじゃない。だが、何より今まで奪われてきたものに比べれば、ここで怖気ずくほど僕は弱くないはずだ。そう自分に言い聞かせた。












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