第29話 補給に立ち寄り
アルクスは亜空間航行から通常航行へ移行した。ホーロン星系へ移り、巡航速度のまま航行中にある。これから先、特に急ぐようなスケジュールはないので、燃料を節約した状態で進んでいるわけだ。七時間ほど睡眠をとり、現在はブリッジにて話をしている。ブリッジでは引き続きエルベルと、加えてカラトロスとスイビーが滞在している。
〔巡行航行でホーロンの第三宇宙ステーションまで約二時間ほどです〕
「わかった、このまま予定通り進んでいこう。向こうのステーションには到着予定時刻を送って」
〔通信による連絡を入れました。――返信が来ました。入港口付近が込み合っているので、注意するようにとのことです〕
「やっぱり込み合ってるか。予約を取っておいて大正解だね」
「予約を受け付けているステーション側も、こうなることは予想してはいたでしょうから」
「さすがにドックの予約はできなくても、ドッキング・ベイになら可能って話だったからね」
ドッキング・ベイは、ドックを介さないステーションの
それから今回は予約を取っているけど、ドッキング・ベイの利用時間は五時間ほどまでとの提示だ。向こうも今のような忙しい時期は利用者を効率的に回したいのだろう。
「特に長居するつもりはないから、補給を終えたらその一時間後には出発する。僕は補給中は船内のチェックをするから、手伝い以外は自由行動とするよ。何かあれば連絡して」
「わかりました」
アルクスは巡航速度で二時間後、ホーロンの第三宇宙ステーションへ到着。予定していたドッキング・ベイに
「システムチェック開始、モニターにゲージ管理を表示」
〔システムチェック始動します〕
長旅の前のシステムチェックに集中する。以降は大抵、簡易的システムチェックを多用するだろう。時間をかけてのチェック作業は難しい場面も出てくると予想している。アルクスほどの大きい艦船なら、演算処理が早くてもかなり時間がかかるからね。要所のみのチェックにしても分単位で時間が掛かるんだ。
時間をかけてチェック漏れがないように、気を付けながら作業を進めていった。
「チェック項目の異常なし。補給リストは端末にある分だけだから支払額も少ないね。後は行先の宙域について新しい情報が拾えるか試してほしい」
〔周辺宙域のニュースは、主にワープゲート周辺の最寄りステーションなどの利用率の上昇について。利用者の込み合いについての情報記事が大半です。公募についての追加、変更の情報はありません。帝国の公式掲示にワープゲートの込み合いが発生している旨が記載されています〕
「それ以外でも、特に変わった情報はなさそうだな」
「ワープゲートが込み合うから、順番待ちはあるだろうね。人数は絞ってるって言っても、その参加者の護衛なり資材や補給物資の運搬業者を雇ってる奴もいるだろうさ」
僕はカラトロスの予想に頷く。公募が始まってから、ちらほら見かけるようになっていた人員の補充募集や、運搬の手伝いなんかが募集依頼が出されていた。僕が居た惑星ケッシュのラスアンク街でも徐々にその募集要項は多岐にわたり増えていったことを覚えている。
「そうだね。だけど、そんな序盤から補給や資材とか連れていく意味ってほとんどないと思うんだけど。補給が必要になればステーションに戻ってくればいいし」
「現地で補給物資を売り捌くのが目的の連中もいるかもしれないよ?」
「そういうのはフリート規模の関係上あるかもしれない。それでも、邪魔になりそうなら監視から注意や足止めはされるかも」
「軍や保安警備の船だけじゃ管理できないかね」
「それほどの規模になるなら管理する側も対策をするんじゃないかな。航路を邪魔されなければ、僕らにはそれほど関係ないかな。ぶつからない様にだけ気を付けておこう」
補給を終えてからいざ出発する。
「
〔ステーションから十分距離が離れました。ワープドライブ起動、シーケンス始動オールグリーン。続いて亜空間フィールド展開完了、目標の座標固定しました。ショートワープまで、……3...2...1、ショートジャンプを起動。本艦は亜空間航行に入りました〕
「ワープゲートまでの座標はもらってるけど、変に近いところまで行くのは事故の元だ。時間がないわけでもないし、日程よりも早く着く予定だから問題ないでしょ」
今回はショートワープなので、数時間で通常空間に移る。ブリッジでこれと言ってやることもないのだが、スイビーが飲み物を差し入れてくれた。
「ありがとう」
「フリーゲート艦らも早い段階で調整は終わっとるし、うちらもそこそこ暇になってるからなあ」
「出力調整とかシステムの書き換え、装備のプリセットも設定してたんでしょ? おつかれさまだね」
「時間はもろうてたし、うちらからしたら大したことあらへんわ。それより、キャプテン。アルクスのフライト時間を消化するのはわかるけど、そろそろフリーゲート艦の方にも乗ってあげてや」
