エピローグ

 ブラックリメが引き起こした騒動から一週間が経った。

 ウイルス発生装置はVBによってブラックリメの捕獲後すぐに廃棄され、[プロトフィールドガジェット]もノイエによって解体されている。

 また、ノイエは悪用されそうな一年前の、解体し忘れた作品を全て処理。

 それが終了したのち、ルキューレたちは住人の誤解を解きに行った(ちなみに、AZは授業再開のため、ハイレイヤーの元で教科書作成などに勤しんでいる)。

「……君たち、ブラックリメの放送を見たでしょう?全ては彼女が仕組んだことなのです。リメは冤罪なんですよ」

「…私らそれ知らんが?」

「…ううむ」

 ブラックリメが調子に乗って映像を流してくれたおかげで、起きてそれを見た住人は容易く説得できた。それでも、時間帯が時間帯だったために見ていない住人も多く、特にVBがリメたちを誤って捕まえたとき、恨み言を言った者たちの説得は困難を極めた。

「……違う。リメは悪くない。悪いのは今城の牢に入れられてるブラックリメ。…あとノイエ」

「…そうじゃな」

 だが、恨みが強い住人たちは、信頼を寄せるVBの言葉である程度態度を軟化させることができた。加えて、ノイエが一年前のことで名乗り出て、彼女を散々痛めつけて留飲を下げさせたことなどで、大会の参加は拒否されたものの、恨みから邪魔さないことを約束してくれた。

「…さぁ、どんどん再説得してやり直すわよ!みんな、ついてきて!」

 道中そんなふうに手こずりながらも、リメの言葉でやる気を維持するルキューレたちはおおよそ五日間で、ついに誤解を解き、悪印象の払拭に成功したのであった。

 …そして、一日の準備期間を経て、その日は再びやってきた。

「…みんな、ここまでありがとう」

 [第七階層]の城の中で、リメは言う。ルキューレに、彼についてきたカワシュに、ノイエに、彼女を監視するVBに、彼女についてきた記印に。目的は違うものの、結果的に協力してくれた者たちに。

「…これで参加してくれるみんなも、ペタも。楽しくなれるわ」

 全ての準備が改めて完了した今、大会の開催を再度宣言すれば、それで全てが終わり、そして始まる。

「…そうですね。僕も一参加者として、楽しませてもらいますよ。…大会で領域展開使えないのだけは残念ですが」

「…あれは使えたら不味いのじゃ。対戦バランスの都合な?分かっておるじゃろ?」

「まぁ、はい」

 仕方がない、といった風にルキューレは言う。

「…それは、それとして。リメ」

「…何?」

 不思議そうに彼女は言う。

「…ありがとうございます」

「え?」

「君が今まさに開催しようとしている大会は…娯楽は。退屈に退屈を重ねていた僕にとって、大変素晴しいものです。嬉しいものなのです」

ルキューレは微笑む。

「…そして、それに至るための、説得とか色々なことも、それなりに楽しかったです。

…だから、ありがとう」

「そう。なんかよくわかんないけど、楽しんでくれたなら、嬉しいわ」

 リメはルキューレに笑い返す。

 そんな二人のやり取りにカワシュが少しだけ寂しそうにし、彼に抱き着いた。

「…くそ雑魚お兄ちゃん。いいから行こう。早く…!わたちぃと一緒に!」

「え、あ、はい」

 リメを軽くにらんでから、カワシュはルキューレを押してその場を去る。

「…なにあれ?」

「さぁな」

 首をかしげるリメにノイエが肩をすくめた。

「…そろそろ時間じゃないかな?早くやってくれないと、VBちゃんが監視止められないよ?」

 やはり笑顔の記印の言葉に、リメははっとし、

「そうね。それじゃぁ、行くわ」

 三人に言って、一週間前に行ったあそこへ、彼女は共に進んでいく。

 そして、月当たりの扉を開ける。

「…マイク準備よし。それじゃぁ」

 リメは、広場を見る。そこには、以前ほどではないが、それでも結構な数の住人が集結していた。

「…行くわね」

 ノイエに目くばせをし、頷きを返してもらったリメは、マイクを持って声を張り上げる。

『みんなぁ!集まってくれてありがとう!今ここに、宣言するわ!』

 一呼吸。その後に、最も元気な声で、彼女は。

『大会の開催をね!』

 満面の笑みで。


▽―▽


「逃げるなよ?ブラックリメ。そのうちVBがお前さんの処分を決めに来るんだからな」

 [第七階層]の城の牢。そこに、彼女は囚われている。

 以前門番をしていた武士に監視されながら。

「…ねぇ。一ついいかしら」

 涙目でブラックリメは言う。

「…なんだい?解放はしないぞ?」

「…じゃなくてぇ。私の名前は…」

「は?何を言ってるんだ?ブラックリメだろうに」

 その言葉に、彼女は勢いよく首を左右に振る。

「違うわよぉ!…もう…カワシュちゃんが言ってるときはまだ我慢できたけどぉ…一週間ずっと言われたら耐えられないわぁ!」

 ブラックリメは、あまり興味がなさそうな武士に向かって叫ぶ。

「私の名前はぁ!」

「ブラックリメ」

「だから違うってぇ!」

 …その叫びは、処分を下しに来たVBに、遮られるのであった。

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GヲYの物語 結芽月 @kkp37CcC

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