第9話 人格変わってないか?

 よし、飛んだ!! と、当ったり前だ! 苦労して組み上げた自分の宇宙船なんだ。設計図を考え、廃材所の人と顔見知りになって仲良くなるくらい通って、船体の組み立てに苦労して、エンジンやスラスターの起動に喜び、更に改良を繰り返し、起動核の出力に愕然がくぜんとした。

 ハワードさんの使っていた起動核だから、それなりに出力があると思っていたけど、船の環境を整えていくうちに出力不足になった。アンドロイド達やドロイド達を乗せて、自分の生活環境まで載せたら無理もない。


 元々、当時のハワードさんはニ、三人の想定でプレハブ型の宇宙船を組んでいたんだと聞いた。僕は詰めが甘い、それもあわせて落胆らくたんした。


 だけど、自分の力だけじゃどうしようもない。軸である起動核の問題が浮上した。どうにかならないだろうか。その時思い出したのは、ハワードさんの言った言葉だ。


「そこはお前、コネでも使えば何とかならあな」


 確かに、頼れる人はいる。いるが、頼っていいものか迷う。そんな僕に、うじうじしてるより頼って断られてから悩んだ方が建設的だろ? と背中を押す言葉をかけてくれたハワードさん。本当に感謝してる。


 まだ起動核は載せ替えてない。ハワードさんが使っていた起動核だ。だけど、エンジンの駆動が、スラスターの排気が、僕に何とも言えない高揚感を与えた。


「目標の方向はわかってる。工場周辺に削岩用の自動タレットを打ち込む。傾けるから気を付けて!」


『無茶するなよ?』


『この船の耐久値で銃撃なんか撃ち込まれたらすぐに装甲がげます。あってないようなものですし、当たり所が悪ければ墜落します』


「的確なコメントありがとう。わかってる。高度は下げない。多少の意趣いしゅ返しさ!」


フライトシミュレーターを何度も繰り返し、飽きる程こなした過程が自身の糧になっている。


「タレットのエネルギーもさほど無い。時間もないし、敵陣に向かう。射程距離にはいったら好きに撃ってくれ!」


『のしをつけて返してやるぜ!』


『キャプテン、後方のハッチを開けてください。ミサイルが来てます』


「了解!後部ハッチ解放」


『コルビス、さっきもらったこれもってけよ』


『ショットガン、カスタム仕上げで射程距離が伸びてますね。有りがたく使わせてもらいます』





「タレットの援護か、ありがてぇ!」


「だが、長くはできんでしょう。敵が戸惑っている今の内に武装換装急げ!」


「キャプテンの船にミサイル撃ちよった!」


「なんだと!?」


「コルビスとカラトロスがいるのです。何とかしのぐでしょう」


 コルセルの装備や破損パーツが取り換えられていくのを見て、じれったい気持ちを抑え込むエドワード。元々積んでいたトラクターの補給も心もとないため、武器の換装は一体ずつ行う必要があった。


「私はコルセルに搭乗して前衛にでます」


「そんなことして大丈夫かよ」


「機械制御よりも搭乗者の能力でコルセルは化けますので。なに、他のコルセルが換装するまでの時間稼ぎです」


「危なくなったら下がるんよ?」


「もちろん、そうしますとも」


『01号機換装完了』


「では」


 コルセルの脇にはめ込み式の蓋を開け、コードキーを打ち込むパネルに素早くキー解除パスワードを打ち込んだエドワード。すると、背中の上部から空気が漏れるような音と共に搭乗者用のハッチが現れる。

 そこに飛び込むようにエドワードが入り込むとハッチが締まり、コルセルが立ち上がって武装を構えた。


『覚悟せよ! 坊ちゃんの邪魔をする者はすり潰す!』


「あのキャプテンの付き人、人格変わってないか?」


「意気込み語ってるだけじゃないですか?」


「その辺は触れなくてもいいことにしましょう」


『ぬおぉー!』




 ☆




 よくわからないけど、エドワードがハッスルしているようだ。あまり無茶をしてほしくないが、今は自分のことに集中しよう。


『追尾ミサイル三発を破壊しました。こちらへの攻撃で脅威になるものは今のところありません』


「さすがだ。助かるよ。カラトロス、狙撃はできそうかい?」


『敵は見えてるが、スコープがない。コルビス何かないか?』


『アタッチメントはこちらで対応します。私が固定モジュール代わりになるのですぐ戻ります』


『あいよ』


「この船は相手のレーダに―そろそろ映っているはずだ。姿勢制御は安定して固定できないかもしれない」


『相手の指揮官機と思われる飛空艇、こちらに動き出しました!』


「さすがにか、砲撃するタイミングは任せる。というか、こっちに動き出したのか?」


『はい、距離が近づいています。間違いありません』


「相手は何考えてるんだ?」




 ☆




「レーダーに敵航空機! 距離約六十Km!」


「数は?」


「一機です。機体照合はありませんがかなり古い機体のようです」



滑稽こっけいですな。こちらの戦力に恐れをなして逃げているのか。もしそうなら向きが逆なのだが。それとも、何かしらでこちらの位置を特定し、一機単身で玉砕覚悟の特攻ですかな。なんと哀れな」


 一機、そう聞いてほくそ笑むのは上役の一人、名をジッセ・アグワ。今回の遠征に出世の道を見出しやってきた標準よりも体格の小さな男。


「はは、そう言ってやることもあるまい」


 発言とは違い、アグワの言葉に同意するようにせせら笑いをするもう一人の上役。名を、ゴゼス・アービン。アグワよりも少し年上で身長が百七十五と平均身長ながらガタイの良い男。


「むしろ向こうから主力と言えるものか知らんが、わざわざ出向いてきてくれたのだ。奇襲の心配もなく探す手間も省ける。攻撃準備だ。ミサイルがなくても落とせるだろう。こういうところで経費削減するのもマネジメント能力の差よ」


「確かに。それに、あれを落とせば工業区の抵抗もなくなるかもしれませんな。しかし、こちらに来るまで待っているほど我々には暇な時間がない」


「そうだな。逃亡か、特攻かは知らないが早々に撃ち落としてくれる。どうせろくな武器も積んでおらんだろう。旗艦を進めろ! 主砲の範囲に入り次第攻撃開始!!」


「了解しました! 旗艦高度上昇、エンジン出力七十パーセント! 主砲用意、全砲門レーダーに映る飛行船を標的に! ミサイルは温存せよ!」


「敵艦との距離五十五Km!」


 さっさと沈めて目的の起動核を回収すれば昇進は確実。早く決着をつけて、この手を煩わせた責任をどう押し付けてやろうか。上役の思考は既に勝利の後の処理へ切り替わっていた。









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