[第二章:説得。秘密への接触。]その7
『不良生徒、不良生徒どもぉ!!!』
全高三十メートルほどの四脚機体の頭部に埋まった、教師AZの声が響く。
それと同時に、長い腕が、その先のドリルが勢い良く動かされ、周囲のものを次々と吹き飛ばしていく。
「いやぁぁ!?」
「やめておくんなせー!」
「きゃぁぁ服が破れてぇ!?」
「うぶぎゃぁぁぁぁ!!」
「おっぱぁぁぁぁぁぁぁぁいい!!」
巨体となったAZが動くたびに、集まっていた[情報総合体]たちが蹴られて吹き飛ばされ、次々と悲鳴が上がる。
その中で、リメとノイエは慌てて逃走する。
「な、なによあれぇ!?」
「ハイレイヤーたちお手製の兵器じゃな。さっきの放送から分かる通り、あやつらは怒り心頭の状態じゃ。儂らを排除するために、刺客としてさし向けたんじゃろ」
冷静な分析を以って、ノイエは言う。
「でもなんか様子おかしくない!?さっきから不良生徒しか言ってないわよ!」
「戦闘用に改造でもされるとるんじゃろ。ハイレイヤーならやりかねん」
「それじゃぁ話は通じないの!?」
「じゃろうな」
などと会話をする二人の方を、AZが視線を寄こす。
そして、両目を勢いよく開く。
『不審者一号、二号!不良生徒ぉぉぉぉぉ!!』
その叫びと共に、AZは巨大な四脚を動かし、リメたちの方へ迫ってくる。
『不良ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
動くたびに、ドリルが振るわれ、周囲の建物に突き刺さる。
すると、空間に溶けるように接触部が消えるのが、確認できた。
「まさか、あやつらウイルスの機能の疑似再現をやったのか!?勢いでなんてことを!」
「…それは不味いわよね、ノイエ」
「迂闊に食らえば、消滅の危機じゃ!」
「ど、どうすれば…!」
そんなことを言っている間に、AZは迫ってくる。
「…あんなもの、簡単には倒せん…しかし、早くせねば…」
ノイエは焦りを声ににじませる。そして、何かを思い浮かべながら、
「…こんなことには」
などと呟いた。
「…あ、ノイエ、ルキューレが!」
「なに?遅れ気味であったあやつが?」
リメが指さす方向には、第一階層と第二階層を繋ぐ塔の先端がある。彼はその出入り口の穴から、手を振っているのだ。
「あそこへ急ぐのじゃ!」
「分かったわ!」
頷くリメと共に、ノイエは塔へと滑り込む。
そこでルキューレの袖を掴み、中のカーブを転がり落ちる。
「な、何を!?」
驚く彼を余所に、ノイエは転がるに任せる。おおよそ二十秒立ったところで回転が終わり、彼女らは立ち上がる。その際の位置は、第二階層の少し下あたりだ。
「いきなり転がすなんて…ノイエ」
変な転がり方をしたせいか、足がややねじれているルキューレが不満を言おうとしたとき、AZがちょうど上を通過する。塔の先端をドリルで消滅させながら。
『……』
全員が、無言で上を見上げる。その視線の先である、AZが通り過ぎた後には、穴だらけになった塔の先が見えた。
「…あ、危なかったわね」
「そのようですね」
「じゃな」
全員が冷や汗を書きながら、頷く。
それから、彼女らはAZがいったん離れたのを確認したのち、状況確認に入った。
「状況を整理するぞ。今現在、儂らは暴走するAZ…そうじゃな、BAZ(バーサークアズ)としておくか。それに襲撃され、追い詰められた状況にある」
BAZはいまなお暴走中だ。第二階層を走り回り、協力者やそうでもない者、無関係のものまで蹴り飛ばし、消滅させている。
「…このままでは、大会の開催などできなくなる。下準備すら満足に終わらせることができず、協力者もいなくなって、全てがご破算になる」
「…そうね。このままじゃ、不味いわ」
リメが冷や汗を流しながら言う。
「強大なるハイレイヤーの刺客。奴を討ち取らねばならん」
「あの、ウイルスみたいことができるのをね」
「今儂は、[フィールドガジェット]をリメ用と、実演用とその予備、計三つの[フィールドガジェット]を持って居る。儂は[情報総合体]ではないから、お主ら二人しか、戦力はおらん状態じゃ。まぁ、儂も出て支援するがの」
「……」
ルキューレは腕を組んで無言だ。
「じゃが、奴を排除しない選択肢はない。とっとと潰し、早く進めねばならないのじゃ」
ノイエは視線を鋭くして、ルキューレを見る。
同時に、背中のロボットアームに持たせていた袋から、[フィールドガジェット]を二つ取り出す。
「お主なら暴走の心配はなかろう。頼むぞ」