「それはもちろん。調整が終わるまでは任せっきりになってたからね。都合を見て乗船させてもらうよ」
「そんならいいけど。あの子ら、なんやかんやで300mくらいはあるからな。いじり
「アルクスの大事な護衛でもあるからね。これから先、彼らにはたくさん頼ることになるだろう」
暇をみて様子を見にいってたんだけど、調整中にお邪魔するのは悪いかなって思ってた。多少、話をしたりする程度はしてたけどね。それを言ったら、気を使い過ぎだとスイビーに呆れられたよ。そんな雑談をしていると良い時間になったらしい。
〔ジャンプ終了、システム異常なし。周囲環境スキャン、付近に障害物なし、光速航行へ移行します。レーダーで感知できる範囲に数隻の艦船を確認。進行方向は、ワープゲートの方向と予想されます〕
「この辺りからは行先は同じだろうね」
〔光速航行で目的地まで、約二時間を予定しています〕
「目的地に着いても、しばらくは並んで待たされることになる。軍か保安のどちらかに連絡を入れて予定を聞いたら、問題ないようなら僕はしばらく休ませてもらうよ」
「わかったわ」
☆
ワープゲート付近のエリアまで接近した頃から、色々な艦船を見かけるようになる。途中から保安警備船が哨戒警備に当たっているのも見かけた。この分だと、僕らみたいに早くから陣取って並ぼうとする参加者は多いのだろう。
「あ、あれなんかは500m級の採掘船かな? 軽装だけど武装がいくつも見える」
「あちらには輸送船もありますね。周囲に戦闘艦が付いているようです」
「さすがに非武装船だけで参加っていうのはなさそうだね」
「キャプテンが組んでたプレハブ型みたいなのは、参加はで可能ですがゲートをくぐる順番を後ろにずらされているみたいですよ」
「あー、さすがに航行速度に差があるからね。仕方ないと言えば仕方ないか。ハワードさんのところで組んだ船で参加してたら、僕らも順番を下げられてたんだろうね」
ある程度どんな船で参加しようと自由なわけだが、いかんせん艦船の速度性能は標準より下と言うのは
「今も性能差がある艦船は下がらせてるね。問題なければ到着した順番に並ばせてるみたいだけど」
他の艦船を横目に座標と一緒に送られてきたグループの待機場所へ向かっている。アルクスのような大型の艦船はちらほら見かけるが数は少なく感じる。ワープゲートが起動される予定の期日までまだ時間はあるのだし、そのうち到着してくるのだろうか。
〔目的の座標に到着しました〕
「早速だけど保安警備船に連絡を入れようか。通信を送ってほしい」
〔通信コール中、保安警備局の艦艇と連絡が取れました。音声のみの通信です〕
「わかった。出してくれるかい」
『こちら保安警備局。公募の通知書と本人確認の為IDを確認します。データを送ってください』
「了解しました。添付データを送信します」
『――データを受け取りました。はい、確認が取れました。到着、お疲れ様です。これよりワープゲートの起動までは、と八十九時間後を予定しています。期間中は滞在する場合、エリアから離れない様に願います。離れる場合は連絡を必ず入れてください。
順番を順守し、他の艦船との不要な接触は控えてください。連絡事項が発生した際、こちらからエリアに向けメッセージ通信を行います。通信システムはかならず起動した状態で維持してください。質問等なければ通信を終えます』
「わかりました。通信終わり」
到着の連絡も待機の指示も終えたし、予定通り後は休むだけだ。ゆっくり伸びをしながら席を立つ。フーリカンに後の事を任せ自室に向かった。
それから八十二時間が経過した頃、ブリッジでくつろいでいると保安警備局から通知が送られてきた。
「ゲートの開放は予定通りか。僕らのグループは解放後から四時間後ね」
「周囲の船も静観していますし、問題はなさそうです」
「そうみたい。ワープゲートをくぐった先で、また順番待ちがあるそうだけど」
「これだけの艦船が利用するわけですから、時間が掛かるのでしょう」
開拓に乗り出す参加者というのは、少なく見積もっても一グループにつき十口ほどだ。その一口に対して護衛や運搬の船が付きそうと考えても、やはり最低でも二、三十隻の船が動くことになるみたいだ。それをひとまとめでゲートを通るわけだから、時間が掛かるのは頷けることだた。
時間が過ぎてワープゲートの起動が通知された。前のグループが順調にゲートをくぐっていく。これから利用するワープゲートは超巨大な円形の輪っかになっているものだ。形状は様々あるけど、わりとオーソドックスに利用されているので見ることが多い。
さらに時間が経過して、僕らのグループがワープゲートを通過しようとしたところで問題は起こった。
スペースファクター 稀にある宇宙整備士の非日常 ツヴァイリング @mukai-yui
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