言いながら、ノイエはルキューレに近づき、[フィールドガジェット]の一つを差し出す。
それを見た彼は沈黙ののち、
「…すみませんが、できません」
腕組をといて、そういった。
「なんじゃと?」
ノイエはその言葉に、顔をしかめる。
その一方で、ルキューレは話し始める。
「ノイエ。あんなのがそう簡単に倒せないのは分かるでしょう?あまりに大きすぎるし、危険すぎる。ここで二人突撃したところで、あの攻撃範囲の前には、無力です。ここは逃げるべきです。例えこのままでは大会開催が止まってしまうとしても、そうすべきですよ」
「ルキューレ…?」
リメが驚いた様子で言う。
娯楽のため、AZを倒した彼が、そう言うのが意外だったようだ。
「勢いでAZを倒してしまった僕が言うのもなんですけどね。…冷静に、落ち着いて考えてみれば分かるでしょう?無理だってことが」
「いや頑張れば…どうにかなるかしら?」
リメは首をかしげる。その様子を見ながら、ルキューレは続ける。
「一度、ここは引くべきです。ハイレイヤーにしてやられた状況なのは、少し癪ですが…ノイエ、君は[職人]なんだから、あのデカブツを倒すものぐらい、できるでしょう?それをつくってから挑むべきですよ」
その言葉に、ノイエは否定の声を上げる。
「ダメじゃ、それは」
「…どうしてです?」
「確かに儂は、時間をかければ、BAZを倒すものはつくれる。じゃがそれには、一か月以上の時間を要する。[情報子]を操って一からものを組み上げるのは、そう簡単なものではないのでな」
ノイエは、自分一人しか手がない事も考えつつ、そう言う。
それを受けたルキューレは特に気にするようなことでもないとし、こう発言した。
「じゃぁそうしましょうよ。僕たちには…十分な時間があるんですから」
その言葉を聞いた瞬間、ノイエは。
「…ないわ、そんなもの」
吐き捨てた。
「…何をそんなに急いでるんですか、ノイエ」
ルキューレは、不機嫌そうに眉を寄せる。
「…急いてはことを仕損じる、現実の方ではありますが、そう言うでしょう?焦って無謀なことをするより、多少時間や手間がかかることを許容して、確実にやった方がいいです。娯楽を潰したくはないでしょう?」
「そうじゃが…」
「やれるなら、いいいんですよ」
ルキューレはどことなく軽さを感じさせる口調で言う。
「…違う。おぬしは勘違いしておる」
対して、ノイエは肩を震わせながら、低い声で言う。
「…なんですか?問題ないでしょう?ノイエは急ぎすぎなんです。そのせいで既に、説得でマイナスになっているでしょう?」
「それがなんじゃ。…早くせねば。早く、絶対に、やらねばならんのじゃ」
ノイエは鋭い視線をルキューレに置く。
それを受けた彼は、迫力に押されて数歩後ずさった。
「…なんですか」
負けじとばかりに、ルキューレはノイエに視線を返す。
そうして、二人の間に険悪な雰囲気が漂う。
どこか、娯楽に対する温度差のある二人は、その意見を対立させ、沈黙を溜まっていた。
「…二人とも!」
そこに、一つの声が割って入った。
「…今、そういうことしてる場合じゃ、流石にないんじゃないかしら?」
リメだ。ルキューレとノイエの様子を見かねてのことのようだ。
「…私には、なんか頑張ってどうにかする、ぐらいしか思いつかないけど。それでも、そんなにらみ合いしているのは違う気がする」
『リメ…』
二人が、同時に言う。
だが、それに気づいた途端お互いを見て、そっぽを向く。
その様子に呆れるリメではあるが、そこに言及せず、
「とりあえず、私はあのおっきいのをすぐにでも倒したい。あんまりゆっくりはできないの」
ルキューレに向かって、説得するようにそう言う。
その言葉を聞いた彼は、じゃっかん釈然としない漢字を残しつつも頷く。
「…まぁ、リメが言うならそれでもいいですが。…だとして、あんなのどうやって倒すんです?僕が必殺技をあてたところで、びくともしなさそうですよ?」
「…それは、そうじゃな」
困った様子で、ノイエとルキューレは腕を組む。
リメもそうして考えるが、何も思いつかないらしく、すぐにため息をついた。
そんなときである。
「へぇ。困ってるんだね」
『…?』
ふと、下の方から聞こえた声に、三人が顔を動かす。
そうして見た、カーブの下の方に立っていたのは。
「じゃぁさ。僕に任せてよ。これもヴ…いやいや、なんでもなんでもない」
慌てて発言の内容を誤魔化す、記印であった。
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